12話 疾走
「よく考えてみれば、さ――
この魔導都市とやらに来たのって……初めてなんだよな」
熱で光を屈折し生み出した蜃気楼による分身。
召喚術によるゴリ押しだけでなく、各色のドレスアップに不随するこういった能力の使い方が悠馬の巧みなところだ。
さて混乱する追手達を上手く撒いた悠馬だったが……広大な都市の造りに迷子になっていた。
しかし悠馬を責めるのは酷だろう。
魔導都市<エリシュオン>は、サーフォレム魔導学院を中心に放射状に発展していった都市である。
その造りに利便性はなく、雑多。
美しい街並みではあるも一般的な都市計画からは外れている。
本来であればかつて巫女の研修でここを訪れ、土地勘のあるティナの案内を受ける筈だったのだ。
だが何事も考え方の違いである。
一見無秩序な造りに見える都市の建築物。
だが、その大本となるのは――
悠馬はドレスアップにより向上した身体能力を用いて、壁面を忍者みたいに蹴り続け身近な高層建築物の屋上を目指す
「ティナの話通りならこの都市の中心となるものが魔導学院。
ならばあの一際高い塔を目指せば問題ないかな」
夜とはいえ俯瞰的に屋上から見れば明らかにデザインが違う建物と、その周囲から空に伸びる槍の様な無数の塔。
あれこそが神代に創設されたという魔導学院。
庇護を求める者を分け隔てなく守護するという創設理念が本当ならば、レミット達も一先ず安住の場を確保できる。
更に召喚術を含む魔術全般の深奥が眠る魔導学院ならば元の世界に帰る手掛かりですら得られるかもしれない。
期待し過ぎてはいけないと自分を律しながらも、悠馬は高揚を隠し切れず夜の街を駆けるのであった。
「とまあ……そう上手くいく訳がないか」
魔導学院とおぼしき建物へ繋がる大門。
そこにはローブを纏った初老の男が待ち構えていた。
優雅に蓄えられた白髭に柔和な顔立ち。
品の良さそうな、見るからに紳士といった出で立ち。
だが悠馬は油断しない。
何故なら光り輝く魔導書を見るまでもない。
周囲の空間に放たれる圧倒的な魔力――存在感。
自らが生み出す法と秩序こそが世界の法則。
己が進む道は己が決めると、運命に反旗を振りかざす者。
つまり召喚術師だ。
「クオン・ユーマ殿……でよろしいかな?」
自らもデッキを構え近付く悠馬に掛けられる、渋みのあるバリトン。
世の奥様方が放っておかないようなダンディズム漂う雰囲気。
真正面からまるで悠馬を見定めるような深い眼差し。
問答無用で襲い掛かって来た今までの者達とは違う理知的な態度に、悠馬は軽く驚きながらも警戒を怠らず尋ね返す。
「そうだけど……そういう貴方は?」
「吾輩はとある方に仕える者です。
今はまだ名前を明かすわけにはいきませんな」
「へ~それは残念だ。
今までの馬鹿達とは違い、貴方とは会話できそうなのに」
「なかなか手厳しい。
まあ彼等にも彼等なりの事情があるのでしょう」
「年端もいかない女の子の命を狙う様な事情?
生憎だが――
俺はいかなる理由であってもそれを認める事は出来ない」
「ふむ。
素晴らしい決意……吾輩の主も喜ぶでしょう」
「それで?
こんな所で待ち構えて……いったい俺に何の用だ?」
「無論、決まってるでしょう?
吾輩たち召喚術師が百万言を弄するより分かり合える共通のコミュニケーションを図りにきたのですよ。
それは勿論――」
男の持つ魔導書を媒介とした力場が相対する悠馬へと侵食していく。
自らの理こそが唯一である、と。
多元時空を超え、
莫大なマナを湛え、
より広大な<場>を構築していく。
これこそ召喚術師による決闘。
互いの秘儀を尽くす古の作法。
それは即ち――
「偉大なる主の名において宣言す。
クオン・ユーマ。
汝にデュエルを申し込みましょう」
「……いいだろう。
揺るがぬ闘志と烈火……
潰えない決意と洛陽に誓い、今ここに誓約す。
我が名は久遠悠馬。
汝の申し出を受ける!」
召喚術師達の決闘誓約の成立。
その瞬間――
世界の全てが弾け、決闘を行う闘技場へと再構成されるのだった。
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加筆してみました。
2年ぶりのデュエルになります(苦笑)




