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9話 決断

「もうっ!

 どうしてユーマはそんなにエッチなのかな!?

 せっかく命の恩人に感謝しようと思ったのに~」


 ポカポカポカ。

 悠馬の上に馬乗マウントりになり、ドラムの様に怒りの鉄拳を振るうレミット。

 年下の、しかも華奢な女の子による拳の為ダメージはない。

 だがレミットの意図しないところで、別の意味で大打撃があった。


(う、うあ~

 その……スカートの中、丸見え何だけど……)


 思わず指摘しようとした悠馬だったが、さすがに学習した。

 これ以上藪の蛇を突く……というか、荒ぶる獅子に興奮剤を投与するような真似はするべきではない。

 それに……こうして下から見上げるレミットの姿は格別であった。

 宙に舞う金色の髪の毛。

 羞恥に涙が浮かぶ翠の瞳。

 ほんのり上気する頬。

 可憐な唇から零れる、荒く乱れる呼吸。

 少女期特有の未完成さと可能性が秘められた肢体。

 平凡を通り越し極上の美少女が自分の上に馬乗りになってるのだ。

 それはまあ、何というか……年頃の少年には刺激が過ぎる訳で。

 それにまあ、この姿勢は……まるでアレをしてる様にも思える訳で。


(いかんいかんいか~~~~ん!

 平常心平常心……!!)

 

 若さゆえの暴走。

 熱膨張しそうになるのを心の中で九九を唱え耐え続ける。

 これが露見したら釈明の余地なく極刑に処される。


「あ~盛り上がってるとこ悪いんですがね、兄さん。

 そろそろあっしの身の振りを考えちゃ~くれやせんか?」


 だから呆れた様なドラナーの声が遠くから聞こえた時は、さながら天啓を受ける予見者の心境みたいに悟りを得掛かっていたのだった(ちなみに九九は6の段の9番目をエンドレスしてた)。

 当の本人であるドラナーは少し離れた大地で大の字に横になっている。

 敗北者に科せられるデュエルのギアスにより身動きが取れない状態らしい。

 瞬時に跳ね起きレミットを驚かせるが、上手に抱き留め支えてやる。

 そんな悠馬の逞しい所に、何も言えず俯くレミット。

 今の顔はまあ、確かに見せられまい。

 ただそんな機微に聡い悠馬ではなく、レミットの肩を掴む。

 狼狽するレミット。

 身の危険を感じ葛藤する(どうしよう……そんないきなり……でも……ン)が、真剣な悠馬の顔を見て一瞬で醒める。

 そうだ、今は今後の事を話し合わなければ。

 服装を正し、悠馬に向かい合う。


「ひとつ聞いてもいいか、レミット?」

「うん。構わないわ」

「ドラナーの言ってるのはいったいどういう事なんだ?

 俺は詳しい事を知らないんだけど……」

「ドラナーが言ってるのは勝者の選択の事よ」

「選択?」

「そう、デュエルの勝者は敗者に対し3つの権利を所有出来る。

 まず生殺与奪の権利。

 これは言うまでもないでしょ?

 命を奪うも救うのも、勝者であるユーマ次第って事。

 次に魔導書の開示。

 相手の所有する魔導書の一部を自らのモノに出来る。

 これはアンティってルールみたい。

 そうやって召喚術師は魔導書を強化し、どんどん強くなっていくのね。

 そして最後――隷属化」

「隷属化?」

「俗に云う魔導書との同一カード化って事。

 対戦者に限らずすべての召喚術師は、

 対象となるモノの同意を得、

 さらに魔導書に余裕がある場合……対象を同一化出来る。

 無論無制限じゃなく現界出来る回数制限はあるけど」

「それって……

 その同一化の対象となったモノに何かメリットがあるのか?」

「まず何はさておき、殺されないわ。

 これが一番大きい。

 隷属化は相互の身を守る絶対的な契約だもの。

 口約束より断然信頼できる。

 更に魔導書の一部として生きるのは決して無駄じゃない。

 その魔導書のスペックに応じた経験値が自分にも蓄積されるしね。

 だから契約を結ぶ双方にとって隷属化はお得なのかも。

 魔導書の主は強力な手駒を得られる。

 対象となったモノは莫大な力を得られる。

 中には喜んで隷属化するモノもいるみたいだし……」

「そのお嬢さんの言う通りですよ、兄さん。

 隷属化は自分にとっても不利益じゃない。

 デュエリストとしての兄さんの強大さは先程充分思い知ったんで。

 心配せずとも、今更刃向う様なチンケな真似はしやせんよ。

 それにまあ、一番の理由は……

 あっしは兄さんに惚れたんですよ」

「え~~~~!?」

「いっ!?」

「あらあらまあまあ」

「いやいや。

 そういう変な意味じゃなく、ね。

 兄さんの……クオン・ユーマの毅然とした生き方に惚れた。

 漢として惚れる……

 昔の自分を思い出させてもらった感じですかね?

 だから兄さんさえ良ければ、是非とも隷属化してほしいんですが……」

「その、いいのか?

 お前の雇用主は……それにレミットを捕まえようとしてたし……」

「まあお嬢さんの件については弁解の余地はないですわ。

 ただ自分を隷属化すれば雇用主の事についても話せますし。

 今はギアスが掛けられてるので喋る事は出来やせん。

 迂闊に喋ると即座に死んでしまうようになってるので」

「レミットはどう思う?」

「ユーマにお任せする。

 これはあたしが口出す問題じゃないもの。

 命を懸けたデュエリストだけが持つ権利よ」

「そっか……ならば」


 大きく頷く悠馬。

 そして……躊躇う事無く決断を下すのだった。





 お気に入り登録ありがとうございます!

 アクセス数も増えてきて嬉しい限りです。

 あと、ホントすみません。

 執筆中に寝落ちしてました。

 今後は気をつけます(ペコリ)。

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