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17話 旅立

「いい加減にしないと怒るからね、ユーマ。

 女の子の肌をみだりに、しかも淫らに見るのはイケナイ事なんだよ?」

「はい、すみません……」


 正座し反省する悠馬に指を突き付け説教を行うレミット。

 意図しないとはいえ、確かにカレンの露出した胸部を見たのは認める。

 あれはその何というか……凶器だ。

 しかも戦略級の。

 物理的な圧力が視界を捉えて離さない。


(けど、自分に過失があった訳ではないと思うんだけど……)


 そう思う悠馬だったが、考えるだけで止めておいた。

 重ね重ね、この短時間で学習している。

 一方、乙女な悲鳴を上げたカレンだったが、おっとり駆け付けたアイレスが馬車から取り出したケープを羽織らせたことにより落ち着きを取り戻した。

 だが、騎士にあるまじき軟弱っぷりを発揮した事に膝を抱え自問自答してる。


「こんな風では騎士失格……」

「いや、肌を見られた反応としては正しいのか……」

「否、命の恩人に対して……」

「ならば二人きりなら……」

「しかし女性からアプローチするというのは如何なるものなのか……」

「あの~カレン様?

 先程から思考がダダ漏れしておりますけど……」


 厳格な家庭に育ち堅物なカレンだったが、そこはまあお年頃(17歳)。

 この琺輪世界の適齢期が20前後という事もあり、そろそろ伴侶という存在が気になる。

 まして何事にもムキになるカレンは、大変からかい甲斐がある人物として同僚に絡まれていた(「そんな風では嫁にもいけぬし、旦那も来ないぞ?」等)。

 さらに屋敷勤めの侍女たちが面白おかしく色々吹き込んでいた。

 一言でいえば……耳年増である。

 だからこそ妄想が暴走しやすいのだ。


「え~と、カレン?」

「はい、ユーマ殿!

 わ、私とて覚悟は出来ております!

 でもその……初めてなので出来れば優しくして頂けると嬉しいというか……」

「いや、何の話?」

「えっ……?

 それはその――若々しいアレな衝動を押さえ切れなくなったユーマ殿がお嬢様とアイレスを手籠めにせんと迫りくるので、私が身を挺して身代わりになり改心したユーマ殿と愛を育みゴールインする……という話ですよね?」

「長いよ!

 何その無駄な設定。

 っていうか、どんだけカレンの中の俺は鬼畜なのさ」

「カレン……

 いい加減治さないと致命的よ、その妄想癖……」

「もう手遅れかもしれませんわ」


 戦慄する悠馬とレミットにしれっと微笑み告げるアイレス。

 その前では再度召喚され直したグリフォンが「クア?(まだ乗らないの?)」と馬車を抱え欠伸をしていた。


「まあ何はともあれ、その魔導都市とやらを取り敢えずは目指すんだろう?

 ならばこいつで空から行くのが比較的安全だな。

 勿論、追っ手は警戒しなくちゃならないだろうけど……それでいいか?」

「あ、はい!

 是非とも頼みたいです、ユーマ殿」

「あたしも賛成。

 よろしくね、ユーマ」

「お願い致しますわ、ユーマ様」

「じゃあ馬車に乗って。

 いくぞ、みんな。

 目的は遥か遠方の地、魔導都市<エリュシオン>へ!」

「「「おお~~~!!」」」


 悠馬の掛け声と共に力強く羽ばたく鷲獅子。

 馬車の重さを物ともせず大空へ舞っていく。

 こうして……

 レミット達を乗せた悠馬一行は、遥か西方地域を目指し旅立つのだった。















 






 一方、その頃――


「そうか、襲撃は失敗したか」

「はい、申し訳ございません」


 悠馬達のいる皇都近郊から懸け離れた場所。

 そこは静寂が満ちる大聖堂。

 積み重ねた歴史、厳粛さが支配するその空間で密談するのは二人の人物。

 共に頭から儀礼用の司祭服を着込んでいる為、顔は窺えない。

 かろうじて体格と声から男女であるという事が分かる。


「護衛の者は傍付きと女騎士を残し全滅。

 今少しのところまで追い詰めはしたのですが……」

「通りがかった流浪の召喚術師が立ちはだかった、と?」

「ええ。恐ろしい程の腕前でした」

「……あやつらに与えた魔導書のランクは?」

「E(汎用)~D(試練)になります」

「ふむ。

 ならばB(実践)までの解禁を赦す。

 禁書庫より帯出せよ」

「……よろしいのですか?」

「毒を以って毒を制す、という事だ。

 何をさておいても、あの娘には死んでもらわねばならぬ。

 それはお前も理解しておるだろう?」

「はい」

「ならばこそ、だ。

 人選はお前に一任する。

 早急に対応するがいい」

「はっ」


 深々と一礼し、退室する女司祭。

 その表情には失敗は許されないという悲壮な決意が宿っていた。

 だが残された男司祭はそんな女司祭の様子を窺う事無く、ただ正面奥に飾られた聖人像を眺めるのみ。


「間違いは正さねばならない。

 過ちは償わねばならない。

 そうではありませぬか?

 忌まわしき大災厄の再来を避ける為に。

 そして……世界をあるがままの姿へと」


 恍惚と呟く男。

 その口元には、狂気に歪んだ半月が浮かんでいた。




 露骨な伏線。

 これにて序章終了です。

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