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異世界で求められていたのは、勇者よりも探偵でした  作者: 柊葵
事件1「消えた奴隷」
3/9

 依頼人のルエルと別れて、どの地区へと向かうか少し考える。

 スマホで撮っておいた案内板によると、中心部には王城があるようだ。

 王城付近だと人数も多くなるだろうから、聞き込みにはうってつけだろう……。

 加えて、目的の図書館も中心部に存在する。

 ウバガン中心部へと歩みを進めながら、もう一つの問題について思考を巡らせる。


 失踪した奴隷は、優香だった。


 優香が転移するようなことなんて何もなかったはずだ。

 成績優秀、容姿端麗、それに加えて生徒会長をこなして周りからの信頼も得ている。

 確かに好奇心旺盛すぎて自分勝手だったりする時もあるが、異世界転移させて奴隷にまで貶められるような奴ではないはずだ。

 それなのに、どうして優香がこの世界に転移しているんだ……。


 ――いや、ちょっと待てよ。

 本当に優香が転移するようなことは何もなかったのか?

 ……少し記憶を整理してみよう。

 確か、転移する直前まで俺は高校から帰宅していた。

 そして、気が付いたらこの世界に転移していた。


 問題があるとしたらここだ。

 まず、俺の服装と持ち物が変化している。

 制服から私服へ。

 通学鞄から推理小説へ。


 …そういえば、あの商人は何故俺が大切なものを持っていると分かったのだろうか。

 確かに出し渋りはしたが、それだけで決定的な証拠にはならないはずだ。

 まぁ、何かしらの能力を使った訳ではないだろう。

 大切なものを所持しているかどうかを見破るなんていう、ピンポイントな能力があるとは思えない。

 加えて、もしこちらの持ち物を把握して価値が分かるんだったら、スマホや充電器を俺には渡さなかっただろう。


 となると、大方この世界に転移してきた他の人達が同じように大切なものを持っていたからだろう。


 確かにそれなら色々と納得がいく。

 商人はなぜか、俺が所持品を売るしかないことを最初から知っていた。

 それは今まで異世界から転移してきた人から買い取ってきたからだろう。

 それだけの数をこなし、加えてそれが大切なものばかりだったら、大切なものを持って転移してくるものだと思うだろう。


 ……これは優香が転移したこととは関係ないな。

 道のりはまだまだありそうだ。

 もう一度考え直そう。


 この世界に転移した直後に俺の服装と持ち物が変わっていた。

 おかしいのは間違いなくここだ。

 なぜ変わっていたのだろうか。

 着替えたりした覚えはおろか、帰宅した覚えすら全くない。


 もしかして、着替えたりした記憶がなくなっているのか?

 それとも、この服に着替えてからの記憶がまがい物なのか。

 いずれにしろ真相は分からないが、一つだけは分かった。


 ――俺の記憶が変化している。


 これでは元の世界で過ごしていた記憶が正しいという証拠はどこにもない。

 つまり、優香や他の友人、知人。

 ましてや、家族までもが転移している可能性だってある。


 なんていうことだ。

 これは小説やアニメで描かれているような安易な異世界転移ではないのかもしれない。

 やはり、この世界にもっと詳しくならなければ……。

 そして、人々がどうして転移してくるのかを突き止めなければならない。

 これ以上、優香のように大切な人々を苦しませたくはない。


 まず、目指すは図書館だな。

 常に全国模試トップ3に入っている優香のことだ。

 どうせ、転移した直後に俺と同じようなことを一瞬で考えたのだろう。

 そして、一時的にも奴隷として安定した生活を送りつつ、様子を見てルエルの元を抜け出した。

 今は図書館でこの世界について調査をしているのだろう。


 しかし、ヘマをやったようだ。

 ルエルの依頼を受けたのが俺だったのは、奇跡だと思う。


 はてさて、そんなことを考えているうちに周りが賑やかになってきた。

 どうやら、気づかぬうちに中心部に入っていたようだ。

 よく見ると、周りを歩く人々の中にはルエルのように色のついた服装の人もちらほら見える。

 獣人も色物の服を着ているところからして、獣人の中にも貴族はいるようだ。


 さて、図書館はどこだろうか。

 すっかり使い慣れたスマホを操作し、画像フォルダを開く。

 そういえば、何も考えずこのスマホを使っているものの、以前使用されていたような痕跡は何も残っていなかった。


 そう、何一つ残っていなかった。

 画像を完全に消すには一週間程の時間がかかる。

 それに加えて、メールやアドレス帳、その他のアプリまで全部消されていた。

 あの商人に売るまでの時間でとても消しきれる量ではない。

 もしかしたら、機械に詳しい人が転移しているのかもしれない。

 ――と思ったが、設定の中に『すべてのコンテンツと設定を消去』という項目を見つけた。

 まさかこんな便利な機能があるとは思わなかった。

 俺もまだまだ知識不足だな……。


 ふと角を曲がると、一際大きな建物が目に入った。

 ざっと一軒家四つほどだろうか……。

 装飾も周りの家よりも豪華だ。

 あれが図書館で間違いないだろう。

 とりあえず、さっさと向かわなければ。

 優香が本を読み漁って、迷惑をかけているかもしれない。


 そんな俺の予想をはるかに凌駕した出来事が目の前で起きた。

 突然、図書館の屋上から火柱が上がったのだ。



―――――――――――――――――――――

Memo

・依頼人はグラッチェル=ルエル(伯爵家)

・捜索対象:ルエル所持の奴隷

・逃げ出した原因は不明

・可愛い?

・身長は150センチ程

・頭がいい

・失踪したのは優香

・俺の記憶が変化している

―――――――――――――――――――――

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