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異世界で求められていたのは、勇者よりも探偵でした  作者: 柊葵
事件1「消えた奴隷」
6/9

 ――いつまでも思考停止している訳にはいかないな。


 この問題が提示された時点である程度は覚悟していたが、実際の事となるとどうしたものか……。

 とりあえず、これについては優香が戻ってきてから考えよう。

 先に問題を解いておかないと、また優香に小言を言われてしまう。


「まだ終わってなかったの? バカ睦月」


 そうそう、こんな感じに――。


 後頭部に矢の如く刺さる視線が痛い。

 逃げなければ……。


「ちょっと、どこ行くのよ。まさかそうやってサボる訳じゃないよね?」


 あぁ、肩をつかまれた。

 これは…つかむというより、指がくい込んでいる。

 なんて握力をしてるんだ、こいつ。

 きっと、般若のような形相をしているに違いない。


「す、すいません……」


 肩に食い込ませていた指を、やっと離していただけた。

 指は離れてるのに、まだ痛むぞ……。


 なぜ俺はこんなやつを大切な人だと思っていたのだろうか。

 もし、ルエルの依頼を受ける前に戻れるのであれば戻りたい。


「まったく…私はひとしきり魔法のことを覚えてきたって言うのに、あんたは一体何をやっていたのよ」


 この短時間でひとしきり覚えてきたのか。

 こいつの能力の高さは、本当におかしいと思う。

 俺にも少しは分けてほしいものだ。


「まぁ、4問目と5問目は解いておいたよ」

「お、一番気になるところじゃない。どれどれ……」


 優香は答えを見てすぐ、俺が先ほど読んだ本を手に取り読み始めた。

 まぁ、あれを見れば当たり前だよな。


 記憶の喪失と、元の世界への帰還方法。

 異世界転移した身としては気にならないはずがない。


 それにしても、あんな風にページをパラパラめくっただけで本当に読めてるのか?

 1ページ読むのに1秒もかけてないぞ。

 こいつは速読もこなしてしまうのか……。


 そうこう考えている間に全てを読み終えたのか、優香は本を閉じていた。


「確かにこれはちょっと信じがたいわね。だけど、記憶が無くなるっていうのは都合がいいかも」

「都合がいい? 元の世界の記憶が無くなっていくんだぞ?」


 記憶が無くなるなんてたまったもんじゃない。

 推理小説が好きだった自分まで失ってしまうのかと思うと…いや、考えたくもない。


「だって考えてもみなさいよ。元の世界に帰るにしても、帰り方の検討もついてないんじゃどうしようもないでしょ?」

「まぁ、それはそうだけどさ……」


 記憶が無くなってしまったら、元の世界に帰ろうとも思わなくなってしまうのではないか?


「それに記憶が消えていくなら、そのうち帰りたいとも思わなくなって、この世界で幸せに暮らせると思うけど?」

「この世界でずっと暮らすっていうのか!?」


 ――信じられない。

 なんでそんなに冷静でいられるんだ。

 俺は元の世界でやり残したことがたくさんあるのに……。


「そうよ。あんな世界で過ごすより、よっぽどマシじゃない」

「マシなもんか!! お前はいいかもしれないけど、俺にはやり残したことが――」


 気づくと、俺は思わず立ち上がっていた。


 ここは静寂が遵守される図書館。

 周りからの視線が痛い。


 ミルカも瞳を潤わせながらこちらを見てくる。

 まさか俺がミルカの二の舞になるとは……。


 優香に至っては軽蔑のまなざしをこちらに向けている。

 いや、お前のせいだからな?


「と、図書館では静かにしてください……」


 ミルカ、わかってはいるんだよ?


