58話 真意
「人類史の……改編?
世界の改革?
どういう意味なんだ、それは?」
「まず悠馬君に知ってもらいたいのだが……
この世界は君のいた地球とは違い<琺輪>によって管理されている。
ここまではいいかね?」
「琺輪というのは……」
「そうだな。
分かりやすく言えば……世界という箱庭を継続する為の剪定者。
要君の意見を参照するならば、管理プログラムといった所か」
「要?」
「悠馬、分かりやすく言うとね。
アレだよ、ほら。
前に一緒に視た映画。
心を解き放て、で有名なアレ」
「ああ、あの」
脳裏にロングコートで仰け反り銃弾を避けるサングラスの男が思い浮かぶ。
あの世界は機械が人類を支配したディストピアを描いた電脳空間の話だった。
ならばこの世界も同様だというのか?
要の例えが分からない為、ピンとこないアナスタシアを含む一同。
悠馬は物語として、と前置きを交え解説する。
絶対上位者による閉ざされし箱庭。
繰り替えされる管理された世界を。
「成程な。おおよそ概要は理解した。
しかしお前達の話に確証が持てぬ以上、信じるに値せぬ」
「ん。確かに」
「いきなり言われても信じられませんわ」
「信じれるか信じれないか。
このままでは娘達の言う通り、話は平行線じゃろう。
それにな」
アナスタシアは身体を貫く触手を見回しながら呆れたたように言い放つ。
「このような暴挙を犯している時点でお前達に事の正否ない。
どれだけ多くの者を巻き込んだかは知らぬ。
だが……いい加減にするがいい。
温厚な妾とてこれ以上は赦さぬ」
静かな怒りを湛え毅然とヘキサグラムグローリアの面々を睨むアナスタシア。
悠馬も同様なのだろう。
絶体絶命ともいえる窮地だというのに瞳には力強い闘志が宿っている。
「ふむ。
血気盛んだな、君達は。
そういった傾向があるからこそリカルドに対応させたのだが」
「お前達には仁がない。
常なる正しき人の心がない。
つまりは邪道を往く者達よ。
そんな者達の言う事を鵜呑みには出来ぬ」
「手痛い御意見痛み入る。
我らもそれは自覚している」
「最悪じゃな」
「誉め言葉と受け取っておこう。
しかし困ったな。
どうすれば納得して頂けるものか。
つまりは管理下にあるという証拠が欲しい、と?」
「それだけではないが(溜息)
まあ、そうじゃな」
「ならば簡単だ。
他ならぬ貴女自身が体現している」
「妾が?」
「そうだ。
魔族である貴女なら理解できるだろう。
この世界の抱える歪み。
亜人・妖魔・外法、そして様々な差別。
調和に満ちた世界には不必要なこれら。
これらが全て人族を根源に至らしめる為に意図的に配置されたエキストラだとしたら貴女はどう思う?」
「どういう意味じゃ?」
「文字通りだ。
この世界は琺輪によって管理されている腐った試練場なのだよ。
新しき世界を委ねるに相応しき器をただ鍛える為の。
そうして歴史に埋もれていく敗者。
彼等はいつか辿り着く勝者への礎にされる」
「そんな滑稽な事が……」
「では尋ねるが――
貴女が身を以て塞いでいる魔孔。
それはなんだと思う?」
「なん、じゃと……」
「それは呪いなのだよ。
世界と世界の境に澱みし怨嗟。
自分達がただ誰かに搾取され糧となる事を義務付けられた者達の飽くなき怨念。
貴女は既に実感しているはずだ」
「それは……
いや、妾がナイアルより命じられたのは……」
「貴女が<外なる神々>の一柱であるナイアルラトホテップに何を命じられたかは分からない。
ただそれは身命を注ぐほどのものなのか?
これからも死に逝く者達の命に値するものなのか?」
「分からぬ……」
「ならばそこをどき給え。
我らはこの世界に生きる者として間違いを正す義務がある。
その余波で多くの犠牲を出そうともやり遂げなくてはならん」
「……具体的にはどうするのだ?」
「貴女が塞ぎ続けてきた魔孔。
それは逆に考えれば次元を隔てる世界の境界だ。
つまり最も根源に近い場所でもある。
我らは血の魔方陣で以て境界を破り、世界を書き換える」
指を鳴らすロクサーヌ。
すると宙に映像が浮かび上がる。
数多に浮かぶそれらが映し出すのは数々の戦乱。
レムリソン大陸の各所。
人間が、
亜人が、
妖魔が、
強者が、
弱者が、
老若男女問わず入り交じり、殺し合いをしていた。
「ここに映るのは現在大陸各所で繰り広げられている争いだ。
先程の質問に答えよう。
氷嵐の女王という架空の存在を作り上げた訳。
それは敵対意識の一元化による戦力の集中だ。
強大無比と思わせた女王に対抗する為、各国は列強である騎士団を派遣した。
そうなれば本国に残る戦力はダウンする。
長く大きな紛争の無かったこの時代、その退廃ぶりは顕著だ。
厄介であった魔導学院も悠馬君の要請により動いてくれたしね。
権力を望む者には毒の盃を。
富を望む者には病の酒杯を。
未来を望む者には仮初めの希望を以て当たる。
そうすれば――必然、こうなる。
この騒乱により流れた血と魂の残響による積層型魔方陣。
それこそが我らの目的。
琺輪ことアカシックレコードへと至る標となるのだから」
ロクサーヌの手により語られる六界将<ヘキサグラムグローリア>の真の目的。
意図的に戦乱を起こす事により描かれた血の魔方陣。
次元を超え琺輪に至り世界を書き換える。
壮大で回りくどい、あまりにも遠大な計画に悠馬達は驚愕のあまり立ち尽くすのだった。
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ついに明かされる六界将の目的。
賛否両論あるでしょうが、次回から物語が動きます。




