21話 境界
「あっしは止めようとしたんですがね……
メイアの姐さんがどうしても必要な事だと聞かなかったので。
ユーマの兄さんには悪いとは思いましたが」
驚きの正体を明かしたメイア。
事の次第を聞くよりも早く、案内された部屋から顔を覗かせたのは陰鬱な表情をしたドラナーだ。
再会を喜ぶより、どういう事かと詰め寄る悠馬だったがドラナーの疲れた返事に押し黙る。
「その様子だと何も説明を受けてませんね?
困りますよ、姐さん」
「あはは、ごめんなさい。
だってその方が面白いじゃないですか」
「姐さんのセンスはハイレベル過ぎてノリ辛いんですってば(溜息)。
まあ簡単に言いますと、兄さん。
メイアの姐さんは魔導都市のアンダーカバー要員だったみたいです」
「アンダーカバー?」
「分かりやすく言いやすと――秘密捜査員。
市政に紛れ込み、様々な不和の種を未然に刈り取る役。
火消し、などの隠語で呼ばれる事もありますがね。
あっしはてっきりどこかの密偵か暗殺者や何かと思ってたんですが……
どうもお門違いだったようでして」
「アプローチが少し露骨過ぎましたからね。
でもせっかくの機会をふいにしたくはないと思いまして。
貴方が想定してる以上にこっちの世界の注目度は高いんですよ、ユーマさんは。
未だ無敗のデュエリストにして異世界<地球>の客人。
AA級クラスの災厄<ファイレクシオン>すら降した実力者。
これを機にお近付きになりたいな~と思うのは至極当然の事じゃないですか。
それにゲートの受付嬢という身分も嘘ではないんですよ?
自治統制局の仕事より最近はそちらに生き甲斐を感じてまして。
ホントに転職するのもありかな~って思ってます」
皆を客室内のソファーへ招き、屈託のない笑顔で話すメイア。
あまりの成り行きに理解が追い付かない悠馬だったが、メイアの話とドラナーの解説を受け、どうにか事態を把握する。
青いローブ姿のメイアを見た時に感じた既視感は当然だったのだ。
浮かび上がるボディラインなどの陰影がメイアを連想させたのだろう。
そして学長の言動から感じた違和感も解消される。
秘密捜査員だというメイア。
囮役を務め、リカルドとのデュエルなどで遅れた悠馬と違い、ドラナーと共に先に学院へ着いた彼女によって襲撃が伝えられたのだろう。
よって自治統制局員や学長が玄関ホールに集合していたのも頷ける。
ただ1点の疑問を除けば。
「メイアさん、一ついいですか?」
「はい、何でしょう?」
「どうして俺が異世界――
地球から来た事を知ってるんです?」
客人、とメイアは言った。
荒廃者を隷属化した事まで掌握されているのも驚いたが、デュエルの際には莫大なマナが発生する。
侵食し合う力場を観測する魔導具があっても不思議ではない。
ただそれが悠馬を異世界転移した事に繋げるものではないはずなのだ。
若干の警戒を込め、だからこそ悠馬は尋ねる。
しかし悠馬の真剣な問いにメイアは「ああ」と苦笑する。
「誤解ですよ、ユーマさん」
「誤解?」
「ユーマさんの持つ魔導書。
地球の言葉では<デッキ>って言うんでしたっけ?
そんな強大な力を秘めた魔導書が現存するのは、この琺輪世界と隣接する並行世界<地球>か妖精が繁栄している<ファイブリア>のみ。
ユーマさんはどう見ても妖精ではないですよね?
だから地球から来られたんだな~って推測出来ました」
「だからといって確証を抱くほどではないでしょう?」
「ん~これは御内密にして頂きたいんですけど――
貴方が思ってる以上に異世界からのお客様は多いんですよ、ユーマさん。
世界を超える魔術なんて昔は喪われた魔法でしか起こせない奇蹟だったんです。
けど最近は比較的容易に世界を超える事が出来る。
学院の部署にはそういった方々を相手取る<交渉人>的な部署もありますし」
「……確かに俺がこの世界に来たのも、ふとした偶然からだった。
たった1枚のカードの力によって。
でも――何でそんな簡単に世界を超える事が出来るようになったんですか?」
「あ、はい。
最もな疑問ですね。
わたし共の研究では召喚術の影響だと思われます」
「召喚術の?」
「召喚術師の扱う召喚術。
一般的には魔導書の力を通じ、異界とのゲートを開く術式。
これはかの大召喚術師<ユーナティア>によって百年程前に開発された、比較的新しいものです。
今では召喚術師の数も増え様々な産業にも扱われるようになりました。
この世界の円滑な運営に欠かせないくらいに」
「結構な事じゃないですか。
何か問題でも?」
「ええ、召喚術のもたらす恩恵は計り知れません。
見知らぬ叡智、
人を大きく超える労働力、
そして莫大な富と名声。
けどわたし達は失念していたんです。
全て事象は等価交換。
何事にも――対価が必要だと言う事を」
「?」
「この世界はですね、召喚術を使い続けた結果……
異世界との境界が曖昧になってるのです。
どちらがどちらか、分からなくなってきてしまうほど」
「なっ!?」
目を伏せて語るメイアの衝撃の告白に――
悠馬を含む一同は声を失うのだった。
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