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15話 実感

「ふう……何とか間に合ったか」


 瓦解していく結界を見詰めながら、悠馬は冷汗を拭う。

 本当にギリギリの勝利だった。

 ダズの使用していた魔導書デッキは速攻ウイニー型。

 更に云えば自身が傷付く事を厭わないスーサイド(自殺)タイプでもある。

 サモンオブガーディアンズの試合は通常スイスドロー形式で行われる。

 これは初戦を終えた後、相手のデッキに応じたカードを入れ替え、再度戦って2本先取した方が勝利を得ると云う形式だ。

 予備カード<サイドボード>がある事により比較的苦手なタイプのデッキにも勝利することが可能なのが<サガ>の戦術の奥深いところである。

 ダズの様なデッキは初戦はかなりの勝率を誇るも、対策カードも多く対処し易い為、2戦目以降は負けやすい。

 トータルとしてみれば勝ち越せない傾向が見られる。

 ただこの世界のデュエルは初戦決定型の形式が多いようだ。

 それ故ダズのような戦術も有効なのだろう。


「ホントに危ないとこでしたな、兄さん」


 殲滅龍の異名を持つドラゴンを片手で容易くあやしながら、しみじみとした口調でドラナーは語る。

 ランクアップし、紅蓮の担い手たる<龍操師>になった今のドラナーにとってドラゴン族は可愛いペットのような感覚なのかもしれない。

 現にあやされるグ・イレイズは目を細め喉をグルグルと震わせている。

 そこには荒ぶる暴君の姿はなく、どう見ても図体のでかいコタツ猫のようであった。


「ああ、ドラナーの力に救われたよ。

 本当に感謝してる」

「ぶっつけ本番こんな真似をするなんて……

 そんな博奕打ちなデュエリストはそうはいやせんぜ?」

「いるじゃないか、目の前に」

「まあ、確かにそうなんですが……

 まったく。兄さんには敵いませんや」


 屈託なく笑い合う二人。

 その時、ガラスの砕け散るような音と共に結界が消滅する。

 召喚術師達の決闘場であるバトルフィールドは完全に消え、召喚されたものは全て消える。

 勿論つい先程まで談笑していたドラナーとて一緒だ。

 魔導書を通じ会話は出来る。

 しかし相手の姿が見えないというのは何かが足りない気がする。

 その事に一抹の寂しさを覚える悠馬。

 だが今はやらなくてはならない事がある。

 大地に這いつくばり赦しを請う者、敗者であるダズの処罰である。


「さて、まずはアンタの後始末だな」

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいい!!」

「安心しろ、命は取らないよ」

「ほ、本当か?」

「嘘は言わない。

 ただデュエルの掟だ。

 掛札<アンティ>をまず精算しよう」

「あ、ああ」


 悠馬の言葉に魔導書を掲げるダズ。

 すると魔導書が自動的に開き、中から輝きが洩れ一枚のカードになる。

 それは先程のデュエルで使われた<怒れる軍勢>の符だ。

 このように召喚術師は原則デュエルを通じて力を増していく。

 勝てば勝つほど魔導書たるデッキの力が高まるという訳だ。


「それがオレの切り札だ……

 それで勘弁してくれ」

「うん。分かった。

 二度とレミット達に危害を加えないと約束できるなら解放しよう」

「ありがてえ」

「ただ一つだけいいか?」

「何だ?」

「事情は本人から聞いたけど……少し腑に落ちない。

 レミット達を何故狙う?

 公女とはいえ三女だろ、レミットは。

 戦乱を避ける為とはいえ、召喚術師を幾人も追っ手に差し出すような政治的な価値があるとは思えない。

 お前の依頼主はいったい誰なんだ?」

「ああ、それは……」


 悠馬の質問に気安く応じようとしたダズ。

 しかし次の瞬間、再度輝くダズの魔導書。

 悠馬が割って入る間もなく、輝きは無数の剣となりダズの身体を刺し貫く。


「ぐはっ……なん、で……?

 話が……ちが……」


 何が起きたか見当もつかないという顔でダズは絶命する。

 そしてダズの魔導書は役目を終えたとばかりに勝手に燃え上がり始める。

 呆然とする悠馬。

 懸命に前へと伸ばされたダズの手。

 それは果たして救いを求めていたのか。

 あるいは自分を襲う不幸へと引き摺り落そうとしてたのか。

 悠馬には分からない。

 ただ一つだけ分かった事がある。

 

「大丈夫、ユーマ!?」


 デュエルを行う召喚術師以外が隔離される結界が砕けた為、デュエルを観戦し悠馬を応援していたレミット達が駆け寄る。

 その目前で急に命を落とすダズ。

 いったい何が起きたのか?

 あの輝きは何故ダズを殺したのか?

 デュエルに詳しくないレミットには何が起きたか分からない。

 けどそんな事よりレミットは悠馬が心配だった。

 異世界より召喚されたという少年。

 エッチでお人好しで馬鹿で……

 でもちょっとだけカッコイイ。

 そんな悠馬に惹かれているは確かだ。


「ねえ、ユーマ。

 ホントに大丈夫……」

 

 なの?

 質問する声は尻すぼみになる。

 何故なら、人の死を前にした悠馬は――

 いつも気弱そうで頼りなさげな悠馬の口元には――

 

(随分面白くなってきたじゃないか……

 ああ、俺はこの世界に来た事を感謝してる。

 だって……

 こんなにも生きてる、って。

 命を実感出来る瞬間なんて……あっちの世界には絶対ない)


 






 歪んだ半月が浮かんでいた。



 お気に入り登録ありがとうございます。

 次話は1時くらいに更新予定です。

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