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テンプレ異世界召喚に巻き込まれたデュエリストですが、持ち前の魔導書(デッキ)で何とか頑張ってます  作者: 秋月静流


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2話 有罪

 明朝。

 晴天とはいえないが、視界が利かないほど荒れ狂っていた吹雪は止み、曇天の空を覗かせていた。

 現在はまったくの無風で昨夜の暴風が嘘の様だ。

 とはいえ寒さは変わらず、シンシンと建物内へ忍び寄ってくる。


「天候も大分回復してきたけど……結構冷え込むな」


 曇りの為、放射冷却の影響ではないのだろう。

 だが外が覗き見える窓ガラスは結露していた。

 入室後、レミットの為に新しい薪を暖炉にくべながら悠馬は思わず愚痴った。

 夜が明けるのを待って軽く周囲を見回りしてきたのだが、辺り一面白銀の世界。

 地平の果てまで、どこまでも続く雪原が広がっていた。

 人家がある辺りまでいったいどのくらい掛かるのやら。

 ティナが所持する薬草の残量も心許ない。

 それに本職でないティナの対応はあくまでその場しのぎ。

 早めに然るべき機関で薬を購入するか、本職の医者の許へ掛からなくてはならないだろう。


「お帰りなさいませ、ユーマ様」

「ただいま、アイレスさん」

「外はいかがでした?」

「ん~窓から見える通りですよ。

 人家はおろか生き物の姿すら見えはしない」

「まあ」

「レミットを早く医者に診せてやりたいんですけど、ね」

「急いては事を仕損じますわ。

 それに昨晩から満足に休憩されていないのじゃありません?

 身体を休め、どうかレミット様の傍についてあげて下さいな。

 わたくし、ご飯の準備をしてまいります」

「ん。ならばティナも手伝う」


 悠馬が帰還したのを待って、皆の朝食を作りにアイレスは台所へ向かう。

 ティナも病み上がりのレミットへ胃に優しい薬膳料理を提供するのだと、連れ立って出て行った。

 メイドとしてシェフ級の腕前を持つアイレス。

 自炊が長い為おかん級の腕前を持つティナ。

 城塞に蓄えられていた食材も実に豊富で、今からその出来栄えが楽しみだ。

 身体はフォースフィールドとドレスアップで守られているも、荒涼とした風景で冷え切った心には温かい食事が染み渡るのだ。

 それにドレスアップの付随効果<ヴァイタライズ>により肉体が活性化(超人的身体能力の向上や体力の増強なども含む)していたが、不眠不休の疲労は澱の様な翳を落とす。

 アイレスの指摘は最もで、悠馬は素直に倣う事にした。

 レミットの枕脇に置いてある椅子に腰掛け、労わりを込めて汗でほつれた前髪を整えてやる。


「ごめんね、ユーマぁ……

 あたしが足を引っ張ってるね」


 ベッド上からユーマを見上げ、弱々しい声で謝るレミット。

 皆の献身的な看病もあり昨晩に比べ体調はすこぶる良い。

 しかし全快にはまだ程遠かった。

 旅はおろか満足に動く事もままならない様だ。

 心身共に疲労困憊していたので無理はない。

 数日は安静にして体力の回復を図らなくてはならないだろう。

 誰も気にしてないのだが皆に迷惑を掛けていると意気消沈し落ち込むレミット。

 項垂れて悲壮な表情を浮かべるレミットに悠馬は顔を寄せる。

 捨てられた子猫みたいな表情で顔を上げるレミット。

 悠馬は優しく近寄ると……

 可愛らしいおでこにデコピンをした。

 

「いたっ!」

「こ~ら、誰が足を引っ張ってるって?」

「だって……」

「俺達は望んでお前の傍にいるんだぞ?」

「けど……」

「誰だって調子の良い時悪い時があるだろう?

 お互い様なんだから気にし過ぎるなよ。

 今はゆっくり休めって。

 それに周囲の状況が分からない以上動きようがないしな。

 却って都合が良かったんだ」

「そう、かな?」

「そう」

「でも……」

「ああ、もう!

 あんまり難しく考えるな。

 病人は病人らしく大人しくしてろ。

 そうじゃないと……」

「え? あっ……」


 さらに間近に迫った悠馬の顔。

 世界で一番好きなその人の真剣な眼差し。

 見詰められるだけでドキドキが止まらない。


「だ、駄目だよユーマぁ……

 具合が悪いのが感染っちゃう……」

「風邪じゃないんだから大丈夫だって。

 それともレミットは嫌か?」

「嫌じゃ……ないよ?

