68話 魔戦
◇1ターン◇
「清き清廉なる大地の祝福を以て、
集い来たれ<勇壮なる兵士団>よ」
先手を切ったのはリカルドだった。
構えた魔導書より零れ落ちた符が瞬く間に砂漠を清めていく。
結ばれた大地との契約により招かれたのは屈強な兵士達だ。
槍を持った<AP1000 DP1000>という最下級兵士。
ただしその数は2体。
マナ効率を無視したかなりのレアである。
リカルドは変わらぬ笑みを浮かべたまま手番ターンの終了を告げる。
悠馬の脳裏をよぎる既視感。
以前一戦交えた際の構成とほぼ同一の滑り出しだからだ。
だが……そんな筈はないだろう。
相手は英雄とも称されるリカルド。
それは召喚術師としての力だけを讃えられた訳ではない。
数多の戦場を幾多の方法で戦い抜いた、膨大な戦闘経験に裏付けされた戦術眼を讃えたが故の称号なのだ。
手の内を晒した後だというのに改善を挟まぬ様な愚行は犯さず、何かしらの新しい編成を伴ってくるに違いない。
特に前回の闘い、明らかに悠馬は勝利を譲られた様な印象を受けた。
無論、リカルドが手を抜いていた訳ではない。
紛れもなく接戦だったし紙一重の勝利でもあった。
しかしリカルドは――いずれ本気で矛を交すこの時を見越して、奥の手を隠している様な気がするのだ。
あの時は悠馬の技量を見定めるのが一番の目的だった。
故に今回は本気で自らの持つものをぶつけてくる。
それはもはや予測でなく予知に近い直観。
第六感を超え無意識に感じ取れる違和感。
悠馬は油断せずデッキに手を掛ける。
「<埋蔵されし鉱山>よ、大地に連結せよ」
悠馬がマナリンクさせたのは<埋蔵されし鉱山>というカードである。
これは召喚時に3つの宝石カウンターを乗せて乗せて登場し、宝石を生贄にする事で好きな色マナを生み出す事が出来る。
「叡智を対価に我招くは、万色に<輝きし始祖鳥>。
我に新たなる大地の恩寵を与え給え!」
宝石カウンターを生贄にして生み出した翠マナ。
悠馬が召喚したのは<輝きし始祖鳥>というカードだ。
氷嵐の女王(実際は六界将であったアネット)配下の四天騎<不壊>のゴルベーザ、<獣爪>のキャロットを相手取った際にも見せたカードである
非アクティブ状態にする事で自在に七色のマナを生み出すこのガーダーは多色デッキの要ともいえる。
再び召喚された事が嬉しいのだろう。
悠馬の肩に留まり頭を摺り寄せ甘える始祖鳥。
悠馬はその羽を優しく撫でてやり、共に戦おうと声を掛ける。
そして自分のターン終了を告げる。
<輝きし始祖鳥>
SP 翠①
AP 0
DP 1000
『特記』
大地系の能力の対象とならず上空から攻撃することが出来る<飛行>という能力を持つ。
1ターンに1マナだけ<輝きし始祖鳥>を非アクティブ(攻撃も防御にもいけない)状態にする事により、好きな色のマナを生み出す事が出来る。
◇2ターン◇
「清浄なる実りよ、吾に祝福を。
騎士の誉れたる気高き叙勲を胸に、
集い来たれ<カラランズ騎士団>よ!」
マナとの契約後、リカルドが招いたのは2体の騎士達。
APDP共に高くはない。
だが非常に厄介な特殊能力を持っていた。
騎士団の名が示す通り、彼等は複数の混合体。
現界出来る数は2体のみだが……
つまり部隊ユニットとしての召喚となる。
これがどういうことかというと――
彼等は死ぬ事が無い。
正確に言えば死亡後、すぐに後続が補充されてしまうのだ。
連綿と続く騎士達の団結。
その意味を解釈し「特記:手札を一枚捨てる。ターン終了時まで破壊不能を得る」という能力に変換されている。
これにより戦場に出たガーダー比は4対1。
圧倒的ですらあった。
「ここまでは前回同様。
それではおさらいといきましょう、ユーマ殿」
芝居がかった台詞と共にリカルドは攻撃を命ずる。
その指示を受け、槍を掲げる兵士達。
鬨の声を上げながら悠馬の待つ闘技場へ駆けていく。
その先にあるのは3枚のシールド。
この全てが砕かれ時、悠馬の喉元へ敗北の刃が突き付けられる。
しかし悠馬に慌てた様子はない。
静かな瞳で手札を確認、宙に浮かぶ七色の符を掴む。
そして<輝きし始祖鳥>を非アクティブにし、生み出した紫マナを以て新たなガーダーを呼び込む。
「汝は人々に幸いをもたらすもの。
此度誘うは矮小なれど偉大なる祭神の欠片なり。
出でよ!
家福の招手<家守人、加賀美霧華>!」
悠馬の命じる『力ある言葉』に応じ手元の符が発光。
ヴァイタルガーダーが1体を具象化する。
現れたのは悠馬の手の平に収まりそうなほど小さなおかっぱ頭の少女である。
屈強な兵士達を前にその姿は消え入りそうな程だが……身の丈のみを見て侮るのは早計だろう。
少女はデッキによっては主体となるガーディアンである。
着物姿の彼女が司るのは幸運。
日本の妖怪でいう座敷童、海外でいうブラウニーに近い。
戦場に出た彼女の能力はいたって簡潔。
召喚者の幸運増大である。
その恩寵は主に3つのモードからなる。
一つ、手札を全て捨てる事によりシールドを一つ修復。
二つ、二枚ドローし、その後手札を二枚捨てる。
三つ、一枚手札を捨てる事により、このターンの間三体までのガーダーの攻撃を無効化する。
というものである。
悠馬が選んだのは無論三番目の能力だ。
これによりこのターンのリカルドの攻撃は無力化され悠馬は窮地を免れた。
……だけではなかった。
「何と! これは――」
リカルドが驚き困惑するのも無理はない。
たった今対価として捨てられたカード、それが発光するや否やガーダーとして舞い戻って来たのだ。
そのカードの名は、甦りしもの<埋葬者ノスフェラス>。
捨て札置き場に自分しかない時、尚且つ次の自分の行動フェイズを飛ばす事により、ターン終了時に自動的に復活するというとんでもないヴァイタルガーダーである。
これを主軸に沿えたゾンビデッキこと墓地活用デッキが作成される程の力を秘めたガーディアンだ。
これにより数の上では4対3。
決して悪い状況ではない。
わずか二ターンの間で急速に詰められていく陣営。
互いの秘儀を尽くした魔戦は開幕の狼煙が上がったばかりであった。
家福の招手<家守人、加賀美霧華>
SP 紫①
AP 0
DP 1000
『特記』
加賀美霧華はいつでも戦場へ出す事が出来る。
加賀美霧華が戦場へ出た時、以下の三つの内から一つ選ぶ。
①手札を全て捨てる事によりシールドを一つ修復する。
②二枚ドローし、その後手札を二枚捨てる。
③一枚手札を捨てる。
このターンの間、三体までのガーダーの攻撃を無効化する。
甦りしもの<埋葬者ノスフェラス>
SP 黒④
AP 4000
DP 3000
『特記』
大地系の能力の対象とならず上空から攻撃することが出来る<飛行>という能力を持つ。
捨て札置き場にこのカードしかない時、尚且つ次の自分の行動フェイズを飛ばす事により、甦りしもの<埋葬者ノスフェラス>はターン終了時に自動的に復活する。




