7話 感触
結界で隔絶された闘技場が崩壊していく。
悠馬はそんな光景を荒い息を付きながら眺めていた。
命を懸けたデュエル。
結果こそ悠馬の快勝だったが、その心理的負担は大きい。
デュエル中は気付かなかったがあの僅かの間にかなり疲労していた。
全身が汗だくだし、下肢に無駄な力が入っていたのか足元がフラフラする。
そういえば頭も霞が掛かった様にぼーっとしている。
「大丈夫、ユーマ!?」
「御無事ですか、ユーマ様?」
悠馬に駆け寄って来るレミットとアイレス。
結界で覆われていた為、デュエル中の悠馬に手助けは出来なかった。
声さえも届かない絶対結界の為、その無事を祈るぐらいしか出来ないのだ。
自分の為に悠馬を争いに巻き込んでしまった事に対し、レミットは申し訳なく感じる。
けど悠馬が奮戦してくれた事は本当に嬉しかった。
自分が悠馬の立場だったら果たしてあんな風に戦えるだろうか?
召喚術師達の決闘たるデュエルは常に命懸け。
負けた方はかなりのリスクを背負せられる。
時には命すら失う事もある。
それなのに悠馬は殆どない見返りの為に戦ってくれたのだ。
強き人の勇壮さは普通。
けど弱い人の振り絞った勇気は何にも代え難い。
自分でも少しチョロいな~と思いつつ、レミットは悠馬にドキドキしていた。
それにしても恐るべきは悠馬の持つ魔導書の力だ。
半透明な結界である為、観戦は出来た。
その中で繰り広げられたのはお行儀のいい試合ではない。
まさに魔戦の名に相応しい戦いだった。
互いの秘儀を尽くす召喚術師達の決闘。
ドラナーとて決して未熟な術者ではない。
苦も無く火力を操り火蜥蜴を使役する。
やり様によっては単独で砦を攻め落とせるのが召喚術師の力だ。
そんな熟達者を相手に悠馬は圧倒した。
見た事もない技術体系と偉大なるガーディアンの召喚によって。
しかも大天使の召喚などは聞いた事が無い。
もしかしたら悠馬の力は古の召喚術師、全ての召喚術師の始祖とも言われる伝説の<ユーナティア>に匹敵するのではないか?
胸中に浮かび上がったその疑問が、レミットの足を止める。
その瞬間、フラリっと倒れ込む悠馬。
「危ない!」
咄嗟に抱き締めようとするレミット。
しかしどのような偶然が働いたのか?
両手を広げ悠馬を受け止め様としたレミットを器用に避け、何故か悠馬は隣りにいたアイレスの豊満な胸に顔から突入する。
顔中に広がる極上の感触。
だが残念ながら今の悠馬にそれを楽しむ余裕はない。
貧血にも似た眩暈の中、必死に倒れない様、手にしたものを掴み込む。
そんな悠馬を支え込もうとするアイレス。
結果、アイレスは押し倒された。
何故かはだけたメイド服の胸元に悠馬を抱え込むカタチで。
そこに如何なる物理法則が働いたのか、本当に謎である。
「あらあら、まあまあ。
こんな明るい所で……
ユーマ様は随分と積極的な方なのですね。
どうしましょう、レミット様?」
手を広げた間抜けな姿のまま驚愕に固まるレミット。
押し倒されながらも穏やかに呟き、苦笑するアイレス。
その瞬間、湯沸かし器の様に上気したレミットは叫ぶ。
「し、知らないわよ!
この……ヘンタイ!」
バチン!
のほほんとした天然なアイレスに成り代わり、
悠馬の所業に対する然るべき報いが再び悠馬を襲うのだった。
因果律を歪める幸運(ある意味不運?)とチョロインの話。
題名を砕けた感じにしてみました。
あと恐ろしいミスもあったので、これも訂正。
どうかこれからも応援宜しくお願いします。
もし良ければ伝説の召喚術師<ユーナティア>の話もどうぞ。
世界観がリンクしてるので楽しめるかと思います(異世界でメイド喫茶~)。