19話 陽炎
砕け散る戦場結界。
悠馬の勝利を祝い、湧き上がるレミット達の歓声。
空を見上げれば先程までの暴風雨が嘘の様に収まっている。
どうやらこの地域を季節外れに襲っていた暴風雨はファイレクシオンの影響で間違いなかったようだ。
ファイレクシオンを隷属化したことにより収束されたのだろう。
「やったわね、悠馬。
貴方ならきっとやれるって……
信じていたわ」
「ああ。
これも全て、ティナのお蔭……」
隷属化による現界は一度のみの契約だった為に、既に魔導書からティナは除外されている。
背後から掛けられたティナの声に振り返る悠馬。
そして絶句した。
「ティナ……
その、姿は?」
幽体の為、元より半透明だったティナ。
今悠馬の前に浮かぶその姿は半透明を通り越し、もはや消え去りそうな薄さというか儚さだった。
「――ん。
私の力はファイレクシオンを封じる要石に準ずるもの。
こうなる事は――予想出来た」
「予想出来た――って?」
「私を幽体として現世に留め続けてきた楔が無くなった。
そうなった以上、私は消える」
「自分が消える可能性を理解してたのかよ!
ならば何で話してくれなかったんだ!?」
「封印が解ける以上――
再封印の有無に関わらず遅かれ早かれ私は消滅する運命だった。
ならば後顧の憂いを断つ為、信じた人に最後を任せてみたくなった」
「そんな……こと」
「悲しまないで、悠馬。
貴方は本当によくやってくれた。
面識もない――
こんな売女で淫売でビッチの為に」
「自分自身に対して辛辣だな、おい!」
「まあ処女なんだけどね。
私、髪に仕える巫女だし」
「大事な事かもしれないけど気軽に他人へ言うのは止めような!
聞いてる方はドン引きだから!
あとその表現だとアートでネイチャーな神様っぽいよ!」
「淫乱な耳年増は童貞受けがいい筈。
一定以上の需要があるから、過酷なヒロイン戦線でも生き残れる」
「どこを目指して発言してるんだよ!
あと微妙に黒いよ、ティナ!?」
「私、実は男を手玉に取る女なの(魔笑)」
「キャラが違う!」
「――色々あったわね、悠馬。
魔王を斃す為の道のりは果てしなかったわ」
「何で語り部モードに入ってるんだよ!
んなスピンオフはどこにも書かれてない!
っていうか、ティナと会ったのは数時間前だ!」
「ツッコミが激しいわね。
……有望だわ」
「何の期待値!?」
「――それでも。
貴方と一緒に過ごした時間は楽しかったわ、悠馬」
「何だか強引にいい話にまとめようとしてるし」
「あら……悠馬は違うの?」
「まあ、俺も否定はしない。
確かに――
ティナと一緒に過ごした時間は楽しかった」
「そう――
ならば良かった。
残念ながらここで私は消えるけど……
縁があったらまた宜しくね、悠馬」
「ああ……
ティナの事、忘れない。
約束するよ」
「確かに聞いたわ。
じゃあね、悠馬。
女の子には優しくしてあげなきゃ駄目よ?」
「ティナ!?」
微笑んだティナがどんどん透き通っていく。
必死に呼び掛けた悠馬の叫びも虚しく、手を振り応じたティナの姿は陽炎の様に消えてしまうのだった。




