第2章 陰謀の始まり
『昼休み、カフェテリアに来てください』
そんな手紙を受け取った僕、カンナは授業そっちのけで考えていた。
そんな手紙をもらったことが生まれて、いや造られてこのかたない僕は、どうしたらいいかまったく見当がつかなかった。
僕にそんな手紙を出しそうな女子は……まずいない。これは、自信をもって断言できる。
無口、無表情、無感情。さらに身長も高くないため、人間の女子は僕に見向きもしない。
『人間の』女子はね。
僕は同じ人造人間の女子……ユズハとアクアの顔を思い出す。
ユズハ、またを湯浅ハル。桃色の髪を持ったいかにも女子って感じの人造人間だ。
アクア、またを荒川ミクは、水色の髪を持ったおとなしい系の人造人間。
ユズハが僕にこんな手紙を出すとは考えられない。あーいう女子は、とにかく外見重視。その次、気前の良さと、家系。……とは、同じく人造人間のアルトの言葉だ。
そもそもユズハは人造人間なんだから、家系とか関係ないし……とりあえず、除外。
じゃあ、アクアは……アクアは、どうなんだろう?
おとなしい系女子は、おとなしい系男子に惚れる。これもアルトの言葉だが、確証はない。むしろ、疑わしい。
僕には何も分からない。僕は、ただの無口な人造人間なんだ。そっち系には、一切の知識がない。
授業をスルーして考えた末、僕はとりあえずカフェテリアに行ってみることにした。
悪戯とかそういう類だろうとは思っていたんだけど、まあそれも行ってみたらわかる話だ。
それでも、ほんの少し、期待していたのも事実だ。ほんとうに少しだけ。お年頃ってやつかなと一瞬考え、すぐに否定する。
そんな感情、僕は持ち合わせてない。
何とも言えない心情を抱いたまま僕はカフェテリアに入る。
昼休みのカフェテリアは、にぎやかだ。食券売り場にズラッと人が並び、ざわざわと騒がしい。
正直僕は、こういった空間が苦手だ。カフェテリアは、あまり、というか一度も来たことがない。
さっさと帰ろうと思ってあたりを見回した僕は、
「……え?」
そこに立つ湯浅ハルの姿に、驚いて一瞬言葉をなくした。
「ちょっと込み入った話なんだけどね……」
湯浅ハルは僕を見るや否やそう切り出した。
ややカールのかかった髪は、胸までの長さ。前髪を右に流し、ピンクのピンでとめている。
湯浅ハル。ユズハの人間の姿。つまり、こいつは、人造人間。
湯浅ハルは、僕に椅子に座るよう促した。
自分も向かいに座ると、口を開く。
「ここで話してもいいんだけど、ちょっと聞かれたらマズいから、異空間、来てくれない?」
「何の話なの……?」
「人間に聞かれたらマズい話。詳しくは向こうでいうから、とにかく来てよね」
僕にはまるで見当がつかなかった。
わざわざこんなところで話さなくても、放課後、二人になろうと思えばいくらでもなれる。
「……なんで?」
「あなたにだけに言っておきたいことがあるの。つべこべ言ってないでさっさと来る!!」
そんな無茶な、と言いたかったけど、ユズハは問答無用というように僕を睨む。
「……わかったよ」
やや憮然としながらも、僕はおとなしく異空間へ行くことにした。
僕ら人造人間には二つの姿がある。
一つは、学生バージョン。僕は永井カイト、アクアは荒川ミクというように、人間に化けた姿だ。
もう一つ。それは、僕らの本来の姿。『魔術師』が僕らを作った時のままの姿。早い話がカンナやユズハだ。
しかし、人前でこの姿をさらすわけにはいかない。そこであるのが異空間だ。
異空間では僕はカンナ、湯浅はユズハの姿になる。本来の戦闘能力も自在に発揮できる、人造人間が自在に出入りできる、亜空間だ。
異空間にいる間、学生バージョンの僕らは現実世界で動きを止めている。異空間での1時間は、現実の20分だ。
「行くしかないか……」
そうつぶやいた瞬間、現実の僕は動きを止め、僕は異空間へ足を踏み入れた。
「遅いよ、カンナ」
湯浅ハル、いやユズハは桃色のツインテールを揺らしながらそう言った。
着ているのは、カラーが桃色のセーラー服。リボンは赤。チェック柄のスカートは膝上で、長い脚を淡いピンクのハイソックスで包んでいる。
「なんだよ、話って」
「えっとね……」
ユズハは一度間を置き、僕を見るといった。
「この世に人造人間は4体もいらない」
顔を上げ、ユズハと目が合った僕は、背筋に寒いものを覚えた。
ユズハは、獲物を狩るハンターの目をしていた。