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49話 齟齬

 最果て無き落下。

 どこまでも続く浮遊感。

 ぐるぐる回転し酩酊する認識。

 自分が誰なのか、ここがどこなのかを見失う。

 気付けばいつの間にやら異世界転移していたらしく、悠馬はレミットのスカートの中見とこんにちはしていた。

 無論、ナイアルとの邂逅と為すべき使命、その全てを忘れて。

 ……こうして思い返してみれば理不尽そのものである。

 特に報酬もなく、何も知らない状態で異世界に放り出されたのだ。

 ただ選ばれたという理由でテンプレ異世界転移は本当に辛い。

 幸いだったのはナイアルの語った言葉は本当で、サガのカードが魔法の様な力を持っていたこと。

 特に自分が編成したデッキは魔導書を凌駕する力を秘めていた。

 他者依存とはいえ、レミットの窮地を救えたのは本当に良かった。

 女王も同様なのだろう。

 苦労した者にしか分からない共感シンパシーを以て閉眼し、物思いに耽る悠馬と女王。

 だが自分がここに来た理由は唯一つだ。

 アナスタシアの暴虐を止めレミットを癒す。

 その為なら敵対する事も辞さない。

 開眼した悠馬は同じく目を開き真っすぐ見詰めてくる女王の視線をしっかり受け止め、口火を開く。


「ナイアルを知っているなら話は早い。

 俺は九条要を止める為にこの世界に来た。

 ただその前にアナスタシア――まず貴女を止めたい」

「……妾を?」

「そうだ。

 貴女が地域住民に行っている圧政及び虐殺行為。

 それは決して許されるべき事ではない。

 何よりこの世界を汚染する呪詛。

 呪いの籠った吹雪を辞めさせなくては、生きるもの無き荒野と成り果ててしまうからだ」


 熱く女王を弾劾する悠馬。

 しかし問われた本人は本気で困惑していた。


「圧政? 虐殺?

 そなたは何を……」

「とぼける気か、氷嵐の女王!

 配下の四天騎が行っている侵略行為によって、いったいどれだけの人が苦しんでいる思ってるんだ!」


 憤慨し女王へ詰め寄る悠馬。

 一方、激昂している悠馬を理解出来ない女王は戸惑う様に立ち上がり、玉座の背を示す。

 そこには穴があった。

 いや、それは本当に穴なのだろうか?

 漆黒を超える深淵。

 不気味な洞穴。

 渦巻く歪み。

 その瞬間、室内に暴風と寒気が荒れ狂う。

 思わず顔を覆う悠馬達。

 それを見届けた女王は玉座へ向かい呪印を刻む。

 どのような神秘が働いたのか?

 猛吹雪は急速に収束し終息していく。

 呆然と成り行きを見守っている悠馬達に対し、玉座に腰掛けながら女王は疲れた声で言った。


「見ての通りだ。

 妾はこの世界に転生してより、この玉座に生まれし魔孔……

 急速な世界の融和化による歪みを堰き止める為、一歩も動けぬ。

 この魔孔は次元の狭間。

 各世界の恩寵から零れ落ちたモノ共の怨嗟に満ちている。

 妾が身をもって封じなければ瞬く間もなく拡大し、確かにそなたの言う通り世界は終焉を迎える事態となるであろう。

 ただ妾とて万能ではない。

 空間へ干渉できる高位魔族の力とこの身を要石とし、何とか塞いでるに過ぎぬ。

 隙間から溢れ出た怨嗟が呪詛となり周囲の者達に害を為してしまっているのは申し訳ないとは思うが……すまぬ、妾の力ではこれが精一杯なのだ」


 心底口惜しそうに謝罪する女王。

 否、アナスタシア。

 何かがおかしい、と悠馬は思った。

 俺と女王、二人の認識には何か致命的な齟齬がある。


「呪詛の吹雪は貴女の仕業ではない、と?」

「封じきれぬ矮小さを呪う身ではある。

 だが妾の意図的に引き起こすもの、つまり故意ではない」

「……圧制や虐殺も命じていない?

 氷嵐の女王の名の下で建国を謳った侵略行為も嘘、だと?」

「そう、それだ。

 そなたはいったい何を言っているのだ?」

「え?」

「その氷嵐の女王とはいったい何なのだ?

 妾はこの廃城で孤独にこの魔孔を封じる身。

 付き従う配下などはおらぬ。

 しいて言うならそなたのような存在を探ぐらせる為に生み出した魔導人形が一体いるが……アレは自我が希薄だ。

 召喚術師としての力は妾に匹敵するが誰か命じなければ何もできぬ」


 誰かが命じなければ何もできない、と女王は言った。

 ならば――誰かが命じていたならば?

 刹那、閃いた天啓に付き従い、悠馬は動こうとした。

 しかし――その行動は少しだけ遅かった。

 ザシュ!

 背後から身体を貫く鋭い痛みと鈍い熱さ。

 刺された!?

 誰に!?

 その驚きは目の前にいる女王も同様だ。

 何者かに玉座こと背後から貫かれ、苦悶に顔を歪めている。


「残念ですな」

「ええ、バレてしまったわ」


 悠馬の名を呼ぶ悲鳴が響く玉座の間に、どこかで聞いた誰かの声が聞こえた。



 








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