13話 祝福
「準備はいいか、ティナ?」
「ええ。構わないわ」
神秘と豊穣を司る紫の魔導書を手にした悠馬が語り掛ける。
応じるティナの姿はなく、返事は魔導書の中から聞こえた。
既にティナと契約はすませ、いつでもデッキから呼び出せる状態なのだ。
「あの要石を壊せば腐嵐王は復活するんだな?」
「そうよ。
今まではわたしが封印を維持してきた。
でも――その効果も、もうすぐ消えるわ」
「よし……ならば全力で頑張るとしますか。
――っと、その前に」
悠馬は後方を振り返る。
そこには逃げる様に指示したのに決して退かない三人の女性がいた。
ランスロード皇国マリエル侯爵家第三女、レミット・ウル・マリエル。
レミットの傍付きメイド、アイレス・ミィール。
マリエル家騎士団の女騎士、カレン・レザリス。
その誰もが自分には大切な人達だ。
悠馬の眼差しに信頼を込めた頷きで応じる三人。
これから自分が行うのは危険を伴う隷属化を懸けたデュエルである。
正直命の危機すらある為、安全な場所まで退避する様に言った。
だがその言葉に対し、手厳しく三者三様に反論されたのだった。
「何度言われてもユーマの……近くにいたいの!」
「でも――危険なんだぞ、レミット」
「そんな危険な事にユーマは一人で臨むの?」
「いや、それは召喚術師として――」
「うん。困らせてごめん。
ホントはあたしもわかってるもん。
なら迷惑を掛けないから――
せめて――傍にいたいの。ダメ?」
「だが安全面を考えたら街にいた方が――」
「しかしユーマ様。
もし封印が解けてしまったとしたら、どこにいても同じではありませんか?」
「それは――まあ、そうですけど……
けどアイレスさん、俺は――」
「それでも私達には安全な場所にいてほしい、と?
ユーマ殿の気持ちは分かる。
しかし私達はすでに一蓮托生の身。
ユーマ殿に何かあればこれから先、無事に魔導都市まで着く事は叶わない。
だからユーマ殿、私達が貴方に贈る言葉は唯一つだ」
「え?」
「――勝って」
「――勝って下さい」
「――勝利を」
祈りの言葉と共に、三人に手を引かれ前傾になる悠馬。
景気づけという訳ではないだろう。
が、予期せぬ不意討ち。
右の頬にアイレス。
左の頬にカレン。
そして前髪を掻き上げられた額にレミットの口付け。
瞬時に赤面する悠馬。
それはアイレスを除くレミット達も同様だ。
こんな可憐な女神たちの祝福を貰ったとなれば――奮起せざるをえない。
「ありがとう……皆。
絶対勝てるよ、これ」
「と、特別なんだからね!
ちゃんと勝たなきゃ許さないんだから!」
「ふふ。
素直になれないレミット様の代わりに告げますわ。
ユーマ様の御無事をここでお祈りしてます」
「ゆ、ユーマ殿――私達にここまでさせたんだ。
勝たなきゃ男が廃るぞ?」
「ああ、任せとけって。
じゃあ――行ってくる!」
そんなやり取りもあって冒頭に戻る。
最終確認を込めたティナとのミーティングも終了だ。
悠馬が異世界から召喚された経緯やレミット達との事も軽く説明しておいた。
緊張に身震いする悠馬。
そんな悠馬にティナが話し掛けてくる。
「ねえ、悠馬」
「な、なんだよティナ」
「悠馬って……リア充だったのね」
「何の話だ!」
「さっきの娘達」
「いや、それは縁があって――」
「リア充は死ねばいいのに」
「さりげなく毒舌だな、おい!」
「モテモテ(死語)ね」
「何が言いたいんだよ?」
「わたしも加入した方がいいの?」
「あん?」
「悠馬ハーレムファミリー」
「そんなもん結成した覚えはない!」
「……え?」
「なんだ、その意外そうな声は」
「でもタグにハーレムって……」
「それは状況に応じて一応付けておいただけだ!
俺自身はハーレムなんて興味ない!
それと――メタ的な会話はやめろ!」
「悠馬」
「何だよ」
「説得力がないわ」
「……多少は自覚してる」
「あと――もう一つ」
「何だ?」
「早くルートを決めないと、攻略出来なくなる。
これだけヒロインがいると好感度が下がりやすいわ」
「だから何で巫女と云う設定の癖にそんなに俗物的なんだ、お前!?
っていうか、そんな知識どこから仕入れた?
本当にこの世界出身なんだろうな、ティナ?!」
「全部父からの受け売り」
「俺はお前の父とやらに俄然興味が沸いて来たよ……」
「ん――もういない。
死んでしまった」
「あっ……ごめん。
言い辛い事だったよな。
なのに俺は無神経にズケズケと……」
「メイド喫茶でテンション上がり過ぎて倒れた。
オプションのミニスカ膝枕が心臓にキタらしい」
「さっさと殺しとけ、その老害!
っていうか何故にメイド喫茶!?
異世界なのにあるのかよ!?」
「アズマイラチェーンはどこでも安心良心価格。
しかもメイドさんも可愛い」
「この世界の行く末がマジで心配になってきたわ。
まっ……戯言はこの辺にしておいて、と。
――やるか、ティナ」
「ええ」
「あと……ありがとな」
「ん?」
「お蔭様で震えはもう止まったよ。
あとはスタートするだけだ」
「ん。頑張ろう」
「ああ」
紫のドレスアップの特殊効果は<超念動>。
念じるだけで物を動かしたり砕いたりできる。
ヘタな魔術より強い効果を持つ。
悠馬の意志を受け、砕け散る要石。
鳴動する大地。
荒れ狂う暴風。
ついに腐嵐王封印が解けたのだ。
こうして――魔戦の火蓋が切って落とされる。
リア充なんて死ねばいいんだ(怒)
ちなみに話に出てきてるメイド喫茶は別シリーズ「異世界メイド~」と繋がりがあります。設定的には100年前ですね。
300話を超えてますが、良かったらご覧ください。
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