18話 契約
◇5ターン◇
賭けに勝った。
ガーディアンであるティナの召喚に成功した悠馬は拳を握る。
4ターン目の開始時、悠馬が引いて来たのはティナを呼ぶカードだった。
デッキと自分を信じるという悠馬の引きはまさに完璧だったのだ。
問題はそのコストの高さだ。
封印の護り手<監視者ティナ・ハーヴェスト>
AP 0
DP 1000
そして
SP 紫6 他10
計16マナが必要という、まさに破格の高さであった。
今回悠馬が選んだのは紫のコントロールデッキ。
通常であれば時間をかけて召喚する事も可能かもしれない。
しかし現在の時点でティナを呼ぶ事は適わない。
特記の一文が無ければ。
『特記』
封印の護り手<監視者ティナ・ハーヴェスト>は、貴方のシールドが0枚の時に限り、SPの半分である8マナで召喚出来る。
というもの。
この効果により悠馬はティナを召喚したのである。
だがこれは正直賭けの要素が大きかった。
前のターンで全てのシールドが破損するかは分からなかったし、
手札にあるティナを呼ぶカードを破棄させられるかもしれなかった。
しかし悠馬はそれは無いと踏んでいた。
わざと挑発した部分もあるが、ガーダーに速攻を付与できるならシールドを全損させ手札を丸裸にした方がより絶望を味あわせる事が出来るからだ。
実際、腐嵐王の手札にあるであろう手札破壊のスペルを使った後、堅実に死霊で攻め続けていれば悠馬の敗北は避けられないものだった。
でも実際は功を急いた腐嵐王によりティナを召喚する前提条件が整った。
そして一番の賭けの要素であるランダムディスカードの効果発動。
これは無作為に選ばれた手札が2枚も破棄されるという恐るべき効果である。
だから悠馬は2枚のシールド破損効果を手札補充に使った。
戦闘フェイズが終わるまではヴァイタルガーダーを呼ぶ事が出来ないからだ。
ここでティナのカードを棄てられていれば話は違っていた。
だが悠馬はこの不確かな賭けにも勝った。
これにより8マナ(一時的に倍増中)、シールド0、そしてティナ召喚のカードが手元にあるという条件は達成されたのだ。
「ふう……
マジで危なかったよ、ティナ」
「そう」
「ああ、最後にティナを引けなかったら負けは確実だった」
「ん。悠馬の声が聞こえた」
「そっか……
ちゃんと届いたんだな、俺の声」
「うん。
ティナ、愛してる!
って凄い剣幕だった」
「それは幻聴だ!」
「ぐへへ……
お前を巫女服のまま凌辱してやるぜ~っ!
とも言ってた」
「一言も言ってねえよ!」
「俺は自分の欲望を信じる!(キリッ)
って断言してた。正直怖い」
「信じるのはデッキだ、デッキ!」
「悠馬は破廉恥。
でもわたしは理解あるから責めない」
「あ、また勝手にいいオンナアピールしてるし」
「――わたし、結構尽くす方((ハート)」
「今更言ってもあざとい!」
召喚されたティナと痴話喧嘩じみた漫才を繰り広げる悠馬。
ターンの動向を苛立たしげに見守っている腐嵐王も我慢の限界の様だ。
「いい加減にしろ、召喚術師!
デッキの象徴である、ガーディアン。
ヴァイタルガーダーたるその巫女の小娘を召喚したのは褒めてやろう。
だがそれで勝利した訳ではあるまい!」
「やれやれ……
まだ分からないのか?」
「何だと!?」
「ティナは特殊能力に特化したガーディアンだ。
その力は場に出た次のターン開始時に発揮される。
つまり――」
悠馬はドローを放棄し、ティナの特殊能力を発動。
その瞬間、『魔導書』『手札』そして『廃棄場』から神域創生の封印結界術のスペルが全て場に揃う。
この効果によりついに紫デッキの真骨頂、封印結界術が発動。
腐嵐王ではなく、悠馬を中心とした神域結界が完成する。
この効果により悠馬は対戦相手による干渉を全て受けなくなった。
ガーダーによる攻撃も、手札による関わりも全てである。
「そ、それは……」
「まだ分からないか?
