4話 決闘
召喚されたグレイウルフの力は凄まじいの一言に尽きた。
武装した男達を為す術もなく制圧し、命こそ奪ってはいないものの完全に無力化している。
その事実に、何より魔導書を用い召喚術を使用した事に悠馬は高揚を覚える。
本能の赴くまま、そしてデッキが望むかのように全ては動いた。
煩雑で複雑な筈の召喚手順だが、自分は苦も無くやり遂げていた。
それはまるで魔導書たるデッキが自分に語り掛けてくるかのような錯覚。
これこそ要が言っていた「デッキの声を聞く」という感覚なのかもしれない。
感慨に耽る悠馬だったが、手にした魔導書が突如発光。
悠馬にはそれが外敵を察知した警告であると理解できた。
魔導書を携え力場を纏った召喚術師は無敵の存在である。
唯一つの例外を除いて。
それはつまり……
同じ力を持つ召喚術師の存在。
悠馬は意識するより早く、宙に身を躍らせる。
その速さ、その高さは最早メダリスト級と言っていいだろう。
ドレスアップの恩寵により、今の悠馬は超人的な身体能力を得ているのだ。
グレイウルフも主の意に従い、追随し跳躍する。
まさにその瞬間――
悠馬の視界一面を紅蓮の焔が占める。
絶叫を上げて燃え尽きる男達。
悠馬は直感した。
この焔は召喚術師によって召喚されたもの。
力場によって守られている筈の今の自分を、傷付ける事が出来るものである、という苦い事実を。
だがこの時、悠馬は大切な事に気付けていなかった。
目の前で人が死んだ。
初めて体験するその事に、何の動揺も抱かない自分がいる事を。
「やれやれ……
世の中何が起きるか分からないもんですな。
麓で男達を唆した後は、様子をみるつもりだったんですが……
まさか召喚術師が出てくるとね」
頭を掻きながら面倒臭そうに出て来たのはボロボロの赤いローブに身を包んだ中年の男だった。
痩身で陰鬱な顔をした陰気くさい男である。
その手に持つのは悠馬の持つデッキとは違う、分厚い革の魔導書。
おそらくこいつこそが先程の焔を放ったに違いない。
悠馬は鋭い眼差しで男を睨みつける。
軽く上がる悲鳴。
油断なく横目でそちらを確認すると、恐怖に顔を蒼褪めるレミットの姿。
「あの身なりに陰気くさい容貌。
まさか<紅蓮の踊り手>こと、ドラナー・チャンなの……?」
「何か知ってるのか、レミット?」
「うん。
昔お父様から聞いたことがあるわ。
炎を自在に従える紅の召喚術師。
南方でも10本の指に入る術者である、と」
「あらま、困りましたねえ。
この業界、顔が売れるのは困りものなのですが、ね」
ポリポリとフケを零しながら応じる。
余裕染みたその態度がふてぶてしい。
「貴方ほどの使い手が、どうして……」
「あ~それはですね
あっしの雇用主がですね、
ど~~~~しても貴女を手に入れたいようでしてね~
まあ、あっしも哀しい雇われの身。
生死は問わないと言うので……
大人しく捕まってくれません?」
「い、嫌よ!
誰がアンタなんかに!」
「これは本当に困りましたね~
ならば力づく、って事になりますが……宜しいんで?」
「うっ……嫌あ!」
ゆっくりレミットに迫るドラナー。
身を捩り嫌悪しアイレスに縋るレミット。
その間に、すっと成り行きを静観していた悠馬が割って入る。
「おや?
邪魔をするんで?」
「ああ。
レミットが嫌がってる。
ならばお前は俺の敵だ」
「分かってるんですかい、兄さん?
あっし達が敵対するって意味を」
「無論理解してるさ。
力場に守られた召喚術師達の対決……
それにケリをつけるには一つしかないだろう?」
魔導書を媒介とした互いの力場が相対する力場を侵食していく。
自らの理こそが唯一である、と。
多元時空を超え、
莫大なマナを湛え、
より広大な<場>を構築していく。
これこそが召喚術師の決闘。
互いの秘儀を尽くす古の作法。
それは即ち――
「久遠悠馬の名において宣言す。
ドラナー・チャン。
汝にデュエルを申し込む!」
決闘術師たるデュエリストの戦い。
魔戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
つ、次こそターンバトルやらなきゃもう見ないんだからね!(ツンデレ風)




