31話 事故
「レミット様!」
「ご無事ですか、レミット様!」
「兄さん、御無事ですかい!」
「ユーマ!」
勢いよく開かれた扉から飛び込んできたのはアイレス達だ。
別室にいた彼等は、強制連行に従えという学院の不当な欲求を各自強行突破。
仲間を集めながら悠馬とレミットのいる客室を目指したのである。
その背後には、当面は再起不能なダメージを負った局員達が死屍累々といった感じで横たわっていた。
特にカレンの相手をした者が一番悲惨だろう。
加減の無い急所攻撃(股間キック)による致命的な一撃。
白目を剥きながら酸欠した魚の様に口をパクパクと開閉し、悶絶している。
駆け寄ってくる皆の無事を確認し、悠馬は胸を撫で下ろす。
ちらりと見えた上記の者達については、同じ男として魂の安らぎを祈った。
「みんな!」
悠馬の背から抜け出し互いの安否を喜び合うレミット。
色々とけしかけたであろうアイレスにからかわれてるらしく、表情が明るく二転三転している。
ただ最終的には何らかの報告があったのだろう。
女性陣の祝福の声と拍手に顔を赤らめながらも笑って応じている。
あたたかな太陽に向かう、向日葵のようなその笑顔。
その笑顔を見ただけで悠馬は自分の決断が間違いなかったと実感できた。
「さて、皆さん。
これからどうされるんですか?
学院も本腰を入れてないとはいえ、そろそろ追加人員が派遣される頃ですよ?」
微笑みながら皆を見守っていたメイアだったが、このままでは埒が明かないと思ったのだろう。
あくまで控えめにだが警告を発する。
メイアの言葉に慌てる一同。
確かに今はこんな風に和やかに過ごすべき時ではない。
「ユーマ殿、現状がよく分からないのだが……
学院の者達が言っていた通り、エネウス様が殺されたというのは本当か?」
「ああ、残念なことにな。
それで何故か俺に嫌疑が掛けられてる。
皆は共犯、もしくは重要参考人といった感じか」
「ええ、あっしも危うくお縄を頂戴するとこでしたよ。
まあ蹴散らしてやりましたがね」
「ティナの所にも来た。
自治統制局員<ナンバーズ>ではなく一般警備兵だったから突破も楽。
ただ……やり方というか手口が学院にしては変、お粗末」
「ん? どういう事だ?」
「対応が性急過ぎますわ、ユーマ様。
貴族殺しは大罪です。
ただ動機と状況証拠だけでユーマ様を捕まえるというのは……
あまりに横暴だとは思いませんか?
ましてここは魔導都市。
召喚術師だけならず古今東西の魔術が集う場所です。
エネウス様が殺害されたのは数時間前。
速やかに犯行現場の検証を行ったにしても……
果たしてこんな短時間で召喚術師の仕業と断定できるでしょうか?」
「つまりそれは――」
「ユーマさんを罠に掛けたい人がいらっしゃるのですよ。
先程ワタシが言った通りこの学院内に、ね」
「メイアさん……それは本当ですか?」
「間違いないでしょう。
相手はワタシ達<ナンバーズ>を動かせる権力者。
俗世間の雑事には関わらないのが魔導学院の矜持。
どこかの誰かさんはその禁忌を破ろうとしているから困ったものです」
「ならば何故、メイア様は従わないのですか?」
「ワタシが従わない理由?
確かに胡散臭い指令ですが……そんなものは簡単ですよ。
ワタシがこの魔導学院の一員であるからです。
誰にも束縛されず、知識を求む者には門を開く。
それがサーフォレム魔導学院です。
その原則を乱す者に、従う義理はあっても義務はありません。
ナンバーズとしてユーマさんを疑うという義理は果たしました。
だからこそアナタ達を何が何でも連行しろという私欲に満ちた義務に応じる事はしたくありません。
強いて言うなら……
やり方が気に喰わない、ただそれだけですけど」
「……なるほどな」
「ったく。
実にメイアの姐さんらしい答えですねぃ」
「違いない」
「メイア姉さん、カッコイイ!(きゅん)」
「それって本当に誉め言葉なんですか(苦笑)。
さあ、グズグズしてると追手が来ますよ。
急いでこの場を去りましょうね、皆さん。
あっそうそう。
あとこれは皆様には内緒の独り言ですけど……
転移阻害の術壁も張り巡らされていて鉄壁ともいえる学院の魔導防御ですが……二箇所だけ外部へ抜け出る事が可能な緊急用転移装置があるんですよ。
その場所がワタシの散歩コースにあって、
ワタシの後を尾行していた人達がたまたま発見してしまうのは……
不幸な事故、ですよね?」
てへぺろ。
茶目っ気たっぷりのメイアのウインク。
舌を出し頭をコツンとするメイアに、悠馬を含む一同は流石に「をいをい」とツッコミを入れるのだった。
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