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2話 難航

「入れないって……

 それはどういう事ですか!」


 当惑しながらも拒絶の意を伝えてきたゲートの職員。

 お役所対応な態度に対し、カレンが喰って掛かる。

 その手に握られてるのはマリエル家の家紋が押された認可証だ。

 冒険者組合に所属する者が持つ冒険者カードを提示する以外、国の出入国にはそれなりの制限が掛かる。

 例えば宿場町くらいならそんな面倒はない。

 これは円滑な流通上、当然の対応といえよう。

 だが、都市ともなれば話は別だ。

 犯罪者及びその予備軍による治安の低下。

 疫病の罹患検査や、禁止薬物等の密輸入出規制。

 そしてこれが一番だろうが――

 諜報活動や軍人による破壊活動の抑制。

 以上の観点から都市の出入りには面倒が掛かる。

 一般的には手荷物検査や魔術による探査、簡単な質疑応答。

 手荷物を超える物には申請書の記入が必要となる。

 無論、例外は存在する。

 いつの時代もお偉方というのは面倒を嫌い、特権を欲しがるもの。

 その為、大概の都市には庶民用の関所とは別に貴人用の関所があるのだ。

 その際に効力を発揮するのが家紋の押された認可証である。

 これは許可証を持つ者に起因する不利益を全て家紋を押した貴族等が負うという証でもある。

 今まで他の都市ではこの認可証を使い対処してきたのだが――


「申し訳ございません。

 ただ今魔石による読み取りを行い照査をしたのですが……ランスロード皇国に置きましてはこの家紋に該当する貴族はいないとの事です」

「そんな……」


 魔石のはめ込まれた魔導具を手にした女性職員の言葉にカレンは言葉を失う。

 全ての貴族の家紋は国家間協定に登録される。

 当然だ。

 他国へ赴いた時、それこそが自らの身分証明となるのだから。

 経済・地盤を含むコネクションバックアップ。

 犯罪に巻き込まれた際等、所属国家への身分証明と治外法権的な支援要請。

 許可証登録の効果は多岐に渡る。

 だがそれがないと言われた。

 ただの誤動作ならばいい。

 しかし正式に国家間協定から登録を外されたのだとしたら?

 それはつまり、忠誠を誓った自らの主君であるマリエル侯爵が……


「何かの間違いではないですか!?

 すみません、もう一度――」

「駄目だ、カレン」


 職員へ声を荒げ詰め寄ろうとしたカレンだが、その肩を止められる。

 迷子になった幼子の様な顔で振り返った先にいるのは厳しい顔をした悠馬だ。

 眼で訴えるも首を左右に振り拒否される。


「しかし、ユーマ殿――」

「今は駄目だ。

 これ以上事を荒げると大変な事になる」


 優れた悠馬の観察眼はカレンに詰め寄られた女性職員の手が隠された箇所にあるブザーへ添えられたのが分かった。

 これ以上強行すれば衛視等への通報が問答無用でいくだろう。

 今は堪える時だ。


(え~と、確かこういう時は……)


 昔読んだライトノベルの知識を総動員。

 カレンのしなやかな筋肉がついた肩を揉みながら考える。


「え~と、すみません!」

「――何でしょう?」

「どうにも自分達の勘違いだったようで……

 ホント、申し訳ないです」

「いいえ。

 間違いは誰にでもあるものです」


 人懐こい笑顔を浮かべた悠馬の大袈裟な謝罪。

 道化の様な仕草に女性職員も頑なだった態度を軟化させる。


「それで一応中に入りたいんですけど……

 何か方法はありますか?」

「一般受付でしたら特に問題ございません。

 ただ少々お時間が掛かりますが」

「ああ、そうですか。

 う~ん参ったな……

 でも分かりました。

 もう一度あっち(一般受付)に並び直しますね」

「――不思議な方ですね、貴方は」

「はい?」

「ここにいても伝わる魔力波動。

 貴方は召喚術師ではございませんか?」

「ええ、一応」

「普通そういった力を持つ方は優遇を求める高圧的な交渉を行うものです」

「そうなんですか?

 ん――でも俺、召喚術を抜いたらただのガキなんで。

 洗濯くらいならともかく、目玉焼きすら作れない不器用さですし」

 

 あっけらかんとした悠馬の物言い。

 眼鏡を掛けた女性職員の目が驚きに開かれ、続いて苦笑する。


「それは困りましたね」

「まったくです。

 だから魔導都市に入らないとご飯食べれないので」

「お腹が空くと倒れてしまいますしね」

「はい」

「フフ。

 ではワタシの権限が及ぶ範囲でお手伝いをしましょう。

 これをどうぞ」

「? これは?」

「ファストパスです。

 提示して頂ければある程度手続きの簡略化とゲートへの短縮が行えます」

「え? いいんですか?」

「はい。

 おかしなところはあるも、貴方がたに不審なところはないので」

「やった!」

「フフ。

 そういえば……お名前を訊いてもよろしいですか?」

「あっ、はい。

 悠馬です。

 俺の名前は久遠悠馬」

「クオン・ユーマ様ですね。

 ワタシの名前はメイア・ステイシスといいます。

 ご縁がありましたらまたお会いしましょう。

 この件についてはワタシも少し納得のいかないところがあるので」

「ありがとうございます!

 さっ、行くぞカレン」

「あっ……ああ。

 そう、だな」


 勢い良くメイアへ頭を下げた悠馬に押され、離れた場所で動向を窺う皆の下へ戻るカレン。

 その顔へは幽鬼のように昏い翳が差していた。








「……見ましたかい、姐さん方」

「ユーマったら~~!!

 あ、あんなデレデレして!

 しかもあの女の方も満更でないみたいだしぃ~」

「ん。秒殺だった」

「あらあらうふふ。

 略してあらふあらふ。

 ユーマ様は……ホントに困った方ですわ。

 少し……オイタが過ぎるかもしれませんね(クス)」

「「「こわっ!!」」」

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