第16章 自殺
「俺のせいで……俺のせいで、こんな……!!」
何度も地面をバンバンと叩き、呻き声をあげ続けても、カンナはビクともしない。
横たわるカンナは、冷酷に自分の死を表現している。
「俺なんて……いっそ……」
息を切らして走ってきた俺の目にまず飛び込んできたのは、倒れたカンナの姿だった。
その体は冷たく、ただの人形同然だった。
走ったことによって高鳴っていた俺の心臓が、グシャリと握りつぶされた。
そして、何故かカンナの隣にユズハが倒れていた。
見たところ、ユズハは気絶しているが死んではいないようだった。
首筋にできた大きな痣から察するに、アクアと戦闘になったんだろう。
死んでいないのは、心臓のことをアクアが知らなかったからだろう。
でも……、そんなことは、もうどうでもよかった。
妙なことを急に言い出したユズハに責任があるとか、カンナを殺したのはユズハだとか、そういうのは本当にもうどうでもよかった。
心の中から、思いの丈があふれ出して、どろどろと口から吐き出されていく。
「畜生……畜生……!!」
制御することは不可能だった。
自分を責めたてる言葉が、偽物の心を蝕んでいく。
「俺のせいで……俺のせいで……!!」
もう俺がここにいる価値は、ない。
俺はもう、生きていられない。
「俺なんか……死んでしまえ」
そういった瞬間、地面についていた両手に、炎が生まれた。
これが、俺の武器。カンナは銃、ユズハは光線、アクアは剣、そして俺は、炎。
そして今は、自殺の道具。
小さかった炎が、渦を巻き、オレンジ色の火の粉を散らしながら大きくなっていく。
バスケットボールくらいの大きさになった炎を、俺はしばらく見つめていた。
迷いは、無かった。
炎をまとった両手が、胸に触れる。
炎はすぐに俺の薄い服を焦がす。
服はすぐに灰になって、地面に落ちた。
肌に直接、熱が伝わってくる。
でも、不思議と熱いとは思わなかった。
炎は「造られた身体」を蝕み、心臓部に達しようとしていた。
静まり返った異空間に、炎の燃えるチリチリという音だけが小さく響く。
焼かれた心臓部は、ゆっくり、しかし確実に、その動きを止めていく。
なんだか、悪い気がしなかった。
むしろ、どこか、心地よかった。
炎の温かみが、壊れた心に、ジンジン響いた。
ドクン……ドクン……
かすかに聞こえる心臓の音がどんどん小さくなり、
ドク…………
やがてその動きを止めた。
全身から力が抜けた。
両手の炎は、いつの間にか消えていた。
俺は眠るように地面に崩れ落ちた。
そのカサリという音を最後に、異空間は静まり返った。