 とりあえず場を収めるためにも、もう一度席に着く。


「……とにかく、俺は元の世界を忘れてこの世界で暮らすことは出来ない」

「はいはい、分かったわよ。とりあえず、さっさと問題を解くわよ」


 くっそ、テキトーに流しやがった。


 俺がイライラしても仕方がない。

 ひとまず気持ちを落ち着かせよう。


「とりあえず、1問目の答えはこうね」


 優香がすらすらと空欄を埋めていく。


⑴ 「ウォータ・ウェポン・スピア」は水属性の魔法で、炎・風属性の魔法を掻き消す。


 水属性が弱点となる属性が二つもあるのか。

 どうやら、本当にこの短時間でひとしきり覚えてきたようだ。


「仕方ないから、非常識なあんたにも分かるように教えてあげるわよ」


 ……むかつく。

 いかん、落ち着け俺の心よ。


 優香が説明するに、属性の種類と優劣はこうだ。


 地属性は炎・雷属性に弱く、水・風属性に強い。

 水属性は地・雷属性に弱く、炎・風属性に強い。

 炎属性は水・風属性に弱く、地・雷属性に強い。

 雷属性は風・炎属性に弱く、水・地属性に強い。

 風属性は水・地属性に弱く、雷・炎属性に強い。


 なるほど、それぞれ二つずつ相性のいい属性と悪い属性を持っている訳だ。

 地属性が植物だとすると、イメージしやすいな。


 植物は炎や雷で燃えてしまう。

 水は植物には吸い取られるし、電気は容易に伝導する。

 炎は水がかかったり、風が吹いたりすると消えてしまう。

 電気は実体のない風と炎には伝導しない。

 風は雨や植物に遮られてしまう。


 よし、分かりやすくなった。

 とりあえずこれはメモっておこう。

 ついでにメモの整理を……。


「ん? あんたいいもの持ってるじゃない。 どこでそれ手に入れたのよ?」


 ――しまった。

 このままでは優香に奪われる。


「もらったんだよ、商人から」

「もらったって、タダで手に入れたって言うの?」


 こいつ、日本語も分からなくなったのか?


「……まさかとは思うけど、その商人に何か売った?」

「そりゃ、一文無しだったからな――」

「ちょっとこっちに来なさい」


 言い終わったか否かというところで、優香がいきなり俺を外へと引っ張り出した。

 ミルカがきょとんとした顔で、こちらを見ている。

 一体こいつは何がしたいんだ?


「ここなら大丈夫でしょ」


 着いたのは図書館のすぐ横にある裏道。

 近くには誰もいない。


 なんだってこんなところに……。


「話の続きよ。あんたが売ったモノって何?」


 なんだ、そんなことか。

 てっきりもっと変なことを言われるかと思った。


 それなのにどうしてこんなに真剣な顔をしているんだ?


「その時に持ってた推理小説」


 俺の答えを聞いて、優香が大きく息を吐きながら頭を掻きだした。


 何かおかしい事でも言ったか?

 確かに推理小説を売ったのは、もったいなかったかもしれないが……。


「あんた、それは絶対に誰にも言っちゃだめよ」

「なんで?」


 たった一冊の本を売っただけだぞ?

 それに誰かに教えて手伝ってもらった方が、遥かに取り戻しやすいんだが……。


「この世界で犯罪を主体とする小説を扱った者は皆、死刑になるのよ」



 ……………………死刑だと!?



―――――――――――――――――――――


⑴ 「ウォータ・ウェポン・スピア」は水属性の魔法で、炎・風属性の魔法を掻き消す。

⑵ この世界、(    )には4つの大陸が存在し、ウバガンが存在するのは(  )大陸である。

⑶ この世界には( )種類の人種が存在し、共生している。

⑷ 異世界人はこの世界で過ごすうちに、記憶が無くなっていく。

⑸ 異世界人が元の世界に戻る方法は分かっていない。


―――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――

Memo

・依頼人はグラッチェル=ルエル(伯爵家)

・捜索対象:ルエル所持の奴隷である優香

・俺の記憶が変化している

・地属性は炎・雷属性に弱く、水・風属性に強い。

・水属性は地・雷属性に弱く、炎・風属性に強い。

・炎属性は水・風属性に弱く、地・雷属性に強い。

・雷属性は風・炎属性に弱く、水・地属性に強い。

・風属性は水・地属性に弱く、雷・炎属性に強い。


―――――――――――――――――――――

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