この瞬間、お前の敗北が決定したんだよ。
結界術発動に対応してティナを除去するなり出来ればワンチャンあったが、お前は前のターンにマナを使い切った。
おそらく手札にガーダー除去スペルを抱えているのに、な」
「おのれ小癪な……
だがまだ我にも……」
「無駄だ。
完成された神域結界は絶対だ。
もうお前は俺に干渉する事は出来ない」
「しかしそれは貴様も一緒の筈」
「ああ。
この結界内に居る限り、俺もお前に干渉出来ない」
「ならば決着がつかないではないか!」
「はたしてそうかな?(ニヤリ)
じゃあ結末を見届けようか。
結界術維持の為、ドローを放棄。俺のターンをエンドだ」
「何を考えてる、貴様」
「すぐに分かるさ……
そう、すぐにな」
「大言を」
自分の番が来た腐嵐王だが、もはや悠馬に手札破壊は効かない(正確には対象に出来ない)。
そしてガーダーを攻撃に向かわせても結界のせいで意味がない。
仕方なく新たなガーダーを通常召喚する。
そして――40ターン後。
「まさか……
これが貴様の狙いだったのか、召喚術師!」
「そうだ」
「通常の勝敗でなく、魔導書切れによる自滅……」
無数のガーダーに囲まれながらも腐嵐王は驚愕する。
勝ち手段が皆無に等しい為、引き分けに思えたデュエル。
だがターンを進める内に気付いた。
通常ドローにより減っていく自分の魔導書に対し、悠馬はヴァイタルガーダーの力を毎回起動させ『ワザと』空回りさせる。
デッキ内に対象となるカードが無い場合、その効果は失われドロー出来ないというデメリットのみ残る。
だがそうする事によって悠馬の魔導書は減る事がない。
つまりはデメリットがメリットになるのだ。
結界術に干渉できない以上、腐嵐王は現状をどうにも出来ない。
「まだ続けるか?
魔導書切れによる敗北は存在の消滅だ。
もう二度と現世に干渉出来なくなるぞ」
「……我の負けだ、召喚術師」
「そうか」
「矮小なる者と侮ったのが我の敗因か。
汝は知識と武勇に優れた召喚術師だった」
「違う」
「ん?」
「勝利の天秤はどちらに傾いてもおかしくはなかった。
ただ俺には――」
ティナを見上げる悠馬。
肝心のティナは小首を傾げ応じる。
「――勝利の女神がいただけさ」
「ふっ……
ふはははははははははははははっ!
愉快なヤツだな、貴様は!
……このまま消えるのが惜しくなってきたわ」
「それなんだがな、腐嵐王」
「うん?」
「隷属化しないか?」
「――はっ?
貴様は何を言っている、人間。
我は災厄。
このまま消滅すれば全てのモノが祝祭を上げるだろう」
「知らないよ、そんな事は。
ただ俺は、ここまで俺を追いこんでくれたアンタの力が欲しい。
このまま消滅させてしまうには勿体無いと思ったんだ」
率直な悠馬の物言いに腐嵐王は押し黙る。
生れ落ちてから今まで、自分は忌み嫌われてきた。
誰しもが自分を恐れ避けようとする。
それなのに自分を必要としようとするなんて――
「――不思議な奴だな、貴様は」
「そう、あとそれだ」
「ん?」
「貴様じゃなくて悠馬。
俺の名は久遠悠馬だ」
「クオン・ユーマか……
ならばユーマよ。
我の名はファイレクシオンだ。
これから我を呼ぶ時はそう呼ぶがいい」
「――え?
それって、つまり――?」
「この場は貴様に下ってやろう、ユーマ。
だが――忘れるな。
貴様が我の主に相応しくないと認めた時、我は汝に反旗を翻そう」
「ああ、約束だ。
でもそんな日は来ないと思うけどね」
「よく言うわ(ふっ)」
魔導書を掲げる悠馬。
そこから眩い光が放たれ契約の文字となる。
「我、久遠悠馬の名において命ず。
我に従え、ファイレクシオン!」
「了承した」
隷属化契約の誓約。
これにより悠馬は腐嵐王を完全に支配下におく事に成功。
それは間違いなくこのデュエルの勝利の瞬間でもあった。
>デュエル終了
勝者、久遠悠馬!
封印の護り手<監視者ティナ・ハーヴェスト>
AP 0
DP 1000
SP 紫6 他10
『特記』
封印の護り手<監視者ティナ・ハーヴェスト>は貴方のシールドが0枚の時に限り、SPの半分である8マナで召喚出来る。
貴方のターン開始時、ドローを放棄する事によりデッキ内・手札・廃棄場より結界術カードをサーチし、場に出す事が出来る。
現界値 1回のみ(残0)
新規お気に入りありがとうございます。
長かったこの章もそろそろ終わりです。




