4話 選別
「ねえ、ユーマ!
見て見て、コレっ☆
何だか凄く可愛いんだけど♪」
「そ、そうだな。
でも……猫耳の装備品なんて絶対使わないからな。
よっていらない」
「え~~~~!
こんなに可愛いのに~~~~?」
「いらないものはいらない」
「ユーマのケチ!
い~~~だからね(><)」
「ゆ、ユーマ殿!
これを見て下さい!」
「はあっ……(溜息)
今度は何だ、カレン?」
「皇都で現在絶賛発禁中のこの本!
これは兄弟(誤字にあらず)の禁断の愛を描いた貴重な物語!
セレブな貴腐人の間で大人気なんですよ☆」
「――腐海の底に捨ててこい、そんなもの。
よって不要!」
「あああああああああ~っ!
そ、そんな殺生な~(涙)
ディープな絡みが……
鬼畜攻とリバ受の組んずほぐれつが……」
「何を言ってるかよく分からない……
が、理解しない方が幸せだろうという事は何故か分かる」
「あらあら、ユーマ様」
「どうしました、アイレスさん?」
「見て下さい、この香辛料。
わたくしの故郷にあるものに似てるんです。
トウガラシといいまして、料理に辛みをつけるために使われるんです。
とてもお料理に合うのですよ?」
「喜んでいるとこ、大変言い辛いんですが……アイレスさん」
「はい、何でしょう?」」
「それはトウガラシでなく、ハバネロです。
似てる様ですが――似て非なるものです。
っていうか、普通に料理に入れると味覚が破壊されますよ?」
「あら……そうなんですの?
残念ですわ」
悠馬の指摘に無念そうに顔を曇らせるアイレス。
悠馬達がいるのは宿場町で開催されているバザーである。
宿と宿の間に張り巡らされた防水シート。
天蓋の様にしっかり覆われる為、当座の雨は凌げる。
勿論変わらぬ強風の為、差し込む雨露までは凌げないのだが。
しかしそんな逆境も何のその。
増水などで足止めを喰らってる行商人達には絶好の商売の機会である。
商魂逞しい商人達によって臨時の露店が並びメルソムの街を賑合わせていた。
レミットが聞いた情報の後追いと気分転換を兼ねて、悠馬達は朝食後に外へと出たのだが……
アイレスと会話をする僅かな間にも、フラフラとあちらこちらの露店へレミットとカレンは顔を覗かせている。
雑多な品揃えと溢れる活気にどうやら興奮してるようだ。
見慣れない珍しい品々を手に取っては、楽しそうに大はしゃぎしてる。
貴族という肩書の中で生きてきたレミットにとって、悠馬の守護の下とはいえこうして自由を謳歌するのは初めての経験である。
ランスロード皇国マリエル侯爵家三女でない。
ありのままの素の自分を曝け出せる。
それは何にも代え難い、素晴らしい解放感だった。
カレンにとってもそれは同様である。
由緒ある騎士の家系に生まれた彼女は、堅苦しい模範的な生き方を物心がついた時より強いられてきた。
決してその事を恨んだり悔やんだりしている訳ではない。
だが……定められたレールにいない自分を確認出来た事が、何より嬉しかった。
こんな風に生きる事も出来る。
そう思うだけで叫びたくなる幸せが胸を占有する。
――とまあ、もっともらしい言葉を並べ説明してみたが……
様は二人ともテンションが上がり過ぎてハイになっているだけである。
特に気になる異性が傍にいるのだから衝動が加速される。
何かにつけて悠馬に構って欲しいのは子供じみた独占欲であった。
一方の悠馬といえば、レミット達というか女性の買い物に付き合う難しさを実感していた。
あちらこちらに振り回され反応を求められる。
上機嫌に不機嫌。
悠馬の一言に一喜一憂する為、気の抜く暇がない。
現にたった数時間だというのに疲労の極致にあった。
これなら朝からぶっ通しで夜までデュエルした方がマシである。
更に一番はレミット達の常識的な金銭感覚の無さに対する配慮だ。
あやしい呼び込みと売り込みにすぐに騙されてしまう。
幾らまとまった資金があるとはいえ限界がある。
金持ち故に庶民の感覚が薄いレミット一行。
放っておくと、無尽蔵に勧められるもの全てを購入しかねない。
旅に必要な物を選別し判断を下す。
購入物を把握し、制限する監督活動に大忙しな悠馬だった。
ただ、苦労以上に……
とびっきりの美女・美少女達と談笑し、喜ぶ様子を間近で見れるのは……何よりも楽しかったのだけど。




