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異世界で求められていたのは、勇者よりも探偵でした  作者: 柊葵
事件1「消えた奴隷」
5/9

 問題に目を通してみたはいいが、さっぱりわからない。

 特に気になるのは4問目と5問目。

 魔法や歴史のことは知らなくても辛うじて生きていけるが、この類のものは別だ。

 もしかすると、自分達の命にまで影響があるかもしれない。


「この問題の答えは、ユウカさんに持ってきてもらったこの本達の中にあります」


 優香の落とした本は、ミルカの手によって机の上に置かれていた。

 この中に問題の答えがあるのか。

 なんとも用意周到な……。


 まぁ、手始めにいかにも魔法のことが書いてありそうなこの本を――。


「これは私がもらっていくわ」


 ――優香に奪われた。

 先に手に取ったのがそんなに嬉しいのか、こちらが取ろうとしていたことにすら気づいていない。

 優香はまるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように、本のページをめくっている。

 あいつからしたら、おもちゃ同然なのかもしれないが……。


「そ、その本は魔導書なので、読むときは屋上でお願いします」

「屋上? ここで読んじゃダメなの?」


 目を輝かせる優香に水を差したミルカは、申し訳なさそうに尻尾を垂らしている。


 ……そうか。

 普通に考えれば、本を屋上で読む必要は無い。

 しかし、あれは魔導書だ。

 つまり……。


「万が一、魔法を詠唱してしまってもいいように、屋上が魔法演習場になっているんです」


 だから、あんな火柱が立っていたのか。

 確かに屋上が魔法演習場だとすると納得がいく。


「演習場があるなら早く言ってよ~。それじゃ睦月、私は屋上で魔法の練習をしてるから、後の問題はよろしくね」


 なんて投げやりな…と思ったら、もういない……。

 優香は魔導書がよほど気に入ったのか、一声かけただけでさっさと行ってしまった。

 こういう時の決断力と行動力は人並み外れてるんだよな、あいつ。


 ……気を取り直して。

 目の前にある本は2冊。

 さてどっちから手を付けようか。


 俺がふむと悩んでいると、ミルカが片方の本を手に取った。

 ミルカの尻尾は元気を取り戻し、ルンルンと振られている。


「私のおすすめはですね…ズバリこの『異世界人の動向調査』です!!」


 ミルカがそう言って本を見せつけた直後、図書館中から痛いほどの視線と咳払いの音が……。

 急いで周りに何度も頭を下げるミルカだが、尻尾の元気は衰えていないようだ。


「と、とりあえず、読んでみて下さい」


 タイトル的に面白くはなさそうだが……。


「この本はですね…タイトルこそお堅いものの、中を開いてみてびっくり! 登場する異世界人さん達が、みんな面白いんです」


 一人だけが載っている訳ではないのか。

 それより、面白いとはいったいどういうことなのだろうか。

 タイトルからして学問書っぽいが……。


「詳しく話してしまうとつまらなくなってしまうので、ぜひ読んでみて下さい」


 すかさず、ミルカが本を押し付けてくる。

 少し上目遣いでこちらを見つめられ、もはや断りようがない。

 まぁ、断る気もないんだが。


 そこまで勧めるなら、本当に面白いのかもしれない。

 どれから読んでも変わらないし、とりあえず読んでみるか。


「ありがとうございます、ミルカさん」


 俺が本を受け取ると、ミルカは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 今にも幸せが溢れ出しそうなその顔を見ると、目の前の問題に悩んでいる俺も少しは楽になった気がする。


「えへへ…多分私の方が年下ですし、私のことはミルカと呼んでください」


 確かに見た目通りだとすると、おおよそ10歳くらいに見える。

 まぁ、本当かどうかは定かではないが、そういうことにしておこう。


「えっと、それじゃあ…よろしく、ミルカ」

「はい!」


 満面の笑みを浮かべ尻尾を振る姿は、まるで自分のことを慕ってくれる妹が出来たかのようだった。

 ここにもし高校にいたようなロリコンがいたら、頭のねじを全て吹っ飛ばしてるんだろうな……。


 ……そんなことは置いといて。


 『異世界人の動向調査』

 さて、どんな本か。

 表紙を開き、目次に目を通す。


 調査1 対象:22歳・男

 調査2 対象:12歳・女

 調査3 対象:82歳・男

 調査4 対象:35歳・女

 調査5 対象:年齢(不詳)・性別(おそらく男)

 調査まとめ


 ほぉ、五人も調査できたのか。

 しかも最後の奴なんてよく調査できたな。

 絶対オネエだろ。


 とりあえず全てのページを読まなくても、まとめの部分だけ読めば問題には答えられるだろう。

 本のページを軽くめくっていく。


 そんなに目に引っかかるようなページは無いな……。


 ストップ。

 まとめまであと少しというところで、ページをめくる手が止まってしまった。

 なんだ…このページは。



     *****


助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ……


     *****



 見開きすべてが『助けてくれ』という文字で埋め尽くされている。

 どうも調査5人目のページのようだ。

 なるほど、オネエの調査か。

 ……少し戻って読んでみよう。



     *****


 調査開始20日目。

 調査対象がついに行動に出た。

 話を聞くと、狩りに出るらしい。

 男の身体をしながらも、女の話し方をする調査対象が行う狩りとは、一体どんな狩りなのだろうか。


 中心街に出たところで、調査対象の姿が消えた。

 今でも信じられないが、空気に溶け込むように消えたのだ。

 次の瞬間、私の視界が暗転した。


 この後、私は……。

 だめだ、思い出してきた。

 そうだ、あの時の気持ちを書きだしてすっきりしよう。


     *****



 この後から『助けてくれ』のオンパレードが始まっている。

 さては調査していた男性が狩られたんだろう。

 ご愁傷様。


 さて、まとめは……。



     *****


 以上より、異世界人はこの世界で生活するうちに前に住んでいた世界の記憶が無くなっていくようだ。

 それに伴うパニック症状は観測されなかったが、起こってもおかしくはないだろう。

 また、4人目の調査対象が突然発光し消えたことに関しては、この世界でいくら調べても消息が分からないことから。前に住んでいた世界に帰ったということで間違いないだろう。

 そのような現象が起きる原因は分からないが、考えられる条件としては消える直前まで調査対象が前の世界から大切にしているという日記を読みふけっていたことぐらいだ。


     *****


 記憶が…無くなっていくだと?

 それに元の世界に帰ることが出来るのか!?


 想定外の情報に、頭の中が真っ白になった。


―――――――――――――――――――――


⑴ 「ウォータ・(  )・スピア」は( )属性の魔法で、( )属性の魔法を掻き消す。

⑵ この世界、(    )には4つの大陸が存在し、ウバガンが存在するのは(  )大陸である。

⑶ この世界には( )種類の人種が存在し、共生している。

⑷ 異世界人はこの世界で過ごすうちに、記憶が無くなっていく。

⑸ 異世界人が元の世界に戻る方法は分かっていない。


―――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――

Memo

・依頼人はグラッチェル=ルエル(伯爵家)

・捜索対象:ルエル所持の奴隷

・逃げ出した原因は不明

・可愛い?

・身長は150センチ程

・頭がいい

・失踪したのは優香

・俺の記憶が変化している

―――――――――――――――――――――

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