4話 衝撃
「失礼します。
こちらの個室にマリエル侯爵様所縁の方がいらしゃると伺ったのですけど……」
「メイアさん!?」
「はい、ワタシです」
重々しい雰囲気の漂う室内に響くノック音。
顔を見合わせる一同。
暗殺の危険がある為、フォースフィールドを展開した悠馬が応じる。
そこにいたのは意外や意外。
数時間前に貴人用ゲートで便宜を図ってもらった眼鏡がキュートな女性職員、メイア・ステイシスだった。
驚きに声を失う悠馬に、メイアはタイトなスカート姿が似合っていたものの、事務服ではない少しめかし込んだお洒落な私服姿で一礼をする。
「数時間ぶりですね、ユーマさん」
「こちらこそ、メイアさん。
あっ!
先程はどうもありがとうございました。
お蔭様で手続きがスムーズにいきましたよ」
「フフ……それは何よりです」
「ホント、メイアさんがいなければどうなっていたやら。
多分まだ並んでたかも。
あやうく餓死するとこでしたよ」
「もう。大袈裟ですね~ユーマさんは」
「いや、マジでそれぐらい空腹でした」
「フフ……男の子はよく食べますからね。
そういえば――
ここの名物はお食べになったのですか?」
「イベル豚のシチューとエセル海老のフライですよね?
女将さんから勧められたのもあって、一番に注文しましたよ!」
「お口にあったのなら何より。
ただそんなユーマさんに裏情報」
「え――? 何です?」
「実は常連だけに出す海老味噌リゾットがあるんです。
隠れメニューですのでこっそり頼んでみて下さい」
「マジっすか!?
ありがとうございます!」
制服を脱いだプライベート時間だからだろうか?
ゲート前のきっちりした雰囲気が希薄で、気さくなメイア。
堅物そうな美人が屈託のない笑顔を浮かべている。
それだけで何だか得した感じだ。
思わず談笑に華が咲く。
そんな二人を面白くもない様子で見ているレミット。
彼女の思慕を考えれば当然かもしれない。
掛ける言葉もついつい刺々しくなってしまう。
「――それで?
魔導都市とはいえ、一職員が何か御用?」
「おい、レミット!」
「レミット様……」
「いえ、いいんです。
レミット様達のご都合を考えず、ドア先で失礼しました。
ただ……少々込み入った話になりますので、中に入ってよろしいですか?」
「あっ、はい。
どうぞどうぞ」
まさかメイアが暗殺者という事もあるまい。
あっさり個室の中へと招く悠馬。
その無警戒っぷりに内心慌てるアイレス。
暗殺者特有の呼吸や足捌きなどはメイアに見られない。
しかし本人の与り知らぬところで毒物や爆発物の生きた運搬役になっている恐れがある。
咄嗟に動こうとしたアイレスだったが、メイアを招き入れた際にちらりと見えた悠馬のドレスアップを窺い、冷水を掛けられたように抑制させられた。
今現在、悠馬が纏うドレスアップの色は漆黒。
退廃や死霊術等を含む黒デッキの色である。
フィジカルエンチャントとは別に発揮されるドレスアップ効果は<超霊感>
時と場合によるが、召喚術師以外ならオカルトチックな力で瞬時に束縛、あるいは呪殺すら可能とするだろう。
現状を甘く見ている訳じゃない。
悠馬はある程度の覚悟を以って全てに接している。
(仲良くさせてもらった職員さん。
でも敵や障害となるなら……
排除されても、仕方ないよね?)
そういった揺るぎ無い内心が伝わってきそうだ。
僅か数週間で頼りない男の子は鋼の心を鍛え始めた。
男子三日会わざるば……とはよく言うが、思わぬところで見せる悠馬の成長ぶりに驚嘆を通り越し戦慄すら覚える。
「では――よろしいでしょうか?
ワタシが今日ここを訪れたのは先程カレンさんが示された家紋の件です。
気になったので少々調べさせて頂きました」
席に着いたメイアだったが、アイレスがお茶を用意する間もなく喋り始める。
その途端、虚ろだったカレンの瞳に光が戻る。
話を聞こうとする悠馬を押しのけ、前のめりになる勢いだ。
悠馬は「う、宇宙が……」と頭に圧し掛かる巨大な質量に気が気じゃないのだがカレンはそんな事も気付かないようである。
「ど、どうだったのですか!?
やはりマリエル様は……我が主君は……」
「落ち着いて下さい、カレンさん。
マリエル侯爵様は御存命です。
ただ……」
「ただ?」
「ただ、マリエル侯爵様なのですが……
ランスロード皇国より、とある嫌疑を掛けられ、今現在は身柄を拘束されているとの事です」
「そんな!
それは本当ですか!?」
「冒険者組合経由の確かなネットワーク筋ですので間違いありません」
「何という事だ……私がいない時に……」
「貴女の同僚や縁者も色々手を尽くしてはいるようです。
他貴族も動いている為、すぐに釈放されると思います。
しかし――ここで不可解な事が一つあります」
「――え?」
「ああ、確かに」
「ですねえ~」
「ん。気になった」
「な、何よ!
お父様が……いったいどうなったっていうのよ!?」
「レミット様……」
メイアから告げられた衝撃の事実に、レミットは涙を堪えて強がる。
呆然とするカレンをその場に、アイレスがそっと寄り添いその身体を支える。
まだ幼いレミットを含むマリエル侯爵の縁者である三人には重い現実だろう。
だがそんな感傷的な三人とは別に、自らの置かれている状況をクレバーに判断するのが日常なデュエリスト三人組は気付いた。
「しかしその嫌疑による拘束と、侯爵家の紋章が無効となるのはまた意味が全然違うんじゃありやせんか?」
「ん。廃嫡や不名誉とかで家紋が失効する事はある。
でも今回はそんなケースにはまだ該当していない」
「つまりは――」
「ええ。
皆さんの推測通り、紋章の抹消はその家そのものの弱体化の証になります。
つまり、マリエル伯爵家の紋章を故意に消した者がいる――」
重々しい表情でメイアがそこまで告げた時、
ドン!!!
宿を揺るがすような凄まじい衝撃と轟音。
さすがの悠馬達も為す術もなく、一同は床に叩き付けられるのだった。
更新です。
ゲストヒロインであるメイア訪問回。
話が動き始めてきました。




