24話 確信
エネウスの言葉を聞いた悠馬が抱いたのは「まさか」という驚きと「やはり」という納得、その二つの思いだった。
違和感は以前から感じていたのだ。
フォースフィールドに守られている自分に対するツッコミ。
何故かレミットにだけ作動しなかった魔導トラップ。
それが確信に近くなったのは、ティナと会う前。
宿場町で宿に入った時だ。
雨に濡れた服を乾かす為、着るものがなくなってしまうというレミット達に召喚したスレイ帝国貴婦人のドレス。
センスはともかく優秀な魔導工芸品であったそれが――レミットの着用後、魔力を失いただの布になっていた。
問題なくカードに戻るアイレスが使用したドレスを見ながら悠馬は思ったのだ。
何かがおかしい、と。
しかしそれがまさか特異能力消去系とは思い至らなかった。
一般的に魔術などの無効化能力は稀ではあるものの存在する。
被覆(対象にならない)、呪禁(相手の術にのみ対象にならない)、などサガのカードテキスト能力にも多く記載されている。
だが消去系は別だ。
20年にも及ぶ膨大なカード。
その中でそれが記載されたのはたった1枚。
しかも絶版禁止カード(再録されずありとあらゆるレギュレーションで使用する事は禁止)に指定された為、悠馬ですら詳しい内容を知らない。
消去系にはそれ程の希少価値がある。
「発覚したのはホンの些細な事だ。
骨董品好きであった我が父。
その父が孫であるレミットに贈った数々の魔導具……
その悉くがレミットが触れた途端、ただのガラクタに成り果てた。
貴重なものではない。
しかし古代魔導帝国時代に付与された強力強固な魔力永続化すら打ち破るもの。
何かが変であると――我々は気付いた。
否、気付かされた。
決定的だったのは皇太子生誕祝賀会で起きた召喚術師によるテロ事件だろう。
事件自体はたまたま居合わせたリカルド殿の手により迅速に解決された。
だが――真に驚嘆すべき事はその時に起きていたのだ。
入念な準備を行い発動させた会場全域を対象とした殲滅用爆裂系術式の召喚。
発動すれば数多の死傷者は必至というそれを――
レミットは完全に消去せしめた。
召喚術師によって招かれた事象は、
原則として召喚術師によってしか干渉できない筈なのに。
まあ当の本人は知らなかっただろうがな。
不審に思った宮廷魔術師団が魔術協会と組み秘密裏に調べさせて判明したのが、先程私が言った内容。
即ち――ありとあらゆる<力>の無効化――いや、消去。
レミットこそ、その基準となるべき発生源。
つまり事象の特異点だ。
この事実に恐慌したのは魔導書を管理するレカキス一族だ。
本来<勇者>をサポートする為に設立されたかの一族は、先の大戦後、魔導書を管理施行する事で強大な権威を誇るようになった。
今となっては、恐れ多くも皇ですら容易に手出しできないくらいに。
そんな奴等の権力を支えているのは魔導書が持つ脅威。
対してレミットはその<力>を完璧に消去する。
ここまで言えばどういう行動を取るか、簡単に予測できるだろう?
奴等は生涯に渡りレミットを幽閉する為、身柄の欲求を求めた。
レミットの特異能力消去はあくまで<力>に対してのみ。
物理的な力は年齢相応の少女のそれだ。
石壁などで閉ざして監禁してしまえば何も出来なくなる。
これに断然と反抗したのは我が兄だ。
娘の将来は決して譲らない、と。
結果――兄は更迭された。
詳しくは私も知らん。
ただ権力の象徴である家紋を凍結され、蟄居閉門されているらしい。
肉親に対する盲目的で愚かしい行為だ。
それを愚行とは言うまい。
しかし私ならもっと上手くやる。
その為の根回しもしてきたしな」
「どういう……意味でしょうか?」
「レカキスを疎むのは皇家も同じ。
そして我らは公爵家の端くれ。
かつて皇家の血を戴いた一族なのだ。
ならば答えは簡単だろう?
再び血を深めればいい」
「まさか――」
「レミットの婚約を先程私が決めた。
相手は栄えある王位継承権二位。
英雄リカルド殿が守護するロクサーヌ皇太子様だ
幸い先方もレミットの事を気に入ったと伺った。
互いの利益が絡み、恩寵に到る。
素晴らしい――まさに福音だと思わんかね?」
自分が思い描く栄達への道。
幻視でもしているのだろうか?
恍惚と夢見がちな表情で喋るエネウスを、言葉もなく悠馬達はただ茫然と見詰めるのだった。




