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異世界で求められていたのは、勇者よりも探偵でした  作者: 柊葵
事件1「消えた奴隷」
7/9

 死刑なんて冗談じゃない!!

 確かにあんなふうに悪い言い方はしたが、そこまでじゃないだろう。


 たかが推理小説がどうしてそこまで危険物扱いされているんだ。


 ――どうしてだ、どうしてなんだ。


 確かに違和感を感じるところはあった。


 小説を売った時に商人が浮かべた、あの不気味な笑み。

 図書館で探しても、推理小説のようなものは見つからない。


 そして、この優香の態度。


 凛とした顔をきつく引き締め、こちらの視線を逃すものかと目を見つめてくる。

 こんなに真剣な優香なんて初めて見た。


「どうせあんたのことだから、人を殺す方法が載ってるとか言って売ったんでしょ」


 全くその通りだ。

 なんの反論もできない。


 あの時は仕方がなかったんだ。

 異世界転移したばかりで一文無し。

 加えて、どう生きるかも決まっていなかった。


 くそっ…言い訳を考えていても仕方がないだろう。


「まさか、あんた何の策もなしに売った訳じゃないでしょうね」


 策?

 そうだ、その小説を回収するために俺は探偵を始めたんだ。

 まだ名乗れたものではないが……。


「……探偵を…始めた」


 あまりの優香の真剣さに気圧され、上手く言葉が出ない。


 そりゃ、そうだろう。

 いきなりこの剣幕で迫られた挙句、非は自分にある。

 加えて、それについての対処が『自分がやってみたいから』というなんとも身勝手な理由で選んだ探偵稼業だ。


 なんでこんなことになってしまったんだ。


「なるほどね…探偵になって自分から事件に首を突っ込むことで、小説を引き金として起こった事件を解決し、小説を回収しようと思った訳か」


 当初考えていたことを、惜しげもなく言い当てられてしまった。


 ……それなら、俺はこれからどうすればいいのだろう。


 小説が見つからないと、多くの被害が出てしまうかもしれない。

 しかし、俺と小説の関係を知られたら俺の命が危ない。


 それなら、バレないように黙ってコソコソと暮らすか。

 しかし、商人が他の誰かに捕まって俺の事を吐いたら……。


 ――俺は一体どうすればいいんだ!!


「やっと事の重大さに気づいたみたいね」


「それならどうすればいいんだよ……」


 聞いても意味が無いことぐらいわかっている。

 わかってはいるが、それでもすがってしまう。


 考えることを放棄したい。

 どこか、誰もいないところに逃げたい。


 落ち着け…俺の頭…。


 落ち着いてみると、自分の子供っぽさに反吐が出るな……。


「まぁ、混乱してるあんたに一つ助け舟を出してあげるわ」


「助け舟?」


 つまり、この現状を打破できる何かってことか?

 願ってもないが、そんなものがあるならわざわざ路地裏まで引っ張ってくることもないだろう。

 なら、助け舟とは。


「国王に謁見して事情説明をしたうえで情状酌量の余地があると認められれば、例外として釈放されるそうよ」


 腕を組んで、偉そうに……。


 つまり、仕方がない理由で関わったのであれば、釈放されるってことか。

 確かに仕方がない理由が大半だが、それでも自分が探偵になりたかったという理由だけは自分のためのものだ。

 この理由を隠して謁見か、そんなことできるものなのか。


「まぁ、本当のことを隠して謁見なんてうまくいかないでしょうね」


 考えていることを読むなんて、こいつはエスパーか?

 とりあえず、この見下すような顔が憎たらしい。


「それでも謁見はするべきだろう」


 そうしないと、らちが明かないからな。


「そうね、でも謁見するなら、探偵としての実績をあげておいたほうが良いわね」


 なるほど、確かに探偵としてその小説を探すと言っても、探偵稼業を営む能力すらなかったら認められるはずがない。


 ということはまず、何らかの事件を自らの手で解決しなければいけないということだ。


「まぁ、手近なところは人探しとかだと思うけど、そんなんじゃ説得力に欠けるわね……」


 確かに人探し程度では――。


 あ。


「そういえば、すっかり言い忘れてたんだけど」


「何よ」


 そんなにムスッとしなくてもいいと思うんだが……。


「一応、人探しの依頼を受けてる途中なんだよ」


「へぇ、なかなか仕事が早いじゃない。それでその人は見つかったの?」


「まぁ、探せって言われてたの、お前だからな」


 いやいや、そんなあからさまにため息をつかなくてもいいだろう。

 そんなため息をついたら、老けるぞ。


「どうしてまるで可哀想なものを見る目でこっちを見るのよ」


 おっと、顔に出ていたか。

 気をつけなければ……。


「そりゃため息もつくわよ。どうせ、あのボンボンが私を探してるんでしょ?」


「そうだよ。ルエルさんに頼まれてね」


 もう一度だけ軽くため息をつきながら、優香が図書館の方へと歩み出した。


「仕方がないから、あんたの初めての依頼を達成するためにも、さっさと図書館の問題を解き終えるわよ」


「お、おう。ありがとう」


 すたすたと歩く優香の後ろ姿は、さすがの生徒会長らしく凛々しく、そしてどこか悲しげだった。





―――――――――――――――――――――


⑴ 「ウォータ・ウェポン・スピア」は水属性の魔法で、炎・風属性の魔法を掻き消す。

⑵ この世界、(    )には4つの大陸が存在し、ウバガンが存在するのは(  )大陸である。

⑶ この世界には( )種類の人種が存在し、共生している。

⑷ 異世界人はこの世界で過ごすうちに、記憶が無くなっていく。

⑸ 異世界人が元の世界に戻る方法は分かっていない。


―――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――

Memo

・依頼人はグラッチェル=ルエル(伯爵家)

・捜索対象:ルエル所持の奴隷である優香

・俺の記憶が変化している

・地属性は炎・雷属性に弱く、水・風属性に強い。

・水属性は地・雷属性に弱く、炎・風属性に強い。

・炎属性は水・風属性に弱く、地・雷属性に強い。

・雷属性は風・炎属性に弱く、水・地属性に強い。

・風属性は水・地属性に弱く、雷・炎属性に強い。

・犯罪を主体とする小説を扱った者は死刑になる。

・国王に謁見し情状酌量の余地があれば、例外として釈放される。


―――――――――――――――――――――

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