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28話 爆誕

「降伏せよ、劣等種ども。

 偉大なる我らが女王陛下に頭を垂れ、服従の意を示せ。

 先程の攻撃は警告である。

 素直に従わぬというのならばそれでもいい。

 だが汝らは己が愚かさの代償をその身を以て知るだろう。

 恭順し……這いつくばり命乞いをするがいい!」


 術式を使った大音声が響き渡る。

 城塞の各守備位置についた担当者達も不安そうに上空を見上げる。

 その視線の先には大空を自在に舞う三人の召喚術師がいた。

 生気のない美貌を持つ魔導人形<無垢>のヤンユン。

 猛々しい獅子の鬣を持つ女獣人<獣爪>のキャロット。

 難攻不落を体現した様な鎧武者<不壊>のゴルベーザ。

 女王に付き従う四天騎が三騎である。

 悠馬が下した茨槍のラズとは比べものにならない力を持つ召喚術師達。

 ただの兵士に魔導書を与えた即席の召喚術師とは比較にならない、魔導の真髄を知る者達でもある。

 ヤンユン以外の二騎は幾度も城塞に飛来し、その恐るべき力を披露していた。

 悠馬も幾度か戦場で相対しており、デュエルに持ち込むことが出来なかったものの、垣間見る力の断片から油断ならない相手である事を重々思い知らされている。

 城塞を睥睨する物理的な圧力さえ宿るその視線。

 更には四方周囲を取り囲んだ空前規模の氷人形達による軍勢。

 このプレッシャーを前にし、反骨精神を抱き対峙出来る者など、そうはいないだろうと思わせる。

 いや……ここに例外がいた。


「それがお前達のやり方か」


 最も警備の薄い城塞の最上塔から出た悠馬は静かに問う。

 その声は決して大きくない。

 だというのに不思議と響き渡り――皆に届いた。

 驚愕にざわめきを上げる守備兵一同。

 無論、驚いたのは四天騎達も同様である。

 まさかこんな上空にまでその声が届くとは。

 しかし悠馬が蒼のドレスアップをしている事を見て取り納得する。

 蒼のドレスアップ効果は<超感応>。

 精神を媒介とする超能力を扱う事が出来る。

 ならばこれはテレパシーの応用に違いない。

 手品のタネがバレてしまえば他愛のないものだ。

 鎧武者<不壊>のゴルベーザは悠然とした態度を崩さずに言い放つ。


「強者に付き従うのが世の中の常。

 ならば弱者を従える事に異議はあるまい?

 我らが女王が示す道を黙って進めばよい」

「それが傲慢だ、というんだ。

 誰かお前達に頼んだのか?

 自分達を支配してくれ、と。

 他者を従え導く、といえば聞こえはいい。

 だが、その実態は強大な力で他者を踏み躙っている事にしか過ぎない。

 現実が視えてないお前達の言葉は所詮上辺だけの妄想だよ。

 誰も望まぬ自慰行為以下のな。

 ならば――その理想に溺れて溺死しろ」

 

 冷たく言い放つ悠馬。

 激怒している。

 悠馬はかつてないほどの怒りに身を委ねていた。

 熱く、冷たく。

 激しく、静かに。

 普段の人畜無害そうな少年しか知らぬ者が見たら目を疑うだろう。

 しかしこれもまた悠馬の偽りなき一面だ。

 感情がヒートすればするほどクレバーになる。

 砥がれ鍛えられた鋼の刃の様に。

 デュエリストとして大切な資質の一つを悠馬は無意識の内に身に着けていた。


「我らに盾突くか、この愚か者が!

 ならば偉大なる女王に成り代わり、神罰をくれてやる!」


 煽りに対する堪え性が無いのか、激昂するゴルベーザ。

 決闘宣言もせず悠馬に無数の死霊を放つ。

 この世に対する無念を抱いたそれは物理的な損傷を与える亡者だ。

 フォースフィールドも張っていない今の状況ならば痛痒なダメージを悠馬にもたらすだろう。

 ドレスアップ効果<超感応>では残念ながら防ぐことが出来ない。

 死者には干渉すべき心がないからだ。

 瞬時にそこまで見越して死霊を放ったゴルベーザもやはり只者ではない。

 絶体絶命。

 だが――相手が悪かった。


「……それで?」


 襲い来る死霊を無造作に祓った悠馬が尋ねる。

 一瞬だった。

 神聖を纏った柏手一挙手。

 ただそれだけで恐るべき死霊達は打ち祓われていた。

 純白に輝く白のドレスアップをした悠馬によって。


「馬鹿な……

 貴様は蒼のドレスアップをしていた筈……」


 思わず目を疑うゴルベーザ。

 白のドレスアップ効果は<超神性>。

 声や動作に神聖効果をもたらす事を可能とする。

 然るべき技術があれば先程の様に死霊を祓う事も出来るだろう。

 しかし――いつチェンジした?

 ドレスチェンジするには新しい魔導書が必要だ。

 悠馬は確かにデッキ(魔導書)を構えている。

 されど蒼のドレスアップをしたデッキを変える時間も猶予もなかった。

 ならば何故?

 まさか――


「まさか貴様――

 そのデッキは――」

「二色のデュアルタイプ。

 あるいは三色、トリニティタイプとでも思ったか?

 ……甘いな。

 いったい、いつから――

 デッキが一色だけがメインのものであると錯覚していた?」


 凛然と告げる悠馬の魔導衣が目まぐるしく変わる。

 白⇒黒⇒紅⇒翠⇒蒼⇒紫⇒銀

 そしてそれらは渦を巻いて混じり合い――

 やがて輝きを放つドレスアップへと変容する。

 その色彩とは勿論――


「虹だ……」

「万色の彩を持つ召喚術師……」

「七色を自在に操る<虹の召喚術師>の爆誕だ!」


 塔から飛び立ち宙を舞う悠馬。

 歓声を上げ四天騎へ対峙する悠馬を讃える城塞の人々。

 後の世に<虹の召喚術師>と讃えられるユーマのこれが初ドレスアップであった。








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