15話 蹂躙
◇3ターン◇
「さて、吾輩の場には4体のガーダーが顕在化している……
これがどういうことか、御理解頂けますかな?」
男はドロー後、自軍のガーダーを見渡し告げる。
悠馬の脳裏に(まさか)という思いと(やはり)という思いが交錯する。
ホードデッキの真骨頂。
無数のガーダーを横に並べる上で最も有効、かつ利に叶った動きとは何か?
答えは簡単だ。
自軍全体を鼓舞・強化するヴァイタルガーダーの降臨。
つまり――<ロード>職の召喚である。
「清廉なる大地に祈りを捧げよ。
咆哮は歓声となりて、己が仕えし主君を讃えし讃美歌とならん。
汝が威光は光輝なる太陽。
汝が偉業は高貴なる覇道。
十字の御旗の下、祝福をもって結実とし、今ここに我は願う」
聖別された男の<場>に荘厳にして勇壮なる讃美歌が響き渡る。
さらに砂嵐にも負けない、空に轟く歓声と咆哮。
それはある人物の名を讃えていた。
やがて白きマナがガーダーから立ち昇り、輝きを上げる。
そして放たれる天からの燭光。
砂漠に渦巻く厚く澱んだ雲を貫き、眩い青空を招く。
男の<場>だけがまるで後光が差したように照らし出される。
儀式<リチュアル>補助。
それはこの<サガ>にとって最も大事な事の一つである。
何故ならこの儀式をもって召喚することが可能となる。
このゲームの代名詞。
デッキの象徴、デッキそのものともいえるヴァイタルガーダー。
即ち<ガーディアン>の召喚であった。
「霊界より来たれ……
常勝の戦姫<リヴィエラ・ウルズ・サンスクリット>」
「御身が戦いに勝利を捧げましょう」
男の召喚に応じたのは見目麗しき鎧姿の乙女。
かの者こそ大陸に威を唱えし覇王の一人娘。
戦場において敵には畏怖を、味方には絶対の信頼を与えし者。
どんな過酷な戦場でも勝利をもたらしたことから、ついた異名が常勝の戦姫。
降臨した戦姫は自軍を見渡し、剣を抜き放つ。
戦場を揺るがす鬨の声。
ただそれだけで不可視の力がガーダーを強化するのが分かった。
「では――
いきますぞ、ユーマ殿。
受け損なえば、すぐさま敗北。
その事を努々(ゆめゆめ)忘れなさるな!」
強化された自軍に男は攻撃を命じる。
突撃する兵士・騎士達。
マナを使い果たしている悠馬は兵士1体を火蜥蜴でブロック。
併せて<纏いのブレス>を発動する。
「せめて相打ちに!」
「甘い、ですな。
常勝の戦姫<リヴィエラ・ウルズ・サンスクリット>の能力により自軍ガーダーのAPDPを1000向上。並びに攻撃ガーダーに先制攻撃(先にダメージを与えAPが同等か相手のDP以上なら自分がダメージを食らう前に一方的に戦闘に勝利できる)を自動付与」
戦闘終了後、信じられないものを見る様に周囲を見渡す悠馬。
砕け散った3枚のシールド。
致死ダメージを負い、霧散し消えていく火蜥蜴。
4体のガーダーにガーディアンが顕在し無傷のシールドを構える相手の場に対し、何もない荒涼とした自分の場。
「さあ吾輩のターンを終了しましょう。
ただ……逆転の目は果てしなく低いかもしれませんが」
期待違いだったのだろうか?
幾分かの憐憫をこめた男の声に――
悠馬は項垂れたまま応じることは出来なかった。
常勝の戦姫<リヴィエラ・ウルズ・サンスクリット>
SP 白③
AP 3000
DP 2000
『特記』
常勝の戦姫<リヴィエラ・ウルズ・サンスクリット>が場に出ている限り、自身以外の自軍ガーダーのAPDPを1000向上。貴方のコントロールする攻撃ガーダーは先制攻撃を得る。




