第5章 陰謀の始まり2
「何を言ってるんだ……?」
異空間で、僕はユズハに聞いた。
ユズハは、自分の言葉が僕にどれだけのインパクトを与えたのか知っているのか知らないのか、楽しそうに笑っている。
僕は、嫌悪感からか、恐怖からか、鳥肌が立つのを感じる。
ユズハは不敵な笑みを浮かべて、口を開いた。
「言葉通りよ。人造人間なんて、4体も存在する意味がないじゃない。もっともすぐれた1体だけで」
「……いきなり何を言い出すんだ」
ユズハは何を言いたいんだろう。存在する意味がない……だって?
「魔術師は僕ら4体を作ったんだろ。じゃあ、それでいいじゃないか」
「それが、気に食わないのよね」
「どこが気に食わないんだ?」
「人造人間ってのは、人智を超えた存在。言ってしまえば神のようなものよ」
「それは……そうだろうな」
「だったら、分かるでしょ?神は、一人でいい。4体もいらない」
それは……それは、どういうことなんだろう。ユズハはそれを僕に言って、どうしたいんだろう。
全く理解できない。思考がぐるぐると巡回して、気持ち悪い。吐きそうだ。吐くものなんてないが。
「つまり……どういうことだ」
かろうじて、その質問だけをユズハに放った。
ユズハは一瞬、不気味な、とても不気味な笑みを浮かべ、唇を不自然に歪めて言葉を漏らした。
「あなたたちを殺して、あたしが、神になる」
あまりに唐突すぎて反応が一瞬遅れた。
僕たちを……殺す。
ユズハが神になるとかはどうでもよく、彼女はそう言っているんだ。
目の前がくらっとした。気のせいじゃなく、眩暈がした。唐突すぎる出来事に、僕の貧弱な脳はついていけない。いや、よほど強靭な精神の持ち主でも、いきなり殺すとか言われたら、脳みそがスパークするだろう。間違いない。
「な……?」
どうしてそんな恐ろしいことが言えるのだろう。僕たちを殺して、ユズハは何になるというのだ。
「本気なのか……?」
声が震えていた。自分でも、そのことに驚いた。僕は、無感情キャラなのに……。
僕は、恐怖していた。いきなり呼び出して、殺人宣言したユズハに、僕は、怯えていた。
「当たり前じゃない。今嘘をついて、何になるというの?」
相変わらずユズハは笑っていた。嗤っていた。怯えている僕を見て、心の底から、嗤っていた。
「なぜ……僕にそのことを言う?」
「大した理由はないわね。まあ強いて言うなら、あなたを殺したら派手にアクションを起こす人がいるから?」
「僕を殺したら……アクションを、起こす……?」
もう何もわからなかった。愚かな僕の脳は理解を放棄した。ユズハの言葉は、脳に届く前に、爆散して消滅した。
「やっぱり気づいてなかったんだね。その様子だと」
「いや、別にそんなことはどうでもいい。僕が大人しく殺されるとでも思っているのか?」
「思ってないわ。だから、時間をあげる。明日の昼休み、カフェテリアに来なさい。決着をつけましょう」
「来なかったらどうする気だ?」
「その時は、あなたの代わりにアクアかアルトが犠牲になるわね」
「……!!」
アクアが、殺される。この、何を考えているかわからない不気味で恐ろしい人造人間によって。
なぜだろう……僕には、アクアを守りたいという気持ちがあった。
どこから来るのかわからないけど……アクアにだけは、手を出させない。
自分でも驚いた。アクアもアルトも、同じただの人造人間で、そこまでアクアにだけにこんな感情を持つなんて。
とうとう脳がバグったか?かき回されすぎて、エラーを起こしたか。
そんな、ラブコメによくあるような感情なんて、僕は持ってないと思ってたのに。
パニックに陥っている僕を嘲笑するように、ユズハはフンと鼻を鳴らした。
「まあ、どうするかはあなたの判断に任せるわ。それじゃあ、明日の昼休みに……会えたら、いいね」
それだけ言って、ユズハは僕の前から姿を消した。いや、現実に戻った。
「ユズハ……」
僕に課せられた任務は重過ぎる。
殺されそうになりながら誰かを守るなんて、考えただけで両肩がずっしり下がる。
それでも……僕は、アクアを守るんだ。アルトも。
腰のポーチから、持ちなれた銃を抜いた。
ずっしりとした重みが両手にかかる。気持ちが、だんだん落ち着いていく。
覚悟は、できた。たまには、誰かを守るためにこの銃を撃っても、いいだろう?
ほかでもない僕自身に、僕は聞いた。
返事はなかったけど、満足した僕は、現実に帰還した。