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71話 究極

 ◇4ターン◇


「さてはて。

 今度は吾輩が悩む手番ですか」


 魔導書からのドロー後。

 アクティブ状態になったガーダーを見回しリカルドは苦笑する。

 先程とは一転、自軍によるオールアタックで今度はリカルドが悠馬にチェックメイトを掛ける事が可能な立場となった。

 しかし不気味なのは悠馬の動向だ。

 増強スペルを使用後、マナを温存しターンを終了したのだ。

 通常であれば詰みの状況。

 だが相手は七色を自在に借るデュエリストにしてハイランダー。

 何かしらの奥の手があると推測される。


「まあ、結局やる事は決まっていますが」


 嘯くように呟いたリカルドは攻撃宣言に入る。

 シールドを2枚も代償とし発動した絶渦の福音。

 ターン終了時まで続くこのスペルの影響下にある限り、自分及び自軍ガーダーの行動にありとあらゆる干渉を受け付けなくなる。

 ならばここは臆すべき時ではない。

 何せ自分には――吾が主には、もう後がないのだ。

 頼りない未来へ続く糸を手繰り寄せ紡ぐ。

 その為ならば、自分は如何なる代償をも払おう。

 ……たとえ何もかも喪うとしても。



「攻撃宣言」


 リカルド配下の騎士、兵士達が一斉に武器を掲げる。

 目指すべきは悠馬の領土。

 陣地に敷かれたシールドを全て破壊し悠馬を捉えた時、この戦いに終止符が打たれる。

 形成された闘技場に響き渡っていく荒々しい喚声。

 しかし悠馬は動かない。

 氷の刃の様に冷たくも鋭い眼で敵軍を見据えるのみ。

 何か手はあるのか?

 はたまたハッタリか虚勢か?

 闘い慣れたリカルドをしても悠馬の真意は分からない。

 だがこの絶望的状況下でなおも光を喪わない瞳を好ましいと思う。

 かつて刃を交えた好敵手達も皆そんな顔をしていた。


(手加減及び手の内を探る真似は無用。

 ここでケリをつけましょう)


