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24話 勃発

「女王の本拠地が分かった!?」

「ああ」


 朝食のソーセージをフォークから取り零し驚く悠馬に、イシュバーンは優雅に香茶を飲み干しながら応じた。

 傍らに控えていたアイレスがすぐさま手にしたティーポットを傾ける。


「すまんな」

「いえ、気に入って頂けたようで幸いです」

「今日もすこぶる美味いぞ。

 お前ほどの者が仕えるレミット殿が羨ましくなるほどだ」

「恐れ入ります」


 イシュバーンと悠馬が共に女王軍と戦い続けて三月。

 時には反目し合う事もあった。

 譲れない思いをぶつけあい、殴り合いにもなったこともある。

 だが、逆境を前に共に分かち合い――

 そして分かり合い、二人は乗り越えてきた。

 今では互いが掛け替えのない戦友となっている。

 最近はブリーフィングがてら朝食を共にし、その日の予定を話し合うのが習慣となっていた。

 今日も旺盛な食欲を見せる悠馬に、イシュバーンが開口一番告げたのが今まで不明だった女王軍の本拠地情報だった。

 召喚術師を主軸とした敵の嫌な所だ。

 何の前触れもなく軍勢を招く為、足取りを掴み辛い。

 悠馬も飛行型ガーダーを幾度も偵察に出したが、女王の召喚した呪詛吹雪の前に主だった効果を上げられないでいた。

 守りに堅い城塞とはいえ、長期戦になれば多くの難民を抱えている悠馬達が不利である。

 打って出たいという気持ちが日々蓄積されていた。

 そこにきて降って沸いたこの朗報。

 悠馬のみならず周囲の防衛役の者達も驚きと喜びの声を上げる。


「そ、それで何処なんだ、バーン!

 早く教えてくれ!」

「ええ、わたくしも気になります」

「そう急くな、ユーマにアイレス。

 情報は逃げたりせん。

 ……皆もだ。

 そんなに迫るな、暑苦しい」


 イシュバーンことバーンを取り囲むように駆けつける悠馬達。

 鬼気迫るその様子は獲物に群がる飢えた餓狼の様で少し怖い。

 肝の据わっているバーンもさすがに眉をしかめて苦言を述べる。


「――すまない。

 興奮に我を忘れていたようだ」

「ええ、申し訳ありません。

 随分はしたない所をお見せして」

「まあ無理もない。

 先程知った際、我も驚きで慌てふためいたくらいだからな」

「バーンが取り乱すのは珍しいな」

「本当ですわ」

「我とて人間だ。

 常に優雅に振る舞うべし、という古臭い貴族の家憲に殉じているだけに過ぎん」

「そういう所を見せれば皆にもっと慕われるのに」

「ユーマ様の仰る通りですわ。

 鋭すぎる眼光と態度でイシュバーン様は損をされてます」

「うるさい。

 我とて自覚はしているが……上に立つ者の矜持だ。

 放っておけ」


 悠馬とアイレスの指摘に不貞腐れるバーン。

 周囲の者達からも揶揄する様な明るい笑い声が上がる。

 弾圧する召喚術師を次々と撃ち倒した白銀の銃士イシュバーン。

 確かに頑固で偏屈ではある。

 しかし常に民を良き方向へ導こうと努力する姿に、最前線で魔導銃を構え銃火を交える勇姿。

 皆の支持を得るに相応しいだけの功績をバーンは打ち立ててきた。

 その勇名は城塞の代名詞ともいえる悠馬の名声に勝るとも劣らない。

 愚直にも真っすぐなバーンの生き様。

 それに戦場で培った信用は何よりも重いのだ。

 今となっては悠馬を含む城塞の者達は彼を心の底から信頼し、掛け替えなく思っていた。


「まったくこの我をぞんざいに扱いおって。

 まあ……そういう者達も守り導くのが誇り高きランスロード皇国男爵である我の務めである」

「だって俺は庶民だし」

「わたくしもメイドですし」

「悪気はないんだ、すまないね」

「ええ、申し訳ございません」

「夫婦のように息を合わせおってからに。

 誠意のない謝罪だな(溜息)」

「誠意はないけど戦意はあるぞ。

 んで、女王の居場所は?」

「まったくお前は……まあ、いい。

 我が指揮下に入った、といえば聞こえはいいが――任務に失敗し行き場を失った皇国の諜報員を我が扱っていたのは知ってるな?」

「ああ、あの陰気な奴等だろ?」

「そうだ。

 彼等の持つ魔導書は使い捨てに近い形なので実戦には投入できなかったが……

 逆にいえばそれ以外には使えるということだ。

 使い潰す形なら無理を通せる。

 優秀な彼等は昨夜ついに見つけた。

 極秘裏に築かれた氷原の洞穴にある転移陣へ現れた女王の手先を。

 そして捕縛後の尋問の末、ついに判明したのだ。

 氷嵐の女王は――神々の終焉の地<ラグナロード>にある廃城<コキュートス>にいる」

「廃城<コキュートス>?」

「お前と出会ったサーフォレム魔導学院と並ぶ神造建築、いにしえはこの世全ての英知を収集する世界図書館があった所だ」

「? 何で過去形?」

「100年以上前、永遠氷壁から復活した魔族達によって蹂躙されたのだ。

 図書館にいた司書・賢者は全て皆殺しにされ、集められた蔵書は灰塵と化した。

 その後は光明の勇者アルティアによる魔族の女王<暗天邪ミィヌストゥール>討伐や大召喚術師ユーナティアによる世界再編者<天輪皇>の再封印などの舞台にもなり廃城となった所なのだが……まさかあそこを根城としていたとは、な」

「ちょっとマテ」

「ん? どうしたのだ、ユーマ?」

「今、さらっと流したが……それって確か魔王クラスの災害を人類世界にもたらした奴等じゃなかった?」

「そうだ。

 カテゴリーS級以上の脅威度を持つ人類敵対型異形インターフェースの総称、それが俗に冒険者組合のいう魔王だ」

「だからさらっと言うなって。

 もしかすると氷嵐の女王も――」

「その可能性は高い。

 むしろこれらの事を統合して考えるに、女王の正体は――」

「高位魔族、もしくはそれに準ずる存在でしょうか?」

「そうだな。

 封印を免れるた個体、あるいは位階値を上げる事により災厄級に到ったものに違いあるまい」

「だから何で嬉しそうなんだよ!」

「民草の為に戦うは武人の誉れ。

 我がガレンティス家はそうして国に尽くしてきたのだ。

 ならば我にその順番が来ただけの事。

 臆する事はあるまい?」

「ああ~もう!

 色々考えている俺が馬鹿みたいじゃないか。

 分かったよ。

 これから定例会議だし、皆の意向を聞いてどうするかを検討しよう。

 それでいいか、二人とも?」

「了解した」

「畏まりました。

 では朝食が済み次第、皆様に知らせて回ります」

「よし、んじゃまずはアイレスさんの朝食を堪能するとしよう。

 暗い話は後回しだ」

「おう!」


 共にナイフとフォークを煌めかせる悠馬とバーン。

 真剣な眼をした二人による争奪戦。

 無慈悲な戦場と化した食卓上にて今、勃発されるのだった。






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