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54話 咆哮

「ハーフ……?」


 少しでも時間を稼ぐ為、悠馬は今聞いた事を尋ね返す。

 とてもではないがそれは信じられない内容だった。

 バクズベアードは個としては列強であるが所謂怪異である。

 人族との間に子孫を残す事は出来ない。

 そう、通常なら――

 ある可能性に思い至った悠馬は身震いする。

 まさかそんな事が……

 視線を向け先、リカルドが変わらぬ微笑みを浮かべたまま頷く。


「そうです。

 ユーマ殿のご想像通りですよ」

「そんな……」

「どういう事、ユーマ?」

「通常なら異形種との交配により子供が生まれる事はない。

 遺伝子やDNA型……ようは生命の素が違うからだ。

 ただし一つだけこれを突破する方法がある」

「……どういう事でしょうか?」

「<融合>のカードだ」

「え?」

「サガにおける<融合>カード。

 それは個々の特徴を任意に抽出し混ぜ合わせる。

 術者の望むままに。

 だがこれは絶対やってはいけない禁断の業だ。

 実際俺の世界でも禁止指定になったし、ドラナーに聞いた話じゃこの世界でも禁忌となっているらしい。

 使用した者は問答無用で極刑に処せられる、と。

 何故ならその昔、民衆を狂気の実験台にした領主がいて反乱騒ぎになったから……って、まさか!」

「ええ、そうです。

 吾輩はその狂気の実験によって生み出された副産物でしてね。

 貧しかった母の生家はおぞましい事に領主へ母を売り飛ばしたのです。

 僅かばかりの金銭と引き換えに。

 そこでどのような事が行われたか?

 おそらく筆舌に値するナニカがあった。

 母は文字通り地獄を見たのでしょうな。

 吾輩が生を受けた時、母は既に壊れておりました。

 吾輩自身も自意識を持った際には固く封印され幽閉されておりました。

 どうやら数少ない成功例だったようで。

 人扱いはせず畜生の扱いを受け被検体として過ごす日々。

 そこを救い出してくれたのがロクサーヌ様です。

 彼は吾輩に誇りと生き方を導いてくれた。

 ならばその恩義には報わねばなりません」

「たとえそれが利己的なものだったとしても?」

「ええ。

 全てを承知で吾輩は彼に仕える。

 この決意は変わらないでしょうな」


 哀しくも誇り高き男の独白。

 人生経験の浅い若造にしか過ぎない悠馬には二の句が継げなかった。


「さて、よもやま話はそこまでだ。

 後が閊えているので、次に進んでいいかね?

 勇者専属魔術、雷魔術を習得した<雷帝>イズナ。

 世界に刻まれた物語そのものを詩編改編する<マルクパーシュ>アネットなど、君に紹介した者達が多いのだが……」

「いや、もう結構です」

「ユーマ……」

「ユーマ様」


 悠馬は激昂していた。

 熱く静かに、冷たくも激しく。

 義憤に駆られた訳ではない。

 奴等の目的が何かなんては知らない。

 ただ、そうある事しか出来なかった者達の嘆きを聞いた。

 悪趣味な手品の披露は、もううんざりだ。

 幸い時間は稼げた。 

 そろそろ反撃に移るとしよう。

 激情に身を委ねた悠馬が行動に移そうとした時――


「話を聞き給え、悠馬君。

 短慮は君を追い詰めろぞ。

 この話は君だけの事に留まらないのだから」


 悪魔の様な天使の笑顔。

 全てを見透かしたような青年の声が悠馬を縛る。

 思い至るのは自分にとって一番大切な者。

 固く結ばれ半身ともいえる存在。

 まさかそんな――

 駄々っ子みたいに頭を振る悠馬を優しく見つめながら、運命を見通す宿命眼の持ち主ロクサーヌは残酷に告げる。


「最後の二人を紹介しよう。

 召喚術師、九条要。

 そして――

 事象消去、レミット・ウル・マリエルだ」

「ユーマぁ……」

「久しぶりだね、悠馬。

 壮健そうで何より」


 闇撫により虚空より現れた二人。

 黒衣を纏った中性的な美貌。

 病衣を羽織った可憐な少女。

 九条要。

 レミット。

 どうしてここに?

 何故という疑問。

 だが目に映るのは要の手により抗えぬ様、手足を拘束されたその姿。

 その二人を見た瞬間からおかしくなる。

 視界が赤い。

 息が、上手く吸えない。

 野獣の様な咆哮が聞こえる。

 耳を澄ませばそれは自分の声。

 口を開いた己の喉から響き渡る絶叫。

 悠馬は、繋ぎ止めていた理性が吹っ飛ぶのを感じた。




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 お話はこれからCRYMAX(誤字にあらず)になります。

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