第6章 記録2
最後に思いっきり体を伸ばしてから、僕は本に目を戻した。
年季が入って黄色くなった本のページを、慎重にめくる。
本の続きには、魔術師が僕らを作った理由が書かれていた。
魔術師ははじめ、不老不死になりたかったそうだ。
いつまでも死なない体を、彼は求め、不老不死の研究と実験を始めたのが50歳後半。
永遠に生きて、永遠に人形を作り続けたい。彼はそう願っていた。
しかし、その研究は難しすぎた。不老不死の方法を見つけることなく、彼はどんどん年を取っていった。
彼は認めざるを得なかった。自分は、あと50も生きられずに死ぬ。
彼は考え方を変えることにした。
自分は、もうすぐ死ぬ。ならば、自分とは異なる、永久に生きられる存在をこの世に生み出せばいい。
そうだ、自分の形見だ。いつまでも死なない、自分が人形を作っていた記録を、永久に残すんだ。
彼は、残った財産のすべてをつぎ込んで、実物大の人形を、4体作った。見た目が被らないように、できるだけ人間らしく。
そして、出来上がった人形に、永遠の命を宿すんだ。
そうして生命の生成が行われた。
ただ生きているだけではつまらない。感情を与え、人間らしく生活してほしい。
そうして人造人間たちに感情が与えられた。
自分の見ることができなかった未来の世界を、彼らに見てきてほしい。
そうして、4体の人造人間が、この世に送り出された。
その直後、彼は死んだ。
何も思い残すことはなかったと、本には書いている。
理解できないな……。
俺は本を閉じ、再び思い切り伸びをする。
人間というのは生まれては死ぬ生き物だ。それは、自然の流れ。
それに逆らってまで生きようとした魔術師の気持ちが、俺には理解できない。
それは俺が、不老不死の人造人間だからだろうが。
本には魔術師が残した、人造人間の造りについても書かれていた。
それも、相当詳しく。
「……これか、ユズハが言っていたのは」
俺はそこの部分に何度も目を通し、ユズハの言葉を思い出す。
「とりあえず……いくか」
誰もいない教室で、僕は呟いた。
本を鞄に入れ、チャックを閉じると、教室を出る。
階段へは向かわず、行くのは今もっとも人目がない場所。
あえて言うと男子トイレの個室だ。
なぜなら、異空間にいる俺を、誰にも見られないで済むから。