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16話 憤慨

「……マ。ユーマ!」


 必死に自分を呼ぶ誰かの声。

 内面世界に埋没してた悠馬はふと顔を上げる。

 視界いっぱいに広がる可憐な少女の容貌。

 その瞳には今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいた。


「あれ? レミット?」

「レミット? じゃない!

 ユーマってばさっきから呼んでも返事がないし……

 本当に大丈夫なの?」

「そうだったのか……?

 うっ、ゴメン」


 よく考えてみれば、朝からサガの大会に参加し、10回戦を駆け上がり、こちらの世界に召喚されてからもデュエルの連続で休憩らしい休憩も取れてない。

 体力はともかく精神力には自信のある悠馬だったが、さすがに限界が近いかもしれない。

 それにレミットに不安な思いをさせてしまったのも大きなマイナスだろう。

 悠馬は慌ててレミットに頭を下げる。

 そんないつもの悠馬の様子に、レミットはそっと安堵する。

 戻ってきてくれた……

 さっきまでの怖いユーマじゃなくなった……

 ただその事が嬉しくて微笑んでしまう。

 悠馬はそんなレミットの笑顔にぽけーっと見惚れてしまった。


「ううん。気にしてないから。

 それとね、ユーマにさっきからお礼を言いたい人がいるんだけど」

「え?」

「そうでしょ、カレン?」

「ありがとうございます、お嬢様」


 レミットに促され、ボロボロとなった鎧を引き摺る様に女騎士がユーマの前に歩を進める。

 ユーマをしっかり見定め、疲労困憊な身体を気丈にも奮い立たせながらユーマに向き合う。

 大分汚れているも容姿端麗と云うか整った顔立ちをしている。

 髪が長いからそんな感じはしないが、男装の麗人というイメージがしっくりくる感じだ。

 レミットもアイレスもそうだが、この世界はホント美人さんばかりだと思う。

 普段カードゲームばっかりにかまけて女性と接する機会があまりない悠馬にとって、色々とドキドキさせられっぱなしだ。


「私の名はカレン・レザリス。

 この度は私ばかりではなくお嬢様まで助けてくれたとか。

 マリエル家に仕える騎士として、ユーマ殿には感謝してもし切れない」

「いや、そんな大したことじゃないですよ。

 本当に成り行きで……それに大して手伝いも出来なかったし」

「そうなのか?

 アイレスに聞いた話だと、英雄叙述詩の主人公の様な活躍と聞いたが……」

「アイレスさん!」

「申し訳ございません、ユーマ様。

 カレン様が望むので……つい」


 あまり自分の力を広言し内でほしいと言ったのに(もう~)。

 憤慨する悠馬に、アイレスはおっとりとした微笑を返すのみ。

 悪びれた様子はまるで無い。

 むしろ赤い舌を「てへペロ」とでもしそうである。

 まあカレンの目前でデュエルをした以上、いずれ露見したに違いないが。


「何を聞いたかは分かりませんけど、本当に成り行きですから」

「ならばせめて私を救ってくれた事だけでも感謝させてくれ。

 君がいなかったら私はオークの慰み者にされていただろう。

 女性としてそれだけは避けたい未来だ」

「確かに」

「残念がらくだんの召喚術師は死んでしまったのだな」

「ええ」


 悠馬はちらりと横目でダズだったものを見る。

 魔導書から燃え上がった炎はいつの間にかダズの遺体も燃やし尽くしていた。

 まるでそんな存在などいなかったと、そう主張するかの様に。


「お嬢様を狙う者達の詳細は分からず、か。

 だがそれだけでもやれる事はある」

「ですね」

「君も一緒に魔導都市へ来てくれると聞いた。

 君の様な歴戦の召喚術師が仲間になってくれるならまことに心強い。

 改めてよろしく頼む」

「こちらこそです、カレンさん」

「堅っ苦しいな。呼び捨てでいい」

「じゃあ、カレン。

 道中よろしく」

「ああ」


 ユーマに差し伸べられるカレンの手。

 悠馬は躊躇することなくその手を握る。

 交し合う手と手。

 信頼の証なのか、手に込められた力は強かった。

 悠馬も負けじと握り返す。

 そんなムキになる悠馬を、微笑ましいと穏やかに見守るカレン。

 だがその瞬間、バキン……と錆びた螺子が弾け飛ぶ音がする。

 再三述べるが、カレンは半日近く戦っていた。

 そして頑強な鎧もダメージを蓄積し続けてきた。

 よって握手という今の可動域動作が致命的だった。 

 何故か剥がれ落ちる胸部装甲。

 先程の圧し掛かりで肌も露わな服装。

 その結果として――


「え……?」

「いっ!?」


 悠馬の前で肌色の何かが揺れている。

 内包されていたのが信じられないくらい大きなそれ。

 揺れ動くたびに凄い吸引力で悠馬の視界をジャックし、良く見れば中央には――


(き、着痩せするタイプなんだな、カレンは……

 何というか、凄い。宇宙です)


「きゃああああああああああああああああ!!」

「ゆ、ユーマのエッチ!! 最低!!」


 感慨深く思う間もなく左右同時にかまされるビンタ。

 宙を竜巻の様にスピンし地面へ熱烈にキスをしながら悠馬は呟く。

 昔見た小説の主人公のように。


「ふ、不幸だ……(ガク)」

 

 



 いつもの悠馬時空発生です。

 きっとこれには壮大な伏線が隠されてる筈です……多分。

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