表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/151

2話 因果

「もう! カレンの意地悪!」

「はは……すみません、お嬢様。

 お嬢様の可愛い反応を見たくて……つい」

「ふんっ!

 どうせあたしは単純だもん!」

「いえいえ、そんな事は……」


 へそを曲げるレミットに平身低頭というにはフレンドリーに謝るカレン。

 何となくだがカレンは理解した。

 すぐムキになる者をからかうのは意外に楽しい。

 無論それは険悪にならない程度に、という制約がつくが。

 自分をからかう事で同僚の騎士達も話を弾ませていたのだろう。


(今度は私も反撃させてもらおう……)


 腕組みをしてムクれてるレミットを優しく宥めながら、カレンは思う。

 同僚をからかうネタは実はカレンも結構持ち合わせている(お酒が飲めない、奥さんに頭が上がらない)。

 こうして同僚の与り知らぬ所で少し大人に(黒く?)なったカレンであった。


「じゃあ仲直りしたところで……

 せっかく用意してくれてることだし、カレンもご飯にしないか?

 アイレスさんの料理は今日も絶品だったよ」

「うん、ユーマの言う通りよカレン。

 あたし、食べ過ぎてもうお腹苦しいもの」

「あらあら、うふふ。

 お気に召したのなら幸いですわ」


 レミット達がいちゃついてる間にもアイレスは備え付けの暖炉に掛けていた鍋からスープをよそおっている。

 残念ながらパスタ類は冷めてしまったが、あたたかいものが一品でも食卓に上がるのは嬉しい。

 いくらシャワーで温まったとはいえ、外での作業で冷えた身体には何にも替え難いからだ。


「そうだな。

 ではさっそく戴くとしよう」

「その前にカレン、しなくちゃいけない事があるでしょ?」

「え?」

「そうですわよ、カレン様。

 早くお召し物を変えませんと」

「ああ」


 カレンは自分の服装を見直す。

 シャワーを浴びた直後という事もあり、今は宿に備え付けのバスローブ姿だ(頭にバスタオル装備)。

 標準的なサイズでは収まり切らない色々なものがアレして大変である。

 悠馬も意識しないようにしてはいたが、油断するとつい眼に入ってしまう。

 哀しい男のサガというものであろう。


「でも、お嬢様にアイレス。

 私の衣服は手入れした装備一式と共に、現在別室で乾燥させているところなのですが……」

「うん、分かってる。

 それは私達も一緒だったから。

 だからコレ。

 はい、どうぞ」

「これは……?」

「ユーマに召喚してもらったの。

 魔導書に封じられた魔導工芸品アーティファクトのひとつ。

 <スレイ帝国貴婦人のドレス>だって。

 耐寒耐熱耐魔に優れた逸品みたい。

 デザインは……ちょっと残念な感じだけど」


 レミットがカレンに差し出したのは悠馬のデッキに入っていたドレスだ。

 ゴシックなセンスで統一された古代帝国の遺品という扱いのものである。

 女性型ガーダー専用の装備品として重宝され、DPに1000の修正を受けると共に特定の色に対する防御<プロテクション>をも得る事が出来る。

 かなりのレア装備なのだが、女性陣の評価は散々であった。


「おお、センスはともかく防具としてこれは素晴らしい。

 ではさっそく私も着替えて――」

「はい、ちょっと待ってねカレン。

 じゃあユーマ、申し訳ないけど出て行ってくれる?」

「え?

 あ、うん勿論」


 レミットの尤もな指摘に同意する悠馬。

 椅子から立ち上がり一歩を踏み込んだ瞬間――


「はい、アイレス。

 そこで確保」

「かしこまりました」


 後ろから忍び寄ったアイレスによって羽交い絞めにされる。

 驚愕する悠馬。

 まったく気配を感じなかったのも怖いが、意外に強い力に身動きが取れない。

 悠馬は知らなかったが、この世界のメイドや執事は仕える主人の警護役を兼ねる事も多い。

 教育課程で護身術などをしっかり仕込まれるのだ。


「ど、どういうことレミット!?」

「ねえ、ユーマ」

「な、何?」

「まさか……

 身に覚えがないとは言わないでしょうね?」

「ひゃい?」

「――アイレス」

「はい、レミット様。

 ユーマ様におけるハレンチ行動報告ですが……

 この一週間で、


 偶発的な下着覗き  24回

 偶発的な露出補助  48回

 偶発的な身体接触  96回

 

 になります。

 もう少しで100の大台に乗る項目もございますわね。

 倍増しているのは狙ってらっしゃるのでしょうか?」

「そ、そんな訳ありません!」

「ええ、わたくしもそう思います。

 勿論これらは全て悪意無き偶然、と云う事も。

 ただ……黙って見過ごすにはあまりも……」

「そうね。アイレスの言う通りだわ。

 きっとユーマってそういう星の元に生まれたのね(溜息)」

「え、冤罪だ……」


 声を大きくして反論出来ない悠馬であった。

 二人の指摘通りここ一週間でトラブルが闇増ダークネスしてる気がする。

 悠馬のそういった体質は実は昔からあった。

 だが、こっちの世界に来てから更に悪化してるのは間違いない。


「ユーマには悪いけど、こういう時は監視させてもらうわ。

 これでも安全、という事が断言できないのがアレだけど」

「ええ――激しく同意致します」

「そうだな。

 私もお嬢様とアイレスの意見を支持しよう。

 この一週間でユーマ殿に何度押し倒されたか……」

「そんな人を暴漢魔みたいに……」

「ごめんね、ユーマ。

 恩義も好意もあるけど、女性としての恥じらいは別なの。

 という訳で、アイレス。

 そのままユーマを隣室に連れて行ってくれる?」

「はい、レミット様」

「もういいよ!

 分かったよ!

 このまま出て行けばいいんだろ!」


 憤慨する悠馬。

 アイレスに羽交い絞めされながら、荒々しく隣室へ続くドアを開ける。

 途端――奇跡が起きた。

 ドアを開けた衝撃で壁から落ちる絵画。

 落下した絵画によって前へ押されるハンガー。

 倒れ込んだハンガーの柄が狙ったようにカレンのバスローブに掛かり――


「えっ?

 えええええええええ!!??

 きゃあああああああああああああ!?」


 全身を曝け出すカレン。

 驚きよりも何が起きたのか分からずその場に蹲る。

 濡れてるとはいえ下着を履いていたのがせめてもの救いか。

 しかしいったいどのような偶然が作用したのか。

 まるで某国営放送のピタ○ラスイッチみたいな動きであった。


「あらあら……(困惑)

 結局はこうなってしまうのですね……」 

「ちっ、違いますって!

 っていうか、今のって俺が何かしました!?

 ただドアを開けただけですよね!?」

「さあ……

 ユーマ様は時折因果律を超越なされるので……」


 ほんわか悟った様に呟くアイレス。

 必死に誤解だと訴える悠馬。

 その時悠馬は気付いた。

 拳を固め、俯きながらも気を込めるレミットの姿に。


「ご、誤解だレミット……

 ちゃんと見てただろう?

 俺は本当に何にもして――」

「ユーマの……

 特大エッチいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 電光石火。

 レミットによる腰の入ったツッコミが放たれる。。

 素早く身を離し控えていたアイレスの脇をフィギュアスケート選手の様に回転しながら飛ぶ悠馬。

 仕立ての良い絨毯へ錐揉み着地した後は定番の一言。


「ふ、不幸だ……(ガクッ)」

 




 書き足し更新。

 悠馬のハレンチ体質は因果律を超えるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