2話 狼狽
眼を開けると悠馬の前には純白の草原が広がっていた。
(ここは……どこだ?)
混乱した思考のまま手で周囲をまさぐる。
手に伝わるのはしっとりした極上の絹のような感触。
もう少し味わってみたくて、思わずぐみぐみと揉んでみる。
次の瞬間、
「このヘンタイ!」
バチン!!
威勢のいい少女の声と共に、殴り倒される。
慌てて跳ね起きる悠馬。
目の前には下半身も露わな15歳くらいの金髪の美少女。
その隣には目前で起きてる事が信じられないとでも言いたげな18くらいのメイド服の少女。
(いったい何が起きてる?
っていうか、今俺ってこの娘の事を……)
あわわ。
あまりの事態に狼狽する悠馬。
どう見ても演技ではないその様子に、レミットも警戒を解く。
幸い今の発光現象を警戒してか、外の奴等は様子を窺っている。
今の内にこの転移してきたっぽい少年の目的を聞き出さなくては。
猫の様に四つん這いで忍び寄り、顔を近付ける。
赤面する少年の様子に、悪人ではないと直感する。
「アナタ……名前は?」
「うえ? あ、俺は悠馬。
久遠悠馬っていうんだ」
「クオン・ユーマ、ね。
長いからユーマって呼ぶわね。いい?」
「あ、ああ」
「あたしはレミット。
あっちの娘はアイレス。
とある理由で襲われてるの。
助けてくれない?」
「え? 襲われてる……?」
「そう、あたしは由緒ある家の出なの。
今はちょっと事情があって逃亡中だけどね。
報酬は弾むわ……
お願い、助けて!」
「でも……残念だけど、俺にはそんな力なんて……」
「それは嘘でしょう?
だって見えてるわよ、それ」
レミットに指摘を受けた悠馬は肩から下げた鞄を見下ろす。
そこに収めたデッキの数々。
それらが今や眩い輝きを上げている。
「それって魔導書でしょ?
しかもそんな強力なものは見た事が無い。
あたしと変わらない年齢に見えるけど……
アナタこそいったい何者なの?」
「いや、俺は普通の学生で……」
「まあいいわ。
今は内側の変態さんより外の狼さんの方が怖いから。
だからお願い、ここは助けて!」
必死に縋りつき懇願してくるレミット。
よく見ればその細い四肢は小刻みに震えている。
勝気そうに見えても年下の少女だ。
きっと恐怖を必死に堪えているに違いない。
場違いなドレスとメイド服の二人の少女。
年代物らしい馬車。
格子窓から見える鎧を着込んだ荒くれ者達。
(ここは……異世界か何かか?
何かが理由で転移した?
よく小説とかで見かけるパターンだけど……
当事者になると結構アレだな)
萎える脚を懸命に抑える。
悠馬は現代日本で育った普通の高校生だ。
少々カードゲームが得意なだけの。
こういった暴力行為に馴染みはない。
(正直暴力は苦手だ。
けど、こんな娘達を放っておけるか!)
悠馬は持ち前の決断力で判断すると、レミットに尋ねる。
自分の持つ魔導書……デッキの使い方を詳しく聞き出す為に。
次回、ついにデェエル開始です。