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45話 幕間

「大丈夫かな、ユーマ」


 仕立ての良いネグリジェの上にカーディガンを羽織ったレミットは窓に手を当てながら呟く。

 窓から見える光景。

 振り出した雪がシンシンと積もり始めている中庭。

 そこには続々と結集し始めた騎士団達の姿があった。

 悠馬から要請を受けた父が手配したという女王包囲軍。

 主義も主張も違う各国の思惑を超えて集う者達。

 戦意に溢れたその顔を見るまでもなく、皆使命感に燃えていた。

 よく見渡せば、先程挨拶しにきたドラナーやメイアのみならず、顔を上気させたカレンや父配下の騎士達もいる。

 娘を愛してくれる父の事だ。

 自らの警備を割いても派遣してくれたらしい。

 暫く会えていないとはいえ、敬愛する父の事を思い出し嬉しくなる。

 ただ……その中に悠馬の姿はない。

 無論、アイレスやティナの姿も。

 理由は分かっている。

 悠馬は二人を伴って女王を討伐しに向かったのだ。

 事前に悠馬は説明してくれた。

 女王の戦力がこちらに注がれ、尚且つ集結している騎士団が注目を浴びている今こそが最大の好機である、と。

 その為に最大戦力であるティナと隠密活動に長けたアイレス(彼女の過去というか前身は本人から直接話してもらった。正直驚いた)を同行していった。

 悠馬も反対はしなかった。

 足手まといにしかならない自分とは違い、それは冷静で的確な判断だろう。

 理屈は分かる。

 だが――感情は理解しない。

 理由は簡単だ。

 悠馬と共に行く二人に対する嫉妬。

 あるいは妬み・嫉み・僻み。

 命を懸けて立ち向かうであろう悠馬を支える事が出来ない。

 恋人なのに。

 申し訳なさ、情けなさが入り混じった複雑な気持ち。

 自分でもコントロール出来ない想いに振り回される。

 恋とは何とも複雑怪奇な衝動だ。

 自分自身さえ思い通りにいかない。

 それがもどかしいし――楽しくもある。

 一昔前の自分は与えられる未来を漠然と受け入れるだけだった。

 けど、悠馬と出会い自分は変わったのだ。

 未来はただ待つのではなく――

 掴み取るものである事を知った。

 さらに喜怒哀楽を共にした旅の仲間。

 悠馬を含む皆の存在は、レミットにとって何にも代え難い存在となった。

 なのに――

 大好きな二人に対し、抑えきれない衝動が澱の様に溜まっていくのが止められないのが辛い。


「あたし……嫌な娘だな……」


 同性から見ても魅力的な二人、アイレスとティナ。

 自分の知らない時間を二人と過ごしている内に……

 悠馬が心変わりするんじゃないか?

 二人を好きになるならいい。

 一番怖いのは――

 自分の事を愛してくれなくなるんじゃないか?

 信じたいのに信じきれない。

 吐気がする自己嫌悪。

 それは悠馬を独占したいという浅ましい思い。

 窓ガラスに映る自分の顔は不安に揺れていた。

 でも自分に何が出来るというのか?

 自分に出来るのはこうして悠馬の無事を祈る事だけ。

 悲しいけど今はそれしか出来ない。

 諦めにも似た溜息を深々と漏らしたその時、

 ふと視界の隅に人影が写し出された。


(コーウェル医師センセ……?)


 投薬の時間まではもう少し余裕があったと思うが。

 疑問に思いつつも振り返ったレミットの顔が驚愕に強張る。


「貴方は……っ!?」











 しばしの間を置き――


「入りますよ、レミット様」


 ノックに返答がない事を不思議に思いながら入室したコーウェルは、何処にも姿の見えないレミットに気付き狼狽するのだった。








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