1話 都市
「ここがサーフォレム魔導学院のある魔導都市エリュシオンか……」
天高く空を貫くような尖塔が幾つも連なり、幾何学的な呪紋が為された防御結界を幾重にも張り巡らしている。
東西南北の要所に設けられたゲートだけがその中に入る唯一の手段。
この都市の結界は転移どころか戦略級魔術すら跳ね除けるのだから。
(ティナから話を聞いていたけど……
こうして全景を見ると、圧倒されるな)
まるで都市全体が意志を持つかのような圧迫感。
いや、その喩えは間違ってないのかもしれない。
ティナの情報が誤りでなければ、この都市を奔る道は血管。
蠢く人々は栄養とのこと(マレに毒にもなると)。
この都市は古より『呼吸する』と云われてきたと言う。
都市の新陳代謝が活発で、常に新しい息吹を吹き込む。
先の大戦で唯一戦禍を免れたのは、決して防御結界のせいだけではない。
都市に住む人々の秩序意識が高いからだ。
無論、中には例外もいるが。
魔術が術師特有のものだけでなく、一般へと普及し当たり前のものとなってきた弊害として、犯罪にその力が振るわれる事が多々ある。
しかし魔導都市は魔術研究の最先端でありながら、魔術犯罪の件数は驚くほど少ない。
それは魔術の利便性を追及しながらも、その危険性を把握してきたた者達の自戒なのだろう。
さらにもう一つ付け加えるなら、自治統制局と呼ばれる都市統括機関の存在が大きい。
この都市が王国連盟から対等の扱いを受け、自治を許されているのは伊達ではない。
一国を相手に戦える、魔導技術を含めた軍事力を敵に回すのが怖いからだ。
導師<マスタークラス>のみで成立された局員達。
その実力は、一人が騎士一個小隊にも勝る。
特に高火力で高機動、手傷を負えば回復すらこなす相手と戦うなど、誰でも嫌だろう。
それ故、腫れ物か爆発物を扱うかのような慎重な対応をされるのだ
「しかし凄い建物ね。
ランスロード皇国の魔術協会本部より大きいなんて!」
悠馬と同じく頭上を見上げたレミットが感慨深い声を上げる。
そう、この都市は『魔導学院の周囲に建てられた街の連なり』なのである。
サーフォレム魔導学院が主体で、その他は後から成立されたものなのらしい。
その歴史古く、遥か神代の時代まで遡るというのだから恐れ入る。
魔導学院は神族が人々に知恵と魔術を授ける為に建てたという話が本当ならば、だが。
「あちらで受付をしてるみたいですわ、レミット様」
「ええ~あんなに並んでるの?」
「仕方ありませんわ。
何事も手順というものが必要でしょうから」
「どうにか出来ないの、カレン?」
「無理を言わないで下さい、お嬢様。
貴人用の受付に交渉はしてみますが、順番は順番です」
「悠馬のグリフォンで最初から空路で行けばいいのに~」
「ん。それは駄目。
都市の防衛機構にやられる。
外部からの襲撃に対し、ここの防衛機構は鉄壁。
前大戦時には魔族の襲撃、古代ではドラゴンすら撃退した」
「聞くだけでおっかねえ~話ですな、姉さん」
「大丈夫。
その為のゲート。
あそこから正規の手順を踏めば問題ない」
「ならさっそく並ぶとするか。
早くレミット達の身の安全を確保したい。
あと、出来れば観光もしたいし。
となれば、この馬車とかは目立つから魔導書に収納するか。
少し歩くけど構わないか?」
行儀よく受付ゲートへ列を為す人々。
彼等を遠目に、悠馬は魔導書を広げながら提案する。
「は~い」
「分かりましたわ」
「異議なし」
「ああ、ユニコーンが……
もう少しモフモフを堪能したかったのに……」
「ホントにカレン姉さんは残念美人ですな」
約一名の涙を余所に、皆は声を揃え同意するのだった。