 ううん。凄く嬉しい」

「俺と一緒だな」

 

 苦笑する悠馬の唇がレミットと重なる。

 互いに経験は少ない為、貪る様に求め合う。

 やがて悪戯心を出した悠馬の先制攻撃にレミットが声を上げる。


「ひゃんっ!」

「ん?」

「い、今……し、舌が……」

「所謂、大人のキスってやつだな。

 お子様なレミットにはまだ早かったか?」

「あたし、子供じゃないもん!

 ユーマとだったら全然平気だもん!」


 悠馬の軽い挑発に猛然と抗議するレミット。

 その反応こそがお子様な証なのだが。

 それならば、と悠馬は首筋に指を伸ばす。

 耳元から付け根にかけて、なぞる様なタッチ。

 羽毛みたいな繊細にな動きに我慢できず声が漏れる。


「んっ……」


 電流が奔ったかのような快感に身をよじるレミット。

 秀麗な顔が羞恥と歓喜に赤くに染まっている。

 さすがにやり過ぎたかと手を放そうとする悠馬。

 その身体が、縋りつく様に抱き着いてきたレミットに止められる。


「レミット……」

「いいよ、ユーマ。

 ユーマにならあたし……」

「ああ……俺もレミットが欲しい。

 けど……今は駄目だ」

「えっ?」


 間の抜けたレミットの声を無視し、悠馬は身を放す。

 口元に人差し指を当て静止することを要請。

 承諾したのを見届け、ドアへこっそり忍び寄り……開ける。


「いたたたた」

「あらあらまあまあ」

 

 ドタドタドタ。

 支えが無くなった為、部屋の中に雪崩れ込むティナとアイレス。

 どうやら盗み聞きをしていたみたいである。

 その仕草は滑稽でひと昔前のコメディを連想させられる。

 無論、悠馬はクスリとも嗤えないのだが。

 二人を見たレミットは先程までの自分の会話をリフレイン。

 真っ赤な顔を爆発させてシーツを頭からかぶる。

 遠くから見ると巨大なカタツムリのようであった。


「何をやってるんですか、アンタ達は……」

「ティ、ティナは辞めるべきと反対した!

 朝食のハムエッグを何個にするか尋ねに戻ったら二人の声が聞こえて。

 声を掛けるつもりだったけど、アイレスが愛し合うレミット達を二人にしておけばきっと燃え上がりますわって言って……よって私は無実」

「ふ~ん……なるほど。

 事情は分かった」

「ほっ。

 さすがユーマ裁判官、話が分かる」

「ティナは共犯じゃないんだな?」

「そうそう」

「ティナは巫女だから世俗の事に興味はないもんな?」

「うんうん」

「そういえば何で覗いていたんだ?」

「それは勿論面白いからに決まって……

 って、はっ!? しまった!」

「……語るに落ちたな、被告人ティナ」

「ゆ、ユーマはズルい!

 誘導尋問は裁判では拘束力を伴わない!」

「覗き見の時点で有罪ギルティだ、お馬鹿!」

「戦略的撤退!」


 ティナの頭に鉄拳制裁を加えようと拳を構える悠馬。

 自分の立場を理解したのか火急的速やかに逃走するティナ。

 脱兎としか形容できないその逃げざまは、むしろ鮮やかといえる。


「さてアイレスさん……

 何か弁明は……」

「ユーマ様。

 その前にわたくしからも一言よろしいでしょうか?」

「あっ……」


 ティナ同様、覗き見していたアイレスを窘め様とした悠馬だったが、自分を見つめる彼女の真剣な瞳に思い止まる。

 長年仕えてきた自分の主。

 けどレミットが望むからとはいえ、どこぞの馬の骨に汚されることを快くは思わないだろう。

 配慮が足りなかった。

 自責の念に駆られ顔を落とす悠馬。

 しばし重苦しい静寂の後、アイレスが大事な事を切り出すように口を開く。


「ユーマ様……昨晩からお礼を告げる事も出来ず申し訳ございません。

 レミット様の想いを受け止めて頂き、まことにありがとうございます」

「い、いえ……

 俺もレミットを想ってるのは事実でしたから」」

「それは重畳。

 相思相愛なのはわたくしにとっても喜ばしいですわ。

 ただ……」


 眉をしかめるアイレス。

 心底理解できないといった感じの指摘に悠馬は身を竦ませる。


「どうしてわたくしを同席させて頂けないのですか?」

「……え?」

「こう見えてわたくし、結構巧みなんですよ?

 まあ残念な事にまだ経験はありませんが。

 メイドの教育として一応手解きを学んでおりますし」

「は、はい?

 ……え~っと、何のお話でしたっけ?」

「ですから不慣れなお二人をサポートする為、閨の際はわたくしを同席させて頂きたいという要請の件ですわ」

「は、はあ……」


 あまりに予想の斜め上を行くアイレスの要望。

 悠馬は気負っていた分肩透かしをすると共に、アイレスの真剣さに戦慄を覚えるのだった。





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