1話 赤面
「ふう~美味しかった~」
「まったくだよ。
ご馳走様、アイレスさん」
「いえいえ。
お粗末様でした」
大満足で感謝を述べるレミットと悠馬に、アイレスは少し誇らしげな……でもおっとりとした微笑を浮かべ香茶を差し出す。
適度な熱さに冷まされた香茶は食後の締めには最適だ。
喜びカップを傾ける二人。
ハッカの様な香りとは違い、口に残るのは酸味が掛かった少し変わった風味。
だが美味しいものを食べた後だと、この口がさっぱりする感じが堪らない。
特に今日のメニューは、
程よく濾された河エビのスープ。
鮮度がいい野菜をふんだんに使ったサラダ。
名物の茸を隠し味に使った香草と牛肉のパテ。
獲れ立ての貝を絡めたクリームパスタなど。
そのどれもが思い返すだけで垂涎しそうなほど濃厚だった。
悠馬も日本育ちということもあり結構舌は肥えている方だ。
しかしこの琺輪世界に来てから……
というより、アイレスの料理を食べ続けてきて不満を感じた事はない。
高校生故ジャンクなものが好きな傾向があったが、ここ一週間で素材の味を活かすアイレスの腕前に魅了されてきてる。
たまに立ち寄る街の料理屋で食べる食事は大味で辟易させられたので、これは単純にアイレスの料理スキルの高さだろう。
(アイレスさんとは絶対離れられないよな……
この腕前は何というか……反則だと思う、うん。
それにアイレスさんって慎ましいし、すっごくいい奥さんになりそうだ。
あと……メイド服に隠されてるけどスタイルもかなりいいし)
不遜な事を考えながらいつのまにかじーっとアイレスを凝視してる悠馬。
そんな悠馬にアイレスは何か御用でしょうか、と問う様に小首を傾げる。
童女のような仕草もどこか浮世離れしたアイレスが行うと良く似合っていた。
慌てて目線を逸らす悠馬。
動揺する悠馬を面白くなさそうに見詰め、頬を膨らますレミット。
ここ一週間でよく見られる光景である。
不機嫌そうなレミットの様子を見た悠馬は取り敢えず間を保たせようと、先程レミットから聞いた話を尋ねてみることにした。
「そ、そういえばレミット」
「なーに?
何か御用、ユーマ?(ふーんだ)」
「(うっわ……かなり機嫌悪そう)
さっき言ってた沼地の悪霊の話だけど……」
「うん」
「詳しい事を聞いてきたのか?」
「まあね。
だってユーマには必要なんでしょ?」
「それは、まあ……」
レミットの指摘通り、ここ一週間でユーマは襲撃者にいた召喚術師とのデュエルを通して得たアンティや魔導書の翻訳機能により契約した存在達の恩恵もあり格段に力を増している。
どうやらレミットはそんな悠馬の手助けをしたくて色々聞き込みをしてくれたようだ。
「全部俺の為か。ありがとな」
「む~お礼はいいから褒めてよ~」
「はいはい。
お嬢様のおっしゃる通りにします。
……よく頑張ったな、レミット」
「えへへ~ありがとう♪
ユーマに褒められると何か嬉しい」
不満を述べるレミットだったが、悠馬に自慢の金髪を撫でられ始まるとすぐにだらしないにやけ顔になる。
寂しがり屋なレミットにとって手間の掛かる妹の扱いで慣れた悠馬のあやし方は至極の魔技らしい。
まるで家猫の様に目を細めて快楽を貪る。
そんな穏やかな一時だったが
「はあ~疲れた。
さすがの私もそろそろ限界だ。
アイレス、すまないが早々に私の分も……」
湯上りと云うかシャワーを浴び終えたバスローブ姿でカレンが入室してくる。
無遠慮なその声に我に返り慌てて身を離す悠馬とレミット。
そんな二人を見ながら「もう少しでしたのに……」と物騒な事を呟くアイレス。
急にシーンとなった室内。
赤面する一組の男女。
何かを思いついたような顔してカレンはポンと拳を打ち合わせる。
そしてレミットに近寄るや、そっと形のいい小さな耳に呟く。
「もしかして……
お邪魔でしたか、お嬢様?」
意地の悪いカレンの質問に、
「し、知らない……
もう、馬鹿」
顔を真っ赤に上気させながら応じるレミットであった。
新規お気に入りと感想、本当にありがとうございます。
今章は各キャラの萌え度強化週間になります。




