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44話 不安

「待っていた? 俺を?」

「そう」


 意外な言葉に驚き、尋ね返す悠馬。

 問われたヤンユンは気負いもなく素直に頷く。

 女王討伐に乗り込んだ先でのエンカウント。

 ひと悶着あるかと構えた悠馬だったが、ヤンユンに戦う素振りはない。

 いささか怪訝に思うも自意識の希薄な魔導人形は嘘をつかない。

 嘘をつく必要がないというべきか。

 戦闘にならないというならそれが一番だ。

 臨戦態勢に入ろうとしたアイレスとティナを制止する。


「ユーマ様……」

「大丈夫だよ、アイレスさん。

 多分、向こうに敵意はない」

「確かに私の直感も害意を感じない。

 しかし――何故?」

「それは彼女に聞いてみないと分からないな。

 まっ、物語の定番

 悪の首魁のお約束よろしく色々語り始めるだろう。

 向こうに争う気がないならギリギリまで気楽に対応するさ」


 本来危険な場所である筈なのに安全を感じると人は落ち着かなくなる。

 特に感性が鋭敏な二人はその傾向が顕著だ。

 心配する二人の肩を軽く叩き、緊張を解してやる。

 縋るような視線を向けようした二人だったが、まっすぐ前を見ている悠馬を見て自制する。

 悠馬を守ると言ったのに、この低落ぶりはなんだ。

 悠馬は揺れぬ思いで泰然としているのに。

 甘い自分を追い出せ。

 肺の空気を吐き出すように深呼吸をひとつ。

 強張っていた身体が弛緩し、緊張が見る間に緩和していった。

 二人の様子を見届けた悠馬は改めてヤンユンの方を向き直る。

 そしては慇懃無礼というよりは喝采を浴びる道化師みたいにおどけた一礼をする。


「君みたいな美人さんに待ってもらうなんて光栄の至り。

 男として嬉しいが……俺にそれだけの価値はないと思うがね。

 感謝しなくちゃいけないかな?」

「あたしが綺麗なのは当然」

「……随分と自信があるんだな(苦笑)」

「母様の娘だから母様に似る。

 ならば美人なのは当然の事」

「左様ですか」

「そして貴方に価値があるのは必然」

「……どういう意味だ?」

「母様とあたしは先程の戦いを『観た』。

 その上で判断した。

 貴方は末那識セブンセンシズを超え阿頼耶識エイトセンシズに至る者。

 あたし達が求めていた人材」

「……何だか香ばしい単語が出てきたな。

 何だよ、その厨二っぽい何とかに至る者って」

「阿頼耶に至る者は阿頼耶に至る者。

 現世の垣根を超え世界の境界を定めるもの。

 勇者という常世維持装置……機械仕掛デウスエキスけの神々(マキナ)とは違う。

 世界が定めた、<カウンターガーディアン>」

「何故、それを知ってる!?

 俺以外でその事を知る者など、『一人』しかいない筈だ」

「母様も一緒だから。

 人類という種族を永続させる為の概念じゃない。

 世界の存続に関わる事象として存る」

「やはり……そうなのか。

 彼女はその為に生み出された存在だというのか。

 そして恐らくは――君も」

「事情を弁えているなら説明が楽。

 その上で貴方はどうするの?

 あたしの言葉を信じる?」

「本来信じるという言葉は重い言葉だ。

 信じた相手が出された物なら、たとえ毒が入っていようが飲み干してみせるくらいに。

 残念ながらそこまでも君達を信じれはしない」

「そう……」

「だから信じる、ではなく信じたいと思う。

 盲信的な信用でなく、あくまで前向きに」

「それは重畳」

「ただ――

 俺にどうして欲しいんだ?

 正直やる気満々だったから好戦的な雰囲気は変わらないぞ」

「何もしないからついてきて欲しい。

 まずは会話をしたい、と母様が」

「……分かった。

 君に同行しよう」

「ユーマ様」

「心配ないですよ。

 何か仕掛ける気ならこんな姑息な手段は取らず、もっと正々堂々正面から不意を打って来る筈。

 今までもそうだったでしょう?」

「確かに仰る通りでしょうけど……」

「ん。ユーマ。

 アイレスは額面通りに受け取るな、と言ってる。

 世の中にはおぞましい考えを持つ者が多い。

 ヤンユン自身に問題はなくとも、何かしら仕掛けてくるかもしれない」

「分かってるさ。

 敵地で油断するほど俺もおめでたくはない。

 それに……罠ならば食い破るだけだ」


 獰猛な笑みを浮かべる悠馬。

 アイレスとティナは大胆不敵な悠馬の態度に頼もしさを感じると共に、胸の中にほのかに燈る不安の火を消せないでいた。








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