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「どこに行ってたんですか!」
おっと、ミルカが怒っているぞ。
毛を逆立て、両手を握りしめながら頬を膨らませて……。
――アニメにでも出てきそうなくらい典型的な怒り方だな。
まぁ、突然出ていったんだから怒って当然だよな。
「ごめんごめん。睦月があまりにもタラタラと問題を解いてたから、喝を入れたのよ」
その説明では無理があるだろうと思いつつ、合わせるように笑いながら頭を掻く。
ミルカも最初こそ怒っていたものの、少しするとまた優しく微笑んでくれた。
「まぁ、次からは館内にいてくださいね?」
この笑顔に嘘をつくのは、やはり心苦しいな。
いっそミルカは司書ではなく、アイドルをした方が人気者になるんじゃないか?
……そんな妄想は置いておいて、問題に取り掛からないと。
「さて、解く問題も残り2つです。二人とも頑張ってください!」
あぁ、まだ問題が残っていたんだった。
ケモミミ幼女の可愛いエールを受けつつ、問題用紙に目を向ける。
⑵ この世界、( )には4つの大陸が存在し、ウバガンが存在するのは( )大陸である。
⑶ この世界には( )種類の人種が存在し、共生している。
残るはこの2つか……。
「残りは簡単そうなものだけね。めんどくさいから、あとはあんたに任せたわ」
こいつ、俺の弱みを握ったからって偉そうに…。
――いや、偉そうなのは元からか。
優香は机に突っ伏すと、そのまま眠ってしまった。
「仕方がないな」
2番。
この世界の地名について、か。
さて、どんなファンタジー要素満載な名前なのだろうか。
残った最後の本を手に取る。
『ゴブリンでもわかる百科事典』
なんだ、このイラッとくるタイトル。
本にまで馬鹿にされたぞ。
……読もう。
名前も知らない物事を調べるのは。結構難しいんだよな。
まずはウバガンっと……。
『ウバガン:ゼウシス国王が納める人口50万人の国』
ん?
ウバガンって国の名前だったのか!?
この程度の広さだから、町なのかと思っていたぞ。
おっと、次のページに続きがあるのか。
――ややこしいな。
『クラド大陸に存在する国。ヘブズ連合の中でも最大規模の国であり、ヘブズ連合の代表国である。国の中で農工商の全てを行っており、国外との貿易では鉱石のみ輸入している』
ほう、とんでもない自給自足国家だな。
これは戦争になったとしても、ちょっとやそっとじゃやられないだろうな。
さて、索引を開いてっと。
クラド大陸…クラド大陸……。
『クラド大陸:この世界、ヘイデに存在する四大陸の一つ。主に獣人、エルフ、人が住んでおり、四季に恵まれているため土地が肥えている』
やっぱり、ここにも四季が存在するのか。
それなのに、町人のあの格好は可哀想だよな。
それはさておき、次は人種についてか。
人種か――。
ふと、ミルカに目をやる。
俺が先程読んでいた『異世界人の動向調査』を読みながら、時折くすくすと笑っている。
そしてさっきまでは見えていなかったが、尻尾を軽く振っている。
俺は本当に異世界に来てしまったんだな。
ミルカを見ると改めて実感する。
さっき呼んだ文章から、ミルカは獣人に分類されるんだろうな。
ミルカと目が合った。
そりゃ、見つめていれば目が合うよな。
ミルカは少し首をかしげ、頭の上に疑問符を浮かべている。
「あ、いや、ミルカみたいな獣人は、元の世界に全くいなかったからさ」
「…あぁ、人種の問題を解いていたんですね。確かに他の異世界人さんの話でも、私みたいな人種はいないらしいですね」
そりゃそうだ。
もしミルカみたいなのが元の世界に行ったら、向こうは大騒ぎだろうな。
問題に集中しなければ……。
さて、どう調べたものか。
人種、人種……。
まぁ、まずはエルフで調べてみるか。
『エルフ:森で生まれ森と共に生き森と共に死んでいくと言われ、もっとも寿命の長い人種である。現在に至っては森を離れ、街で暮らすエルフも増えてきている』
ふむ、人種の数については特に記載なしか。
この世界でのエルフの寿命はどのくらいなのだろうか。
見た目20歳、実年齢150歳とかが存在するのだろうか。
少し調べてみるか。
『寿命:人間が生まれてから死ぬまでの長さ。人種・環境によって異なる。以降は全人種それぞれの寿命の目安である』
お、これは人種の数も分かるかもしれない。
*****
エルフ:700歳
ドワーフ:450歳
人:80歳
獣人:40歳
魚人:20歳
*****
なるほど、人種の数は合計五種類か。
大体、予想通りというかなんというか……。
いや、獣人と魚人がこれほど短いのは驚いたな。
まぁ、魚と動物の寿命を考えれば分からなくもないか。
よし、これですべての空欄が埋まったな。
「おい、終わったぞ。起きろ~」
優香が目をこすりながら身を起こした。
寝ぼけた姿はまだ子供っぽさを残しており、とてもあの優香だとは思えない。
「ふぁぁ…、終わった?」
「終わったよ、ほら」
優香に全ての空欄が埋まった解答用紙を見せてやる。
解答用紙を受け取った優香は、眠気眼を擦りながら目を向けた。
「ふぅん、確かに大丈夫そうね。ミルカ、どう?」
「えっと……はい、全問正解です!!」
ミルカがまたしても満面の笑みを浮かべてくれた。
これだけの笑顔を浮かべてくれるなら、やった甲斐があるというものだな。
「さて、問題も全部解き終わったことだし、さっさとルエルのところに戻るわよ」
ミルカに別れを告げ、図書館を後にする。
また暇が出来たら、ミルカに会いに来てもいいかもしれないな。
さて、ルエルがいるところまで戻らないと。
ん?
気づくと、目の前にルエルらしき人影がきょろきょろと怪しい動きをしている。
いや、あの格好からして間違いないだろう。
「あ、おーい。ルエルさん!!」
結構大きな声を上げたつもりだったが、聞こえていないのか反応が無い。
手を振りながら近づく。
ある程度近づいたところで、ルエルがこちらに気づいてくれた。
ルエルもこちらに近づいてくる。
が、途中で地面に倒れこんだ。
一瞬転んだだけかと思ったが、倒れ方がおかしかった。
まるで糸が切れたような……。
「きゃぁぁあああ!!」
ルエルの横を通りがかった女性が悲鳴を上げた。
嫌な予感がする。
たどり着いた時には、ルエルは身体を痙攣させ意識を失っていた。
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⑴ 「ウォータ・ウェポン・スピア」は水属性の魔法で、炎・風属性の魔法を掻き消す。
⑵ この世界、ヘイデには4つの大陸が存在し、ウバガンが存在するのはクラド大陸である。
⑶ この世界には5種類の人種が存在し、共生している。
⑷ 異世界人はこの世界で過ごすうちに、記憶が無くなっていく。
⑸ 異世界人が元の世界に戻る方法は分かっていない。
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Memo
・依頼人はグラッチェル=ルエル(伯爵家)
・捜索対象:ルエル所持の奴隷である優香
・俺の記憶が変化している
・地属性は炎・雷属性に弱く、水・風属性に強い。
・水属性は地・雷属性に弱く、炎・風属性に強い。
・炎属性は水・風属性に弱く、地・雷属性に強い。
・雷属性は風・炎属性に弱く、水・地属性に強い。
・風属性は水・地属性に弱く、雷・炎属性に強い。
・犯罪を主体とする小説を扱った者は死刑になる。
・国王に謁見し情状酌量の余地があれば、例外として釈放される。
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