70話 窮地
「さて、どうしたものかな」
自ターン開始後、ドローを終えた悠馬は思案する。
こちらの陣営にいるガーダーは4体。
万色の輝き<始祖鳥、バッパラ>
家福の招手<家守人、加賀美霧華>
甦りしもの<埋葬者ノスフェラス>
運命道化師<嘲笑者ラック・フラック>
名高るガーディアン達がアクティブ状態で並び揃い、悠馬の指示を待っている状況だ。
対するリカルドは7体ものガーダーを召喚しているものの、現在は運命道化師の能力により、全て非アクティブ状態。
迎撃にもブロックにもいけない。
手札にあるブーストスペルを使えば、このターンの内に全てのシールドを破壊し勝利する事が出来る。
マナを使い切っている以上、反撃する術はないからである。
だが……それはあまりに安易過ぎる判断だ。
歴戦のデュエリスト達。
彼等は逆境に対する切り札を懐に備える。
悠馬の師匠とでもいうべき人は常々言っていた。
自分が有利である。
そう思った時ほど用心なさい。
チャンスとピンチは紙一重。
浮かれた気持ちでデュエルに臨めば足を救われる、と。
確かに彼の指摘は正しい。
一見するとチャンスに見えるこの状況。
果たしてそれは本当にそうなのだろうか?
過去の対戦時を回顧するまでもない。
リカルドはマナを不要とするピッチスペルの使い手。
何かしらの代償と引き換えに、この状況からでも逆転する事を可能とするかもしれない。
よって慎重な対応を求められる。
しかし結局は決断しなくてはならない。
悠馬は攻撃へ転じる事にした。
死中に活を求めるといった訳ではない。
みすみすこのチャンスを棒に振る事。
それは才に恵まれなくともコツコツ積み上げてきた自らのプレイングスタイルに沿わない。
今の自分に必要なのは不確定な未来を選ぶ決断力。
前へと飛び込む、ほんの少しの僅かな勇気。
「よし……ここは攻めだな。
マナリンク接続。
その後<怒れる軍勢>をキャスト」
悠馬が唱えたのは、かつて下した召喚術師から譲渡されたスペルだ。
ターン終了時まで自軍ガーダーにAPとDPに1000の補正が掛かるだけでなく、ブロックしたガーダーのDPを超えたAPは直接シールドか本体へぶつける事が可能となる。
つまりオールアタックにより勝利を掴む事が出来るのだ。
幾分かの躊躇いの後、悠馬は攻撃宣言を行う。
レスポンスもなく無防備で佇むリカルド。
何も無ければ悠馬の勝ちだが――
「シールドを代償に吾は願う。
天上に住まわいし偉大なるものよ。
道に迷いし吾らに、仮初めなれど刃を退ける絶対の庇護を。
かの災厄を撃ち滅ぼす福音と成せ。
主の威光は偉大なり! <絶渦の福音>」
無論、そうは問屋が卸さなかった。。
リカルドが唱えたのはシールドを代償とするピッチスペルである。
2枚ものシールドを代償とする代わりに、次の自分ターンの終了時まで、自分及び自軍ガーダーの行動にありとあらゆる干渉を受け付けなくなる。
敵軍の攻撃によるダメージだけではない。
手札破壊、カウンター封じ。
さらには自軍全てが破壊不能を持つのだ。
攻撃にもブロックにも滅びる事なき無敵の軍勢。
これにより悠馬の攻撃は完全に無効化。
ばかりか攻撃後の自軍は非アクティブ状態になってしまう為、今度は悠馬の陣営が無防備さを晒す事となる。
チャンスから一転、大ピンチ。
窮地に追い込まれる悠馬。
しかし悠馬はこのぐらいの展開は予想していた、とでも言いたげな不敵な笑みを浮かべターンの終了を告げるのだった。




