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11話 秘儀

◇3ターン◇


「くっ……

 鳥居よ、幾重にも並び立て。

 我が四方に鬼神の加護を招かん!」


 悠馬の召喚した幻獣を見たティナは結界術を唱える。

 これは術者の四方に障壁を張る術である。

 攻撃した瞬間、鬼が自動的に出現し反撃する。

 ライフラインであるシールドを守るだけでなく、全ての攻撃に対し反射対応する優れものだ。

 蒼が術式の無効化を得意とするのならば、紫は盤上の無効化を得意とする。

 守りに入った紫デッキを打ち破るのは容易ではない。

 ――そう、通常ならば。


「波濤はうねりを上げ大海へと通ずる」


 ティナの結界術を物ともせず悠馬はマナを伸ばす。

 そして悠長に魔導書を捲りながらターン終了を告げる。

 何もしないでターンを返す悠馬。

 ティナはその動向をどこか不気味に思いながらも今は無心で次の策を練るのだった。



 ユーマ  手札 7⇒6 マナ3 シールド3

 ティナ  手札 6⇒4 マナ3 シールド3




◇4ターン◇


「基は礎なり。

 百鬼の群れよ、夜行となり我が宴に集え。

 彼の者を蝕み狂乱へと誘え」


 次にティナが唱えたのは手数の多さで押し潰す召喚術だ。

 百鬼と呼ばれる無数の魔を次々に召喚。

 ガーダーで補い切れない数で襲い掛かる。

 しかもこの術の恐ろしい所は召喚酔いをしないということである。

 デメリットとして毎ターンマナと手札を使い続けなくてはならないが、結界術で守られてるティナは余計な動きをしなくとも鉄壁の守りを持つ。

 後はこの術式を維持するだけで勝ちが転がり込む。

 ティナの扱うデッキの必勝パターンであった。

 カウンターもなにもしてこない悠馬の動きが少し気になる。

 だがティナは気にせず百鬼に攻撃を命じた。

 悠馬はガーダーに防御を命じる事もなく甘んじて受ける。

 硝子の様に砕け散るシールド。

 シールド破損時の効果はマナを伸ばす事をセレクト。

 百鬼の攻勢を意に介さず、このターンもマナを伸ばすこと以外何もせずに悠馬はターンを終えた。



 ユーマ  手札 7⇒6 マナ5 シールド2

 ティナ  手札 5⇒3 マナ4 シールド3




◇5ターン◇


「再臨せよ、百鬼」


 またも襲い掛かる百鬼の群れ。

 悠馬はまたもガードせずシールドを砕かせる。

 このターンもマナを伸ばすこと以外何もせずに悠馬はターンを終える。


 ユーマ  手札 7⇒6 マナ7 シールド1

 ティナ  手札 4⇒2 マナ4 シールド3


>百鬼維持コスト手札1枚と4マナを毎ターン支払う。




◇6ターン◇


「何を……考えてるの?」


 再三の攻撃により、このターンついに悠馬を守るシールドはゼロになった。

 次のターンまでに降参するか本体にダメージを負えばデュエルは決着となる。

 だというのに、悠馬のあの不敵な笑みはなんだ。

 決して強がりではない。

 あの男はハッタリなど姑息な手段は使わないだろう。

 ならばその余裕っぷりはなんだというのだ?

 どうしてここまで無抵抗に身を晒す?

 せめてあの壁役のガーダーで防御すればいいではないか。

 一度きりとはいえコスパ的には破格のガーダーなのだから。

 呆れ混じりにそう考えた時、ティナは身震いした。

 この状況から逆転できる術はない。

 唯一つを除いて。

 遥か昔、魔導書が更なる力を所持していた神代の時。

 蒼は幻影や虚身だけでなく時間や空間さえも支配したという。

 まさかこの悠馬という少年は……

 戦慄を込めたティナの眼差しに悠馬はニヤリと笑う。


「気付いた様だな」

「まさか……そんな……」

「さすがに9マナは重かった。

 ティナのデッキが速攻系だったら戦術を変えなくちゃならなかった」

「悠馬……貴方はもしや……」

「色々フラストレーションが溜まり易いんだよな、この色って。

 まっ、だからこそこの場に持ち込めたんだけど。

 ――いくぞ、ティナ!

 これぞ時空をも司る蒼の秘儀! <因果の逆転>!」


 蓄積された莫大なマナが渦を上げる。

 悠馬の周囲に現出されたそれは荒波となり境内全てを一瞬にして覆うメイルシュトロームとなる。

 襲い来る大渦。

 まるで水平線そのものが竜巻になったかの様に錯覚するほど。

 しかしティナは冷静に判別した。

 確かに凄い術だ。

 だがこれが悠馬の奥の手でも、3枚のシールドで耐えられる!

 ショックを予想しティナは思わず顔を覆い閉眼する。

 ……が、予想されたショックは来ない。

 不可解に思いつつもそっと眼を開け周囲を窺う。

 そして絶句した。

 何故なら――


「これは……」


 呆然と呟くティナ。

 無理もあるまい。

 ティナは立っていた。

 自分の構築した玉砂利と社の上でなく、悠馬の構築した大海の上に。

 シールドが全て破損した状態で。

 そして何故か、悠馬が遥か彼方に腕組みをして立っている。

 自陣であった筈の社の上に。

 3枚ものシールドと、しかも結界術に守られて。


「どういう……こと?」

「これが蒼の秘儀<因果の逆転>だ。

 君と俺の状況そのものを『全て逆転』させた。

 手札枚数もシールド保持数もマナの数も展開した結界術なども全て」


 悠馬の指摘にティナは確認する。

 確かにその通りだった。

 ただ一か所だけ違う点があったが。


「ただし召喚したガーダーはそのままだ。

 君の場には攻撃参加後の百鬼夜行の群れが。

 俺の場には待機状態の虚ろなる従僕がいる」

「そうね」

「そして俺はこれから攻撃宣言を行う。

 虚ろなる従僕は1回しか攻撃に参加出来ない。

 だが……シールドのない今の状況なら1度で十分だ。

 対応するマナはないだろうし、全ての反撃は君の結界術が遮断する」

「ええ……そうね。

 貴方の言う通りだわ」

「それで――

 続けるかい?」

「――いいえ。

 降参するわ。

 貴方の勝ちよ、悠馬」

「よしっ!」


 ティナのリザインと共に瓦解していく世界。

 ガッツポーズを決め、悠馬は喜ぶ。

 そんな悠馬を穏やかに見詰めながらティナは問う。


「ねえ、悠馬」

「ん?」

「一つだけ……訊かせて?」

「なに?」

「この状況――

 最初から狙ってたの?

 全てが貴方の手の内にあるかのようだった」


 畏れをこめてティナは尋ねる。

 絶体絶命からのあざやかな逆転劇。

 客観的に見れば華麗なSHOW。

 しかし当事者にとっては畏怖しか抱けない。

 それにあの秘儀。

 様々な術法に通じるティナをして初見だった。


「ああ、それはさ――」


 バツが悪そうに頭を掻きながら悠馬は答える。


「たんに事故ってただけ。

 あの3枚のスペル以外、ほぼマナスペルだよ。

 だから最初からこういう状況に持ち込むしかないと思ったのさ」


 思いがけない返答に絶句するティナ。

 それだけで臆することなく戦ったというのか?

 あの百鬼夜行の群れと結界術の守りを前に。

 やはりこの少年、只者ではないかもしれない。

 感心するティナの内心を知らず、一方の悠馬といえば悪戯が見つかった童子の様にテレ笑いで応じるのだった。

 







 マナ事故って……嫌ですよね(涙)

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