三章<黄昏>
「「さ、さむ~~~~~~~~~~~~~い!!」」
白銀一色。
真っ白に染め上げられ視界の効かない雪原。
荒れ狂う天候の中、悠馬達の悲鳴がコダマする。
転移した悠馬達を待ち受けていたのは大自然の猛威だった。
寒さを通り越し、最早痛さを訴えるレベルとなった吹雪が叩きつけられる。
思わず思考停止に陥りそうになる悠馬だったが、そこは召喚術師。
過酷なこの状況にすぐさま対応を行う。
凍える手でデッキを確認しフォースフィールドを展開。
強引に風雪をシャットダウン。
紅のドレスアップを行い、冷え切った皆の身体を温める。
「だ、大丈夫かみんな!?」
「ん。ティナは無事。
悠馬に倣ってフィールドを張った」
「わたくしも問題ございません。
メイドの嗜みとして暑さ寒さに対しての耐性はございます。
ただレミット様が……」
「な、何よ……
大丈夫なんだからね、あたしは」
優しく抱きかかえるアイレスに対し気丈に応じるレミット。
ただ……いつまでも震えが止まらない身体や、荒く乱れた息遣いを見るまでもなく、辛そうな状態なのは明らかだった。
無理もない。
衝撃の婚約宣言から悠馬への告白。
叔父の死と逃避行の連続でレミットの身体は限界を迎えていた。
今も倒れそうになるのを何とかアイレスに支えてもらっている感じである。
お嬢様育ちであるレミットにとって、徹夜も加えた今夜の行動は心身共にかなり負担だったのだろう。
さらにレミットの持つ特異消去力が悪い方に作用していた。
場に張り巡らすフォースフィールドは無効化されるまで時間が掛かるので問題ない様だが、レミットを対象にしたドレスアップ効果<超温冷>能力が打ち消されてしまうのだ。
周囲の空気を温める事でどうにか対処しているも、根本的な解決にはならない。
このままでは体調を損ねるのは確実だ。
「アイレスさん、これを!
レミット、少しだけ待っててくれ」
以前にも召喚した<スレイ帝国貴婦人のドレス>を手早く召喚すると悠馬は状況の打破に掛かる。
ドレスは特定色に対するプロテクション(防護)を持つ。
その意を汲んだアイレスはドレスを羽織り、能力を起動。
寒さに対する完全な耐性を得た。
二着召喚されていたのでレミットの身体にも掛けるが、レミットの力で無効化されてしまう為、ただの防寒具にしかならない。
その事に焦燥を感じながらも、悠馬の動向を安堵した心でアイレスは見守る。
この少年に対しここまでの信頼を抱いている自分に驚いた。
一見頼りなそうな外見と気弱な雰囲気。
平和な<地球>から来たのだからそれは仕方ない。
アイレスが目を見張るのは、ここぞという時に見せる意志の力だ。
冷徹で合理的、鍛え上げた鋼の様な心。
仕えるレミットに対し相応しくなければ、いつでも切り捨てる筈だったのに……
いつの間にか心惹かれている自分がいた。
レミットが悲しむので大っぴらに好意は示せない。
けど天然を装ってアプローチした事が幾度かあった。
取るに足らない自分の行動にドギマギする悠馬。
そんな彼が可愛くて愛おしくて……
つい、虐めたくなる。
(この傾向……わたくしの悪い癖ですわ……)
目的の為なら手段を問わない暗殺用の機械。
感情を装う事が得意な、偽りの氷人形。
物心がつく前からそんな風に育てられた自分。
まさかこんな気持ちを想う日がくるなんて……
以前に比べ、自分はとても弱くなったと思う。
でも主であるレミットとこの少年と共に巡るこの旅が楽しくて仕方ない。
(永遠に続けば良いのですけど……そうもいきませんね)
何事にも終わりはある。
だからこそ何気ない日々の幸せが尊く感じられるのだろう。
レミットの寒さ対策の為か、巨大な城塞を召喚し喜ぶ悠馬。
確かに寒さを凌ぐには建物が一番だ。
暖炉などを使えばレミットでも暖を取れるに違いない。
しかしこの規模の大きさは必要なのか?
内心、やり過ぎですよ……
と呆れながらも、いつも浮かべてる演技した笑みではなく、飾らない苦笑が口元に浮かんでいるのをアイレスは気付かなかった。
新章の始まりです。
様々な謎の追及もですが、ラブコメ強化パートでもあります。




