25話 時間
「本拠地が判明したとて……
積極的に攻めに転ずるのは如何なものか?
多少の犠牲には眼をつむり、このまま現状維持を続けるべきではないか?」
「否、断じて否!
守りに入ってどうする!
それに現状維持を続けたとして、増援もない状況。
この世界屈指を誇る城塞の迎撃システムとて支え切れまい。
こちらは多くの非戦闘員を抱えているのだぞ!?」
「しかし無尽蔵ともいえる女王の兵力に対し、城塞側の兵力は限られている。
強硬策は使えぬじゃろう?」
「だからこそ乾坤一擲、攻勢に出るべきでは?
ユーマ殿が召喚されたこの城塞の物資が尽きてからでは遅いでしょう?」
「確かに仰る通りです。
現在、城塞の備蓄消費量は増大の一途を辿っています。
これは城塞を訪れる避難民を全て受け入れているからですが」
「避難者の中には各村の兵士らもいた。
人道的には勿論、戦力の拡大という意味でも受け入れは間違っておるまい?」
「何事にも限度、というものがあります。
現状、このペースで行くと後一ヵ月で破綻を迎えます」
「由々しき事態じゃな」
「ええ」
喧々囂々。
広い会議室は熱気と飛び交う意見で大きく揺れていた。
週一の定例会議に挙げられた本拠地発見の吉報。
それは停滞し掛けた城塞首脳陣の愁眉を開くに値する内容だった。
ただし攻勢に出たいという悠馬の主張に関しては――
様々な議論が為されていた。
反対。
賛成。
条件付き譲歩案。
立場を異とする者達から出る意見はどれもが正しい。
そしてどれもが間違っている。
おそらく正解などはないのだろう。
流動的に動く情勢に対し、最適解を出すのは非常に難しい。
結果論として、ああだったこうだったとはいえる。
されど神ならぬ人の身としては、自らに出来る事を検証し、為していくしかない。
だからこそ会議室に集まった首脳陣の面々は慎重にならざるを得ないのだ。
そして――こうして話し合う事の大切さを無意識に認識しているからこそ、行動派のバーンですら口出しをせずに事の経緯を見守っている。
各々が納得するまで意見を吐き出し――納得できる範囲で了承し合う。
そうするしか――結局道はない。
誰よりもそれを理解している悠馬。
しかし理屈と感情は別物だ。
こうしている内に貴重な時間が湯水のように流れてしまう。
それが歯痒くて……焦れったくて仕方ない。
自分が一個の矢だったらいいのに、と思う。
標的を仕留める――ただそれだけの存在。
迷いも戸惑いもなく突き進めれば、と。
だが現状はそうはいかない。
この城塞を巡る戦いの趨勢に対し、悠馬の存在は大きくなり過ぎた。
個人で自由に動けるような気楽な立場ではなくなったのだ。
索敵し、
迎撃し、
殲滅する。
核兵器にも似た力の器としての在り方。
英雄と同一にして属性を違えるもの。
それは絶望の淵から湧き上がる、人々の希望の象徴。
故に、そこに個人の意思は介在しない。
何かに後押しされたかの様に、ただ人の世を永らえるだけのシステム。
人はそれを――決戦存在と呼ぶ。
ヒーローとは彼のロウ、
即ち内なる法に従う者達の総称でもある。
だからこそ悠馬は白熱し終わりが見えない議論に溜息を漏らし、暇を告げた。
反対の声はない。
まだまだ結論は出ないだろうから。
だからといって悠馬がいなくなっていい訳ではない。
今後の対応に悠馬の存在は欠かせないからだ。
現にバーンたちの咎める様な視線が自分の背中を追うのを、ドレスアップで鋭敏になった感覚が捉えていた。
でも謝罪も言い訳もせず、悠馬は無言で歩を進める。
時間がない。
そう――
自分達には時間がないのだ――