 いざとなれば、今引いたこのスペルを使うまで。

 必ず勝つ。

 勝利への強い渇望と決意を胸にリカルドはついに総攻撃を命じた。


「我は招く――」


 それを見届けた悠馬は召喚符を構える。

 翠・蒼・紫。

 三色の混合マナが召喚ゲートを生み出す。


「汝は深き森に閉ざされし神域の主にして術師。

 古きより伝わるいにしえの秘儀を紡ぐ者。

 出でよ! 神層の奏者<階層主フレアリーズ>」

「御身が前に」


 悠馬の招きに応じ現れたのは、流麗なドレスを纏った妙齢の女性だった。

 顔に施された自然を象徴するメイクが鮮やかである。

 大地に降り立った彼女は両手を組み祈りを捧げる。

 次の瞬間、非アクティブ状態だった悠馬のヴァイタルガーダー達はアクティブ状態へと移行する。

 それだけではない。

 使い切った筈の悠馬のマナまでも活性化している。

 森に閉ざされた神域の主である彼女。

 いにしえの秘儀を扱う術師でもあるその効果は至ってシンプル。

 階層主フレアリーズが戦場に出た瞬間『全て』のカードを活性化アクティブさせる、というもの。

 そう、完全なるフリースペル扱いなのだ。

 彼女を招くマナ、そして攻撃や能力の使用により非アクティブ状態になった自軍を疲弊する前まで回帰させる。

 先程召喚したフラックと対を為す、恐るべきガーディアンの一体であった。

 確かに<絶渦の福音>下であるリカルドを相手に通常スペルは通用しない。

 しかし戦場に出た効果(CIP:カムイントウプレイ)は別だ。

 敵軍に効果は及ばず、かつ対象を取らない。

 よってその力は如何なく発揮される。


「さすがはユーマ殿。

 貴殿ならそこまではやるでしょうな。

 されど……甘い!」


 戦場に出た効果の発動に間髪入れず割り込むリカルド。

 使い切った悠馬のマナ、そのマナが階層主フレアリーズの力により回復する僅かな隙をつく。

 放たれたスペル構成は<神聖なる埋葬>。

 神罰の具象化。

 それは敵軍のガーダーを全て異次元に追放するというもの。

 見返りとしてその分マナは伸びる。

 が、DPに関わらずどんなガーダーをも排除出来るこのスペルは驚嘆の一言だ。

 アクティブ状態になりブロックに回ろうとした悠馬の配下達。

 忠誠を誓う彼等は全て追放されてしまう。

 マナは回復したものの、悠馬を守る者は誰もいなくなった。

 無慈悲に突き進むリカルドの配下達。

 彼は傷つかず、ありとあらゆるスペルの『対象』となる事もない。

 間違いない。

 今度こそ絶対絶命かと思われたその時――

 悠馬が再度召喚符を構える。

 不敵な笑みを、より深くしながら。


「ああ、俺は甘い。

 貴方に比べ経験も技量も足りていない。

 だからこそ――貴方は敗北する」


 言葉と共に悠馬は召喚に入る。

 戦場に出ているマナは七つ。

 それが七色の色彩を放ち渦を巻く。


「これは――」

「こいつを召喚するには条件が特殊過ぎてね。

 七色のマナを用いて七色のガーディアンを召喚した後でないと唱えられない。

 通常なら間に合わなかっただろう代物さ。

 でもリカルド、貴方ならやってくれると信じていた」

「信じる?」

「ああ。

 優位にあった俺を追い詰めてくれると。

 反撃を危ぶむほど必死に攻め立ててくれる、と。

 だからこそ今発動する。

 絶対にして究極の召喚術が」

「なんですと!?」

「俺は知った。

 召喚術師の限界、その最果ての先を。

 召喚術とは何か?

 それは簡単にいえば繋がる力だ。

 信頼と信用。

 打算と等価。

 世に理は多い。

 けれど誰もが相互に干渉し合っている。

 俺達はその繋がりをカタチにする。

 だから――

 自分に限界を設けなければ、その力は何処までも伸びていく事が出来る!」

「いったい何を――」

「何故、召喚というカテゴリーに拘る?

 俺達は魔導書を通し多次元に干渉する事が出来る。

 ならば本来、時間も空間も生命をも超越できる筈なんだ。

 だからこれは俺の力そのものの具象化だ。

 固有結界に匹敵、凌駕する絶対のロジック」

「まさかユーマ殿、貴殿は――」

「ああ。

 召喚術による<召喚術の召喚>。

 サガ、いや召喚術に最強最高のカードはない。

 しかしこれこそが究極の一であることは間違いない。

 さあいくぞ、英雄リカルド!

 手札の準備は十分か!?」


 悠馬の背後の空間へ具象化する巨大な召喚陣。

 それは召喚陣が召喚陣を召喚し、相互に補完強化していく。

 やがて完全に姿を現したその構成を見た瞬間、リカルドは敗北を知った。

 眩い閃光を放ち、輝く召喚陣。

 そしてその内より次々召喚されていくヴァイタルガーダー。

 デッキの象徴、ガーディアン。

 積層型召喚陣による守護者の連続召喚。

 これこそ悠馬の秘奥だ。

 一騎当千とも称されるもの達が戦場へ並び立って行く。

 それは敵対者にとってまさに悪夢としか言い様がない。

 神の恩寵を受けたリカルドの軍。

 歴戦の勇士たる彼等を対抗する事は出来ず戦場から消えていく。

 個を対象とした効果は確かにリカルド軍には効かない。

 だからこそ悠馬は連続召喚による多重発動により、闘技場の法則そのものを打ち壊したのだ。

 よって残されたのは圧倒的な手勢による多層多重攻撃。

 まさにワンサイドゲーム。

 リカルドは見誤った。

 悠馬のデッキはハイランダーでもコンボでもない。

 対戦者によって自在に特色を変える万色の構成。

 例えるなら、万華鏡<カレイドスコープ>デッキとでも呼ぶべきか。

 次々召喚され発動される効果を必死に捌こうとするリカルド。

 なれど全力を以ても抗う事は叶わない。

 そして――遂に配下が消え去り、シールドは全損となる。

 とどめの一撃を放とうとする悠馬を手を上げ制止するリカルド。

 いつの間にか立ち昇り砂漠を照らす朝日に映し出されるその顔は――

 どこか清々しさに満ちていた。


「……吾輩の負けです。

 ユーマ殿、貴殿の勝利だ」


 潔いリカルドの降参宣言サレンダー

 この瞬間、悠馬は長き戦いに終止符を告げた。

 何よりこの瞬間より悠馬の……七色の召喚術師の伝説が始まったのだった。







大変お待たせしました。

年末進行で仕事が忙しいので更新が滞ってすみません。

でもあと数話で年内中に完結したいと思います。

どうか最期までお付き合い下さい。

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