63話 命運
ガーディアン。
それは破格の力を持つヴァイタルガーダーの総称である。
デッキのコンセプトとなる存在であり、切り札ともいえる。
サガの戦術は多岐に渡るが、究極的には如何にガーディアンを速やかに現界させるか、という事に関わってくると言えよう。
そして原則、召喚できるガーディアンは一体が限界だ。
これはその強大さ故、相互に干渉し合い調和を乱す事になるからである。
だが――
もしその枷が無い状態なら?
多重召喚を可能とする容量が術者にあったなら?
個人で最強の軍勢を率いる事が出来る。
そして悠馬はそれを可能とする器の持ち主だったのだ。
つまりロクサーヌは悠馬の力を見誤っていたのである。
確かに悠馬は要に比べデッキ構成・プレイングは劣る。
この世界にないユニークな思考と柔軟な発想もあり、召喚術師としては一流ともいえるが……要のような超一流ではない。
しかしこの世界ならではの、
数値化されない能力こそが悠馬の本領であった。
――召喚限界数。
通常は一体。
秀でた召喚術師である要ですら数体がやっというそれが――
悠馬には無い。
同時に何体でも、しかも並列処理で指示を出す事を可能とする。
これこそが要に見出された悠馬の真の力であった。
廃城を囲い覆い尽くす異形の群れ。
この場にいるのは悠馬の手持ちとなる全ガーディアンである。
異世界召喚より前から所持していたもの。
琺輪世界で契約し、仲魔としたもの。
その数666体。
明けの明星<大天使アズレイア>
荒ぶる暴君<殲滅龍グ・イレイズ>
冒涜なる主<腐嵐王ファイレクシオン>
空を渡る者<時空師カーヴェナス>
風の運び手<風精霊イーリューシャン>
その他、エトセトラetc。
神秘を具象化した存在、ガーディアン。
これだけ彼等が一堂に会するというのは、神話の時代から数えても初めての事である。
渦巻く神性が畏れとなし、抗い難い畏敬を抱かせる。
では、何故ここに彼等が集ったのか。
全ては悠馬の策であった。
誰もが考えず、誰もがしない――出来ない盲点。
事前召喚。
デュエルの順序に合わせ、お行儀良くガーディアンを招くのではない。
予めガーディアンを具象化し意のままに従える。
それは並の才能が為せる業ではない。
彼等の主として圧倒的な威を以て従えるにはそれに相応しい格が求められる。
人によっては武勇であり、人によっては智謀である。
では悠馬は何が優れているかというと……
実は何もない。
個人として見るべき秀でた所は何もないのだ。
ただ悠馬は――気持ちの良い男であった。
愚直なまでに真っ直ぐな生き方。
純粋なその人柄。
故に「手伝ってやるか」「手を貸してあげたい」と思わせるのだ。
無垢である事。
危うい天秤に揺れ動く情熱さ。
それが人を、ガーディアンを魅了してやまない。
だからこそ悠馬は彼等に願った。
世界を、愛する者を救う為に誠心誠意お願いした。
上位者として命じるのではない。
デュエリストして対等な立場からの願い。
それは彼等に感銘以て聞き入れられ、反論は一つもなかった。
自分のデッキの弱体化すら厭わない行為はこうして賛同された。
召喚術師とは別個の意志で動くガーディアンの軍勢。
これにより悠馬は圧倒的なアドヴァンテージを得る。
悠馬にしてみれば決戦の地に赴く為に最大限考えた結果である。
女王との最終決戦。
何が起きるか分からない。
もし上手くデュエルに持ち込めたして、果たして勝てるかどうか。
敗北が許されない戦い。
敵地に陣を築く女王が優勢なのは明らかだ。
ならば盤面そのものを潰してしまえばいい。
強大無比なるガーディアンによる総攻撃。
これを捌ける存在など、この世界には存在しないのだから。
ただ一つ予想外であるイレギュラーがあったとすれば――
それはリカルドによる固有結界の展開である。
魔術の最秘奥である固有結界は術者の心象風景を世界に投影し世界法則を上書きする魔術である。
即ち別世界を内包した結界の創生ともいえる。
卓越した力を誇るガーディアン達であるが、さすがにこの異界ともいえる結界内に違和感を感じさせず侵入するのは骨が折れた(それでも問題なく行えた辺りは流石としか言い様がない)。
悠馬とはデッキを通じコンタクトを取れていたとはいえ危うい綱渡りであったのは確かだ。
しかし彼等はやり遂げた。
各自の特殊能力を発動させ相互補完した彼等は付け入る隙のない無敵の軍勢だ。
廃城を取り囲み包囲した彼等。
あとは悠馬の指示を待って動くだけであった。
入念ともいえる勝利に対する事前準備の差。
偏執的ともいえる危機対処能力の差。
要と協力があったとはいえ、その僅かな差が……
文字通り命運を分けたのだった。




