29話 突破
自分に殺人の容疑?
いった何故――?
あまりにも衝撃的なメイアの宣告。
だが守るべき者が出来た悠馬は瞬時に立ち直る。
今は悩むより行動。
思考を切り替える事を優先すべきだ。
そんな悠馬が取るべき行動は二択。
即ち、逃走するべきか闘争するべきかだ。
勿論悠馬は手を下してはいない。
しかし用意周到に嫌疑を掛けられていた場合、否定しても無駄だろう。
誰がエネウスを殺したかは分からない。
が、自分に罪を被せるならばそれくらいはして来る筈。
メイアが告げた密室状況と、召喚術師にしか行えない犯行とやら。
真の犯人は自分と同じ召喚術師の可能性が高い。
その場合最も警戒すべき事は戦闘などの直接的な干渉ではない。
こういった搦め手だ。
この世界のデュエルでは未だ無敗の悠馬だが、権力等の見えない力に立ち向かうには立場も心も未熟過ぎる。
相手が誰かは不明。
けど自分の弱点を的確に突いてくる手法は見事としか言い様がない。
無言でデッキを構える悠馬。
澄んだ水面の様に心を研ぎ澄ませ静かに尋ねる。
「それは任意でなく、強制なんですよね?」
「はい。残念ながら」
「もし――拒否した場合はどうなります?」
「まことに遺憾ですけど――
その場合、実力行使で身柄を拘束しろと上から命じられてまして」
「随分と事務的なんですね。
俺の言い分は受け入れられない様ですが」
「厳密には違いますけど……
まあ、お役所務めの悲しいところですね。
上司の命令は絶対。
慣例の無い事は後手に回る」
「なるほど、役所仕事はこの世界も変わないか」
「はい。所詮人間の作る枠組みですから」
「はは、メイアさんは顔に似合わず辛辣ですね。
それで……
戦りますか? 引きますか?
どちらを選ぼうと――俺は別に構いませんが」
淡々と問い質す悠馬。
荒ぶる感情と共に抑えていた力を徐々に解き放っていく。
途端、魔力防護されている建物が鈍い軋みをあげる。
飽和限界を迎えた悠馬の力に悲鳴を上げているようでもあった。
これが個人の持つ力量だというのか。
悠馬を包囲していた自治統制局員達の顔に狼狽が奔る。
以前観測された魔導書の脅威値に沿った、制圧可能な人員配置。
適正だった筈のそれは――果たして正しい数値だったのか。
周囲に渦巻く、威圧感すら伴うプレッシャー。
局員達は浮き出る汗を隠そうともせず、メイアの動向を窺う。
場の注目を一身に浴びるメイアだったが、口元に浮かぶ笑みはそのままに閉眼。
悩まし気に眉を顰めるもすぐに回答を導き出す。
「では――
撤退させて頂きますね」
これに拍子抜けしたのは悠馬の方だ。
事を構える気満々だったが、とんだ肩透かしをくらった感じだ。
「ほ、本当にいいんですかメイアさん?」
「はい、勿論です。
だってこんな怪しさ満載の出頭指示ですもの。
きっと誰かの悪巧みに決まってます。
一応確認しておきますけど……
犯人はユーマさんじゃないんですよね?」
「当前です。
大体俺が犯人ならもっと賢く立ち回りますよ。
こんなすぐに犯行を露見させた上、召喚術師の関与を匂わすなんて――
下策も下策でしょう」
「ワタシもそう思います。
異世界からの客人であるユーマさんを邪魔に思う誰かがいらっしゃるのでしょうね。
世界最高峰の知識レベルを誇るサーフォレム魔導学院と、強大な力と独自の視点を持つユーマさんとの繋がりを危惧する――おせっかいな誰かさんが」
「まあそんなところでしょうね。
仮に大人しく拘留されようが、これで学院とのコネクションは立ち消えになってしまうでしょう。
単純だけど効果的ですよ。
忌々しい事に、ね。
でもメイアさんが賢明な決断が出来る人で良かったです。
もし立ち塞がる様なら――強引にでも突破する気だったので」
「怖いですね。
確かにユーマさんにはそれだけの力があります。
アナタが理知的な判断をしてくださる方でホントに良かったです。
こちらも死人は出したくないので」
「ただ……本当によろしいのですか?
メイアさん自身の判断も大事ですが――
組織で生きる以上、命令は絶対なのでは?」
「死守命令ではないので問題ありませんよ。
上層部も色々しがらみがあるんでしょうし。
それに――」
ここでメイアは口を閉じる。
悠馬の後ろに庇われているレミット。
守られている事に対する全幅の信頼を寄せる少女の姿を見て微笑む。
「数時間前の腑抜けたユーマさんならともかく――
守るべき人を得た。
たとえ世界を敵に回しても戦い抜く気概で覚悟を決められた――
今のユーマさんにはとても敵わないと思いますもの」




