16話 敗北
「賭け、だったんだ……」
自分のターンが来た悠馬はドロー後、俯いたまま呟く。
その声に覇気はなく、今にも消えそうな程か細い。
男は悠馬の様子に落胆した表情を隠し切れない。
敗色が濃厚な少年は弱々しく、どこか儚く見えた。
自分はこの年端もいかない少年に何を期待していたのか?
あるいは少年なら定められた頸木を断ち切れると思ったのか?
しかし全てを振り切る長い溜息の後、穏やかに微笑みを浮かべながら健闘を称える様に尋ね返す。
「ふむ――
賭けとはいったいどういう意味ですかな?」
「全ては……貴方が俺を上回るということ。
俺の最善を更に凌駕する、
最高のプレイングをしてくれるんじゃないかということだ」
「ほう――
その願いは叶えられましたかな?」
「ああ、最悪のカタチで」
「それはつまり――
リザイン(降伏宣言)という事で宜しいですかな?」
5体のガーダーが睨みを利かせる圧倒的な場。
身を守るシールドは無く、ここから逆転する術はない。
そう、通常なら――
「リザイン?
残念だが……
俺のターンはまだ終了していない!!」
銀色に輝く符を手に顔を上げる悠馬。
先程までの弱気な仕草はどこに消えたのか?
闘志を宿した瞳。
不屈に笑う口元。
全身へ漲る魔力。
まさにその姿は大胆不敵で華麗なるデュエリストの勇姿。
「貴方は強い。
その魔導書も常人なら太刀打ちできない構成だろう。
ただ強いて言えば――
強過ぎた事、それが唯一の敗因となる」
「どういう意味ですかな?
それにその銀色に輝く符、それはまさか――」
「ただ勝つならば、ここまで追い込む必要はなかった。
腐嵐王もそうだったが――
堅実なプレイングをするだけで勝利は間違いなかった。
ゆっくり時間を掛けてシールドを壊し数で攻め立てる。
あと2ターンも掛ければ完全なる勝利が貴方には転がり込んだんだ。
しかし貴方は強過ぎた。
己の力を誇示する訳じゃないだろう。
しかしそこで完璧に動き過ぎた。
どう相手が足掻いても、次のターンに詰んでしまう様な動きに全力を注いでしまった。
余力を残し、マナが残っていればどうとでも動けただろうに。
貴方は懸命に弱者が足掻く様を知らないし、理解出来ないだろう。
俺は理解出来る。
何故なら俺の本質は正直弱い。
けど、だからこそ強くあろうと鍛えてきた。
戦略を練り、
戦術を学び、
そして――駆け引きを覚えた。
絶望的な状況で何も出来ないと思ったか?
なら――騙し合いは俺の勝ちだ!」
深呼吸後、悠馬は新たな大地との契約を行う。
その色は銀色。
7色の最後、魔導工芸品に代表される魔導機械文明を司る色彩である。
「絶対なる螺子と歯車の下、我はここに新たな契りを結ばん。
機械仕掛けの神々よ、偉大なる魔導知識の神髄をこれに!
回せ、運命の糸車。
かの者達を塞き止める城塞となれ」
悠馬の投じた符が高速回転し召喚の魔方陣を形成。
やがて不可視の巨大な機械仕掛けの城塞が現れ悠馬を覆う。
「<干渉城塞ノルンフォートレス>の召喚。
紫の神域結界ほど完全な不干渉は形成出来ないが……
だが攻撃ガーダー一体につき2マナを支払わない限り、そのガーダーは攻撃に参加する事が出来ない!」
「何とっ!
まさか紅一色だけでなく銀も交えた二色の魔導書を同時に扱うとは!
ユーマ殿、まさか貴君は大陸でも数少ない二重属性持ちか!
だがそれだけでは吾輩の攻勢を遮る壁にはなりませんぞ!?」
「時間を掛けてマナを蓄えればいいって?
ふっ、その判断は間違いじゃないが的確じゃない。
みすみすそんな真似はさせない。
次の次の事態を見据えて対処するのが強い決闘者としての最低条件だから。
並びに来たれ紅の秘術<血に満ちた崩月>よ。
我と……そしてかの者が結びしマナを縛る戒めとなれ」
「それは!」
悠馬が新たに招いた戦場法則領域。
それは血の様に赤い不気味な球体。
大地に大樹の様な根を張るや否や、悠馬と男のマナ基盤に喰い込ませる。
次の瞬間、自壊しながら貪欲にマナを汲み上げる球体。
そしてそれは抜け出る事の出来ないロック(詰み)の完成でもあった。
「どういうこと……ですかな?
吾輩と、そしてユーマ殿のマナが……」
「<血に満ちた崩月>の効果はマナの束縛。
前ターンに使い果たしてしまった全てのマナは自ターンに入っても回復しない。
更に『未使用状態のマナを1つ、自分のターン終了時に生贄にする』という効果も同時発動。
これがどういうことか――貴方なら分かる筈だ」
「攻撃抑制にマナの束縛。
ガーダーを攻撃させるには2マナが必要。
しかし使ったマナは回復せず、毎ターン未使用マナを1つ生贄にしなくてはならない為、実質的に攻撃は出来ない。
抜け出る事のないロックの完成――ですな」
「貴方ほどのデッキなら、おそらく<解呪>系の領域崩壊スペルも含まれているに違いない。
ただそれには最低限2マナが必要となる。
1マナでも未使用のまま残されていたらこうはならなかった」
「貴君を侮った訳でも驕った訳でもない……
ただここまでの遣い手とは想定以上ですな」
「お褒めに預かり恐悦至極。
それで……続けますか?」
「いや、リザインしましょう。
先手を頂いてる以上、吾輩の魔導書切れが先。
そうでなくとも――構成してるのでしょう?
少ないマナ……1マナで勝利を掴めるように」
「よくお分かりで」
男の解説に感心した悠馬は手札を開示する。
そこには低コストの火力呪文や、脆弱だがブロックされない能力を持つガーダー召喚呪文が多く含まれていた。
「ハハ、流石ですな。
では『リザイン』です。
絶望的な状況の中、それでもユーマ殿は諦めなかった。
間違いない、貴君の勝利です」
敗北を自ら告げたというのに――
どこか晴れ晴れとした表情で男は悠馬の勝利を讃えるのだった。
>リザイン宣言により、勝者クオン・ユーマ!
<干渉城塞ノルンフォートレス>
魔導機械
SP 銀① 無色①
『特記』
<干渉城塞ノルンフォートレス>が場にある限り、対戦相手はガーダー一体につき2マナを支払わない限り攻撃に参加する事が出来ない。
<血に満ちた崩月>
戦場法則領域
SP 紅② 無色①
『特記』
前のターンに使い果たしたマナは自ターンに入っても回復しない。
未使用状態のマナを1つ、自分のターン終了時に生贄にする。
更新お待たせしました。
デュエル決着です。




