第8章 報告
「ちゃんと、データはそろった?」
個室に鍵をかけてから、俺は異空間に飛んだ。
異空間では、俺は赤い髪を後ろで無造作に束ね、真っ赤なパーカを着込んでいる。真紅の短パンに、ひもが赤いサンダル。要は、赤ずくめだ。
既にそこにはユズハがいた。ツインテールを揺らして、俺を見る。
「さっき見つけたデータだ。役に立つと思うが」
そういって俺はさっきまで読んでいた本をユズハに差し出す。
「いろいろと興味深い内容が載ってたが、お前は興味ないんだろ。お前が探してるのは、ここだ」
そう言って開いたページを覗いたユズハは、
「……なるほどね」
と呟いた。
何日か前。
俺は、ユズハに頼まれた。
「アルトは、人造人間について調べてるのよね。じゃあ、ちょっと頼みがあるんだけど」
戸惑いを隠さず現れた俺にユズハはそう切り出した。
「なんだ?あまり複雑なことはできないが」
「う……ん、えっとね、人造人間の作りについて調べてほしいんだけど……」
「作り?」
俺は首をかしげる。人造人間の作りは俺も調べているが、興味がないといったのはユズハではないのか。
「そ。どうやって動くか、とか心臓部分はどこか……とか」
「なんでそんなこと知りたいんだ?」
「今は言えないわ……そのうち、教えるから」
曖昧な笑みとともに、ユズハは言った。
じっと俺を見つめてくる。その目力に、俺はうなずくしかなかった。
「わかった。なるべく早く調べてみるよ」
腑に落ちない気持ちを隠しつつ、そういうのがやっとだった。
「助かるわ」
こんなやり取りがあって今に至る。
「ふんふん……人造人間には心臓と脳があって、どちらかが止まるとその人造人間は死ぬ……ってことね」
ページをじっと見つめたユズハは、しばらく何やら考えていた。
「死ぬというか、動かなくなる、ってとこか。人造人間に死という概念はないからな」
「なるほど……」
ユズハは何やら真剣に俺が開いたページを見ていた。
気になったけど、聞いたところでユズハが答えてくれるとは限らない。
「ありがとう。参考になったわ。いつか、お礼はするわね」
満足したのか、ユズハは本を閉じると、俺に返した。
俺は何かよくわからないまま、「気にするな」と答えていた。
思えば……このとき、俺はもう少し冷静に考えていればよかったんだ。
そうすれば……カンナも俺も、死ななくて済んだのに。