12話 溜息
「貴方の実力は見せて貰ったわ、悠馬」
決闘場の崩壊後。
自分を見据える悠馬を前にティナは穏やかに話し出す。
召喚術師としての力の片鱗、揺るがない勝利への渇望。
いずれもティナの合格基準を大きく上回るものだった。
もはや悠馬の提案に対し不満はない。
ただ、一つの要望を除いては。
「じゃあ、腐嵐王の隷属化に賛成してくれるんだな?」
「ええ。
でも……それには条件が一つあるわ」
「え?」
「わたしも……隷属化して?
貴方と一緒に戦わせてほしい」
驚く悠馬にティナはそっと微笑む。
悠馬の決意。
見ず知らずの自分の為に全力で当たるその姿勢。
どちらもティナには革新的で――好ましく映った。
巫女としての自分がそれは危険な判断だと告げる。
しかしティナとしての自分がそれは正しいと告げる。
ならば……この人に賭けてみよう。
自分の全てを以って。
「それは……」
「駄目?」
「いいのか、ティナはそれで?」
「うん。
わたしが望んだんだもの。
元々わたしが再封印を行ったとしても完全に封じ切れるかは五分だった。
そこへ貴方がこうして来てくれた。
ならばこれは天啓だと思う。
わたしはそんな機会を無駄にしたくないわ」
「いや、そういう意味じゃなくてさ……
隷属化っていうのは、その……」
「? ああ、大丈夫よ」
ティナは理解しているのだろうか?
隷属化は当座の身の安全を保障するとはいえ、術者に絶対服従。
デュエルの結果によっては消滅の危機すらある。
そんな束縛にティナ絡め取る事をしたくはない。
望んで下ったドラナーとは違うのだ。
確認の意味で尋ねた悠馬だったが、
「わたし、破廉恥な欲求にもきちんと応じるわ。
巫女だから身体を差し出す事は出来ないけど」
「ぶほっ!」
予想外のティナの返答に思わず吹き出す。
「はっ?
なっ……何言ってるんだ、ティナは!
そんな事、頼むわけないだろ!?」
「? 頼まないの?」
「何、不思議そうに尋ね返してるんだよ!
当たり前だろ!」
「……ホントに?」
「本当に!
……だと言い切りたい、です。はい」
「けど――神主であるわたしの父はよく言ってたわ。
『男はケダモノ』だって」
「ああ、よく言われるな(うんうん)」
「だから『チラリズム――? で、悩殺(対応)しなさい』って」
「なんんんだっっその馬鹿親ぁ!!」
「人の親を――馬鹿呼ばわりは酷いわ」
「そう言う事を娘に吹き込む親は馬鹿で充分だ!」
「ちなみにこの巫女服の下に肌着はつけてないわ」
「その発言にどうリアクションしろと!?」
「袴の下からスラリと伸びる生脚」
「うっ……それは確かにソソルものが……
って、何を言わせたいんだよ!」
「女豹のポーズ」
「だから半透明な幽体で胸元をはだけさせても、たんに向こう側が透けて見えるだけだよね!?」
「残念だわ。
わたしのレベルでは悠馬の性癖にはついていけないなんて」
「勝手に人をアブノーマル認定してるし!」
「眼球をそんな……
しかも靴下を履いたまま……」
「全て分かってます風発言はやめましょうね!
っていうか、どう聞いても異常ですよね、それ」
「わたし、理解はある方。
殿方のアレな欲求にも結構対応可能」
「今更出来る女ですアピールとか余計にあざといし。
しかも言葉変えただけだよね!?
つーか、最初のミステリアスキャラはどこいったのさ!?」
「それは悠馬の青春の幻想。
陽炎の様に曖昧な儚い夢」
「いや、目の前にいるし」
「知ってる、悠馬?」
「なんだよ……」
「儚いって人の夢って書くのよ?」
「ああ、今日でたっぷり実感した」
「という訳で――悠馬。
変な奴ですけど、今後ともよろしくね」
「一応自覚はあったんだな(溜息)
まあ――改めてよろしく、ティナ」
初見とは違い饒舌なティナ。
ノリツッコミをしながらも悠馬は気付いていた。
その身体が微かに震え揺らめいているのを。
怖くない訳がないのだ。
相手はこの地域を荒廃させた主。
その存在に対する根源的な恐怖は払拭されないのだから。
だがこれからティナと共にその強大な力を持つ存在に挑む。
ならば自分に出来るのはただ一つ。
召喚術師として毅然と応じるのみ。
強がるティナを安心させるように悠馬はドレスアップをチェンジする。
次なる戦いに備える為に。
ティナのキャラ崩壊編。
どうしてこうなった……




