6話 決着
◇3ターン◇
「大地<マナ>の連結。
その後、攻撃宣言!」
「対応で<纏いのブレス>を」
戦場と化した闘技場に響く、悠馬の裂帛の声。
それに対しドラナーは火蜥蜴<サラマンダー>の特殊能力を発動。
炎で形成された火蜥蜴の体から劫火が立ち昇り、白騎士<ブレイブナイト>の身体を包む込む。
このままでは白騎士は先程の灰色狼同様の末路を辿るだろう。
召喚術師によって招かれるのは同一の力を持った分身体だ。
そう考えれば魔導書によって召喚される者達<通称:ガーダー>は所詮手駒と割り切るべきなのかもしれない。
だが悠馬はそうは考えなかった。
自分を支え、力を貸してくれる大切な仲間。
だからこそ自分も全力をもってその忠義に応じる。
「ならばこちらは<退魔の護法印>をレスポンスで使用!」
「何ですかい、それは!?」
よって悠馬の手札から使用されるのは聖なる力を象徴する白きデッキの真骨頂たる護りの力。
術師の指定した一色のみに限るが、護法印を持つ者はその色に対し完全なる防御を得る。
白騎士はブレスを難無く擦り抜ける。
驚愕に打ちのめされるドラナー。
今まで纏いのブレスに耐えた敵はいた。
だがあのような術によって回避されたのは初めてだ。
自分の知る召喚体系とは違う未知の召喚術。
(この兄さんはいったい何者なんでしょうかねえ……)
特殊能力の発動により動けない火蜥蜴。
その火蜥蜴を尻目に、白騎士はドラナーへ体重を乗せた斬撃を繰り出す。
「ぐっ!」
パキン……
ガラスが砕け散る様な澄んだ音と共に、自分の命の身代わりとなった3枚の障壁の一つが砕けた。
痛みはないが相応の衝撃は伝わってくる。
サモンオブガーディアンズ、いやデュエルの勝敗ルールは至極単純だ。
術者を守る防護障壁を各個撃破。
その後、本体を打ち倒せばいい。
更に砕けた障壁は魔導書から新たな術を得る事を可能とする。
ドラナーは迷う事無くそれを選択した。
火の耐性を得た白騎士。
今のドラナーにアレを斃す術はない。
ならば自分も術者を狙うのみ。
溶岩地帯の拡張後、ドラナーは火蜥蜴に攻撃を命じる。
悠馬に迫る凶悪な爪牙。
その瞬間、悠馬はニヤリと笑う。
「攻撃に対応で<光輝の葬送>。
攻撃しているガーダーを戦場より強制退去」
悠馬の手札から放たれたのは光の護符。
護符は火蜥蜴の体に巻き付くとそのまま天空へと押し上げ強制昇天。
攻撃しているガーダーだけに留まるも、どんなガーダーであろうと必ず除去を行える恐るべき術だ。
「そりゃ~反則でないですかい?」
規格外の悠馬の力。
驚嘆を通し越し、若干の呆れと共にドラナーは直接悠馬目掛けて術を放つ。
「<火炎弾>」
「くっ!」
砕け散る悠馬の障壁。
これで一応条件は五分と五分。
しかし白騎士がいる分、圧倒的に状況は不利だ。
悠馬は砕けた障壁を手札にするのではなく大地の恩寵<マナ>を伸ばす事にしたようだ。
これで悠馬の扱えるマナは4つとなる。
>各ターンの開始時にデッキより1枚ドロー
ユーマ 手札 5⇒2 マナ4 シールド2
ドラナー 手札 6⇒5 マナ3 シールド2
◇4ターン◇
「清廉なる大地に<スレイヴァン大聖堂>の祝福を」
悠馬のターン。
聖別された悠馬の<場>に荘厳なる大聖堂が召喚。
天界との交流の場でもある大聖堂。
それは悠馬にとってある事を可能とする。
「白騎士で攻撃宣言!」
「通します」
「ならば大聖堂にてホーリープレイ。
祝福をもって結実とし、今ここに我は願う」
白きマナを注ぎ込まれた大聖堂が輝きを上げる。
そして放たれる白光。
厚く澱んだ雲を貫き、眩い青空を招く。
悠馬の周囲だけがまるで後光が差したように照らし出される。
儀式<リチュアル>補助。
それはこの<サガ>にとって最も大事な事の一つである。
何故ならこの儀式をもって召喚することが可能となるのだ。
このゲームの代名詞。
デッキの象徴、デッキそのものともいえるヴァイタルガーダー。
即ち<ガーディアン>の召喚である。
「天界より来たれ!
勝利呼ぶ明星<大天使アズレイア>よ!」
「我が主の望みのままに」
悠馬の召喚。
それに応じたのは6枚羽の天使。
不浄を赦さぬ破魔の剣と罪を問う計りの天秤を持つ、神々しいまでの美貌を持つ天使であった。
天空より舞い降りた天使は、ドラナー目掛け駆け出す白騎士に追走し始める。
「場に出たアズレイアの効果はランクアップ。
対象を、白騎士に」
勝利呼ぶ明星<大天使アズレイア>の効果は対象のガーダーの位階上昇。
この場合は白騎士に祝福を授ける。
瞬間、白騎士の位階がランクアップ。
白騎士<ブレイブナイト>は聖騎士<パラディン>となり、武装が強化。
二刀となった大剣、更に莫大なオーラが刃に纏う。
「絶技<スクエアブレイク>!」
「くっ……何って力ですかい!」
剛剣一閃。
聖騎士の絶技はドラナーのシールドを『2枚』まとめて打ち壊す。
もはやドラナーに守るべきシールドはない。
そして自らの場にいた火蜥蜴は前ターンに除去され無人なのに対し、悠馬の場には護法印を得た聖騎士と降臨したガーディアンたる大天使。
勝敗の行方は明らかであった。
「ふう……降参<リザイン>します。
兄さんには負けやしたよ」
魔導書から手を放し降参の意を示すドラナー。
戦場の規約が自分の反撃を封ずるギアスとなる事を問い掛けてくる。
その忠告にも迷わず承諾を出した。
デュエルの勝敗はどちらかの敗北、
魔導書のストック枚数切れ、
あるいは稀だが降参宣言によって成り立つ。
このまま命が尽きるまで戦ってもいいが、それは自らの信条に反した。
だがそんな事より何より、自分の気持ちに気付いたのだ。
この若い少年の持つ圧倒的な力、
そして何より真っ直ぐな生き方を眩しく感じる自分に。
かつて自分にも理想に燃えたこんな時代があった。
故にこのユーマという少年の行く末を見守ってやりたい、と。
敗北したデュエリストの生殺与奪の権利は対戦者に委ねられる。
特に今回の場合、隷属化が落としどころだろう。
けどそれもいいかもしれない。
依頼主には申し訳ないが、今の自分にはその方が魅力的だ。
デュエルに敗北したドラナーだったが、ここ十数年感じた事の無い不思議な昂揚を心から楽しむのだった。
>デュエル終了
勝者、久遠悠馬!
お待たせしました。
異世界初デュエル、決着です。